■ラドクレラド茶にてのクレラド
 帰宅したアパートメントのどこにも灯りがついていないことに首を傾げながら、ラッドはリビングの明かりをつけた。人の気配のしない広い空間の中、冷たい空気がぽっかりと沈んでいる。ダイニングに軽食を済ませた痕跡や、同居人が朝出かけるときに持っていたはずの暗い色をしたコートが椅子にかけているのを見るからに、どうやら帰宅していないわけではないらしい。
 ラッドはジャケットを脱ぎ、ソファへそれを放り投げると、物音に注意しながら心当たりのある部屋へと向かった。シャワーの音もしない、そして特に目立った趣味もない赤毛の男は、暇な時一人で何をするかと言ったら、散歩か昼寝ぐらいである。
 突き当りを右に曲がって暗い室内を覗き込めば、ダブルで男二人が寝るとか空しすぎるだろというラッドの意見によって設置されたシングルベッドが二つ並んでいる。純白のシーツも暗闇の中では薄く藍色に沈んでおり、そしてラッドの予想通り、右側のクレアのベッドの中には人間であろう確かな膨らみがあった。
 こいつは飯食うことと寝ることと風呂に入ることしか脳がねぇのか。犬か!などと心の中で罵りながら、不機嫌になる顔を自覚しながらベッドの横へと歩み寄っていく。
 「おい・・・・・っ!?」
 ラッドがシーツを捲ろうと手を伸ばした瞬間、突然足に衝撃が走った。痛みではなく、達磨落としのように後方から膝部分を前に上手く押されたのだ。腰をすとん、と落下させるかのような形で崩れ落ち、無様にもクレアのベッドの上で受身を取る。自分が背後からの襲撃に気がつかなかったことより、寝ているとはいえ、クレアが第三者が家に入り込むことに関して反応しないなんて、という一種の絶望感と恐怖、そして相変わらず感じる高揚感で背筋をぞっと凍らせて、ラッドは素早く体を反転して背後に立つ人間を確認しようと身を起こした。
 「お帰り」
 「・・・・・・・・」
 そして、ラッドの背後から襲撃を成功させたクレアは、暢気にも中途半端に手を上げながら笑っていた。反射的に足払いをかければ、まるで縄跳びをするかのようなフットワークの軽さでラッドの足を避け、未だしゃがみこんだままのラッドの胴体部分を足で挟み込む。ラッドの上に足を開いた状態で仁王立ちしながら、クレアは「お帰り。ご飯にする?お風呂にする?それとも俺?」とにやにや笑った。最低の上に最悪だ。恨めしげに睨み上げながら、「これ何だ」とベッドの上の膨らみを指差す。
 ああ、と一瞬そっちに視線を向かわせながら、クレアは自慢げに言い放つ。
 「ラッド用の罠」
 「・・・てめぇは同居人に罠張って何するつもりだ?場合によっちゃ本気でしばくぞ」
 「猛獣は檻にいれなきゃだろう?」
 「人から逸脱した覚えはねぇ」
 「そうなのか?」
 そうだよ!
 口に出すよりも早く、クレアが「それじゃあ、」と新たに言葉を紡いだ。薄暗い室内の中、リビングから差し込む灯りだけが頼りだが、悲しいことにその灯りは見たくないものだけをラッドの目の前で顕にさせる。
 「獣だって判明したら、ラッド、これから首輪つけてくれよ」
 「猛獣使いにでもなるつもりか?ああ?」
 「いいや、まぁ、理由を言うなら、俺の知らない所で勝手にラッドが死ぬの、嫌だなって思っただけだ」
 要領を得ないクレアの言動に、まさかこいつ酔っ払ってるんじゃねぇだろうな・・・いや、訳わかんねぇこと言うのはいつもか、なんてことを思っていればベッドに体を押し付けられた。呆然としていた間にクレアはいつのまにかしゃがみこんでおり、ラッドと顔の位置を並べると、噛み付くように唇を合わせてきた。歯列を割って入り込んできたクレアの舌を追い返そうとすれば、ぐちゃ、と唾液が絡まる音を一際高く上げて、クレアの舌がラッドの舌を絡め取った。押されているせいで逆流してきた唾液で窒息するかもしれない、なんて阿呆なことをぼんやり思っていれば、クレアの両手が無遠慮にラッドの衣類にかけられてきた。ネクタイを外された音がしたかと思えば、あっという間にシャツのボタンは既に外されていることになっている。こいつの器用さはもっと別の分野で使うべきだし、そして暴力的なことをするのにまったく抵抗を持たないくせに、服に優しいなんておかしくねぇ?なんて思う。
 そんなことを思っているうちに、クレアの片手がラッドの腹部に這わされた。ひたり、とついてきた生暖かい体温に顔を顰め、ラッドはキスを止めさせようと頭を振った。上を向かされてキスをされているので、己の体が確認できないのだ。
