■声で出せなくともこの思いは伝わると信じていた
 いきなり部屋に入ってきたと思ったら床に押し倒してきた人識を見上げて、軋識は固まる。
 テレビの方で嫌な音がした。舞織から暇つぶしに借りたゲームをやっている最中だったのだが、ぼーんと間抜けな音を出してゲームオーバーの曲が流れてくる。
 遠くでセミの鳴く声がした。
 「とりあえず落ち着け」
 押し倒された状態で、貞操の危機だというのに――――軋識は冷静に突っ込みを入れた。



 「大将が体で示せっつったんじゃん」
 「言ってねぇっちゃよ」
 どんな解釈をしたのかと、呆れてみる。
 何日か前、人識が何度も何度も「好きだ」だの「愛してる」だの「嫁に来てくれ」だのつまらないお決まりの(?)文句ばかり言うので軋識は言ってみたのだ。
 「言葉だけじゃなくって他の伝え方とか無いのか」
 「くだらない言葉はもう聞き飽きた」
 と。
 「言ったじゃん!」
 「だれが押し倒せっつったっちゃかボケ」
 べしりと額を叩いてやるとわざとらしく「痛!」と叫ばれた。
 「だっ、だって大将全然誘ってくれな・・・!」
 「何でお前の頭の中はこうもピンク色なんだっちゃかね・・・・・」
 はー、と頭を押さえて嘆いてやると腹の上で人識がごろごろと動く。
 「なぁ大将、一度で良いから好きぐらい言ってくれよ・・・俺凄い寂しいんだけど」
 「俺に口説かれたいなんて100年早いっちゃ」
 頭を撫でられて子ども扱いされていることを再認識させられて、人識は唸った。
 「もう、もう良い」
 「・・・あ?」
 ふらりと体を起こした人識を不安そうに見上げ軋識は背筋を冷やす。
 嫌われたのであったら残念でもあり少し嬉しかったりもする、かもしれない。
 「こうなったら」
 「わ、悪い、人識」
 好かれるのは苦手だが、嫌われるのはとても嫌だ。
 おろおろと軋識が人識の手を握る。と、逆にがっと掴まれた。

 「力ずくで犯してやるわ!」

 嫌われる心配はなさそうだった。







 「っん、・・・はっ、あああっ」
 「お客さんここが良いんですかぁ?」
 にやにやと笑いながら人識が軋識の前立腺をぐりぐりと指の先で弄くっていた。
 ローションをたっぷり掛けたせいで頭を上げている性器がてらてらとぬめっている。
 胸の突起を執拗に舐める人識の頭をどうにかどかせたいが、両手は何故人識が持っているのか聞きたい双識愛用のゴム紐で一つに括られているのでどうすることもできない。
 本当何やってんだろう末っ子相手に・・・。軋識は自分へ向けての呆れで頬が火照るのが分かった。
 しかもどこで知ったのか分からないが結構上手いのだ。女に向けてその才能発揮してろや!と殴りたいのだがやはり手が使えない。
 ぐちゃぐちゃと水音が途絶えない部屋で荒い息遣いが響く。
 恥ずかしさやらなんやらで死にたくなった。
 「んっ、くぁ・・・・あぁぁっ」
 つぷりと尿道に爪で引っかかれて痛みと鈍い快楽が下半身を駆け抜けた。びくりと体が跳ねる。
 人識にはにやー、と悪戯っ子のような笑みを浮かべて軋識を見た。また良からぬことを考えたんだろうなぁとげっそりすると軋識の性器の根元が赤い紐できゅっと拘束された。
 声も出ない。
 「なっ、なっ・・・・・・お、おまっ」
 「好きって言ってくれたらイかせてやるぜ」
 びしりと精液でだらだらになっている指でさされた。そんなに聞きたいのかと絶句する。
 「ばっかや・・・・・ひ、ぃっ!」
 「それまではおあずけー」
 にこにこと笑いながらぐちゃぐちゃと前も後ろも弄られる。
 「はっ、ぁああっ・・・・・・・いっ」
 「好き好き大好きちょう愛してる」
 どうにもこうにもイかせてもらえる気配が無いのに肝を冷やして軋識は無意識のうちに腰を上げた。
 それを見てにこにこと人識は笑う。
 「イかして欲しい?」
 「あっ、・・・・・ぅあああっ・・・・」
 「何ていえば良いかわかるっしょ?」
 弄られるのが中断され、ずいっと視界に人識が入ってきたと思ったら熱烈にキスをされた。
 唾液が混ざって軋識の口端からつ、と垂れる。
 満足した人識は赤く上気した軋識の頬を伝う唾液をぺろりと舐め取った。
 「っ・・・は、・・はっ・・・・人識」
 「何?」
 髪の毛を混ぜられて、軋識がぼんやりとしながら人識を見上げた。

 「言わなくても、俺の気持ちは伝わってると思ってたっちゃ・・・・・けど、それはやっぱり傲慢だった・・・?」

 ちゅ、と人識の口に軽く軋識からキスが贈られた。呆然として人識が軋識を見る。
 「たいしょー!!」
 がばーと抱きつき軋識がぐえ、と苦しそうな声を上げた。
 がちゃがちゃと音を立ててベルトを取り人識の準備万端なものがズボンから取り出された。げっと軋識が顔を顰めたけれどもう遅い。
 ずぷりと一気にそれが挿し込まれた。
 「いっ、・・・ぁっ、ぁああああああっ!やっ、ぁああっ!」
 「たいしょーすげー大好きー!」
 「ぁ、はっ、・・・・・ぁあっ、ばっ、ちょっ、まっ、あああっ!?」
 ずくずくと何度も抜いては入れられを繰り返され軋識はもう喘ぐしかなかった。ぎゅうっと人識が背中を抱きしめるものだから、身も捩れない。
 「あっ、あああっ、やぁああっ」
 「たいしょ、いっしょにイこ?」
 するりと紐が解かれるのにびくりと軋識の体が強張った。
 




 「というわけで結局大将の好きは聞けなかったわけですが」
 どんよりと人識がソファの上でいじけている。
 ゲームに集中しながら軋識は「アレ程度で本来の目的を見失うなんて本当阿呆だっちゃねー」と呆れた声をだした。
 「だっ・・・・大将がまさか演技派だとは思って無くて・・・!」
 「人間一つや二つ隠し持ってるモンがあるんだっちゃ」
 クリアできたのでコントローラーを置いて痛む腰に手を当てながら軋識は引き攣った笑みを浮かべ振り返る。
 「だがてめーも中だししたんだから五十歩百歩だっちゃよ?」
 「ご馳走様でした」
 「死ね!」
2006/7・31


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