 煩わしいとでも思ったのか、クレアの左手がラッドの後頭部の髪を鷲づかみにして頭を固定してきた。この野郎、と心の中で悪態を吐くが、声も禄に出せない。無理に声を上げようとすれば、「はっ、ふ」とか気の抜けた呼吸音しか出ない。
 調子に乗るなよクソ餓鬼が・・・!とラッドは頭に血が上ってしまったせいでやってはいけないことにした。口の中に侵入していたクレアの舌がぐいぐいと押し込められているのをいいことに、一応手加減はしたが、がり、と音が立つほど強く噛んだのだ。
 「・・・・・・・・」
 顰められた眉を間近で確認して、よし、離せ色情魔と思えば、口の中に段々とクレアの血液の味が広がっていく。少ない量というわけでもないのに、クレアはそれでも舌を引っ込めない。・・・舌噛まれたなら引けよ!とラッドは自分で噛んでおきながら相手の心配をしたのだが、クレアはもはや血なんてないとでも言うかのように、歯の裏側から歯茎、歯列を隅から隅から舐め取っていく。
 「んぐっ・・・・・くっ、かはっ!」
 ようやく口を離されたかと思えば、口の中に溜まった唾液とクレアの血で窒息しかける。反射的に吐き出せば、シーツごとラッドの顎を薄紅色に濡らした。キスで窒息死なんて洒落になってねぇよ・・・!と呼吸を楽にするために喉に絡まった唾液を吐き出せば、「躾がなってないぞラッド・・・」と恨みがましい声で言われた。あえて言うなら、躾がなってないのはてめぇだよ。
 クレアは口をもごもごさせながら「ああ・・・あんまり酷くないな」と何を基準に言っているのか分からないがそう呟き、やれやれと溜息を吐きながらラッドのベルトを手際よく外した。
 「それでラッド。思うんだが、猛獣っていうのは謝罪ができないものだと思うんだ。そんなわけで、人間であるラッドは俺に何か言うことはないか?」
 「悪い」
 「言葉一つで許されるなら警察はいらないだろう」
 殺し屋に言われたくなかった。
 クレアは少し思案した後、「今日、俺が下な」と呟いた。え?と目を見開くラッドに、「どうした?不満か?」とニヒルに笑いかけ、クレアはゆっくりと体を起こした。こいつのことだから俺に血を流させたりしたんだから、俺にあまり動かさせるなよとか言って上になるとか言うかと思ったんだけれど。
 しかし、そのラッドの予想はこの後、半分当たる。
 「俺は血がなくなったから、今日はお前が上で動け」
 死ねよ。



 ワイシャツを羽織った状態の姿でクレアの体を反対に跨って、ラッドは何度目になるか分からないが屈辱と羞恥と自分が今何をやっているかというその事実に頭が壊れそうな気持ちで、目の前の男性器に唇を押し付けた。陰毛を割って裏筋を舐めれば、薄く笑う声が室内に響いた。何も聞くんじゃない、と心に言い聞かせながら、棹の先端に舌を這わす。緩く立ち上がってきたそれにくらくらしながら、ラッドは同じく己の下半身に手を伸ばしてきたクレアの手にぎくりを体を強張らせた。ぬちゃ、と嫌な音を立てて後孔に生暖かいものが触れる感触がする。
 「ひっ・・・」
 腹部が痙攣して喉が引き攣った声をあげる。よくそんなところ普通に舐めれるな、などとどこかで冷静に思うこともあったが、実際それどころではなかった。声を押しとどめるためにもクレアの棹を唇で挟み込み、なんとか勃たせるために集中する。
 「ああ・・・なんか・・・俺の舌の血がついて・・・・・・・・処女みたいだ」
 「お前はほんと黙ってろよ!」
 やけに冷静なクレアの言葉に血管が切れるのを感じながら、突如舌ではなく冷たい液体が臀部に垂らされたことによって唇を噛み締め、ラッドはシーツを握り締めた。
 「口休んでるぞ」
 「うっせぇ・・・あほ・・・」
 もはや口で罵ることしかできず、ラッドは呻くように呟いた。そんな姿に低く笑って、クレアは目前にあるラッド自身を右手でやわやわと撫でながら、潤滑油をたっぷりと垂らした指を一本、ぷつりと後孔へ差し入れた。びくりと下肢を震わせて背を弓なりに反らせて、ラッドが噛み締めたような声を上げる。そんな気丈な姿になんとなく虐めたい気分になってきて、クレアはぬるぬると出し入れを繰り返していた指を一本抜き取り、すぐに二本目を飛ばして三本の指を突き入れた。
 「っあ!?まっ、いっ・・・!」
 「平気平気。切れてないから」
 そういう問題でもない!!
 しかし潤滑油にならされてしまっているせいか、ラッドが意識している以上にラッドの体は難なくクレアの指を飲み込んでいる。ぐちゃぐちゃと液体の絡み合う音が響く度、羞恥でラッドの耳が紅潮していった。
 「あ、は、ぐ・・・っ、っぁ!」
 「ここだっけ?」
 きゅうきゅうと締め付けてくる内壁の奥にあるぷくりと膨らんだ先を指先で擦れば、びくびくとラッドの肩が震える。素直な反応にくつくつと笑い、クレアは十分に蕾内を蹂躙してからその指を引き抜いた。
 「っ、あー・・・・・・」
 はぁ、と漸く一息つけたのか肩を落とし、ラッドが体を起こす。指を引き抜いたせいで溢れた潤滑油がラッドの太腿を伝ってシーツを汚した。
 「おい、まだ」
 「・・・・」
 既にベッドから降りようともするラッドの足首を掴み、ずるずると引き戻す。シングルのせいか、ぎしぎしとスプリングが軋む嫌な音がして、ラッドが恨めしげにクレアを睨んだ。無言でエスコートでもするように促せば、渋面のままラッドがのろのろとクレアの体を跨いだ。
 ぱたぱたとラッドの中から溢れた液体がクレアの下腹部を濡らしていくのをぼんやり眺め、女の愛液ってこんなもんなんだろうか、なんてクレアはくだらないことを考えた。
 「・・・・・・・挿れろってか?」
 「お好きにどうぞ」
 にっこりとクレアが笑って見せると、忌々しげに歪められた蒼色が緩やかに滲んだ。両腕を足元のシーツに押し付け、ゆっくりとした動きで腰を下ろしていく。つぷりと先端が蕾の入り口に触れたとき、一瞬ラッドの目が縋るようにクレアを伺った。
 それを優しく笑ったまま見守れば、観念したようにクレア自身がラッドの中に埋まっていく。熱く重い質量がずぶずぶと押し込まれていくのに歯を噛み締め、飲み込めきれない喘ぎ声が溢れた。
 「っあ、あっ・・・・く、ぅ・・・・・・ぐ」
 「もうちょっと色っぽい方がいい」
 「じゃあてめぇがあげてろっ、は、あ、ぁああ、っ!」
 がくがくと震える足のせいでふんばりが効かず、なし崩しに落ちてしまう。ついに根元まで飲み込んでしまってから、ラッドがゆっくりと呟いた。
 「・・・・・も、むり・・・だ・・・」
 「鍛錬が足りないぞラッド。頑張れ」
 これの鍛錬ってなんだよ・・・。愕然としながら、中に入り込むクレアの棹の形がありありと想像してしまい、ラッドは小さく頭を振った。
 「動いたら、む、無理だ・・・っ」
 「イきそう?」
 こくり、と小さく頷けば、クレアはしょうがないかと肩を竦めて、ラッドの腰を掴み上げた。「あっ、てめっ、」と引き攣った声が上がったが、そういうのは無視だ。突然締め付けが強くなったナカに心の中で笑って、ゆさゆさとラッドを動かす。
 「ひっ、あ、・・・・っあ、ああ、待て」
 「無理」
 一言でラッドの頼みを切り捨て、先走りによってぬれそぼるラッドをゆるゆると苛めれば、びくびくとラッドの下肢が引き攣った。ひく、と弓なりに反った腹部が痙攣して、一瞬遅れでびゅるびゅるとラッドの精液が吐き出され、クレアの腹部を汚した。
 「っは、あっ!」
 射精によってら締められた内側に溜まらず欲望を吐き出せば、「馬鹿っ」とラッドの罵倒が飛んでくる。ああ、しまった。と反省しながら、汗を浮かべて睨みつけてくるラッドの頬を撫で、クレアは小さく笑った。怒られるのは分かるが、俺の世界だろうから、きっと許して貰えるだろう、なんて簡単なことを思いながら。
2008/4・28


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