■善幸の果てで死んだ胎児
 ふと胸元に唇が這わされて、テンゾウはふと唇を開けて、何も言わずに再び閉じた。何かした?と不思議そうな視線が下方から送られてくるが、いいえ、と首をふる。胸の突起に齧り付かれ、思わず小さく悲鳴が上がった。
 「っぁ」
 「声出してもいいんじゃない?」
 「覗かれたいんですか先輩。ああ・・・なるほど。そういうご趣味でしたか」
 「うわ、ちょっとお前変な想像しないでよねぇ」
 冗談交じりで頷けば、困ったようにカカシの目尻が下がった。叱られた子供のような反応に思わず笑みが零れる。中途半端に声を押し殺そうとして、「ひっぐ、」と変な音が喉で上がった。笑いが込み上げてきて、2人で布団の上で悶絶する。
 「ちょ、待った。笑いすぎて先に進めないんだけど。テンゾウ、ちょっと落ち着こう」
 「いや、落ち着いて、落ち着いてはいるんですよ。ただちょっと、ツボに嵌って、ふ、ふはは」
 裸のまま、薄い布団の上で絡み合って笑う。触れ合った肌は汗一つ浮かんでいるわけでもなく、生暖かさだけを享受しあっていた。ひぃひぃと笑い転げていれば、「テンゾウ!」と意を決したようにカカシがテンゾウに覆いかぶさってきた。
 「このままじゃぐだぐだで終わりそうだから本当にやろう?厠で個人作業なんて俺やだよ」
 「はいはい、分かってますよ」
 馬鹿騒ぎをしたまま、勢い任せで唇を合わせる。唇を吸いあって、舐め、自分から舌を突っ込んで、唾液を潤滑油にして絡めあう。どろどろに。血の匂いを忘れる前に、欲情しあうように。
 血を含んだ衣服は絡み合うすぐ真横に放り出されていた。血をべったり付着させたクナイも手入れすることもなく、袴の上でてらてらと光っていた。ごめん、後でちゃんと拭くよ。あとちゃんと研ぐからさ。血液がまるで自分を責めているように見えて、テンゾウは舌をカカシと絡め合わせたまま、ゆっくり笑った。カカシの不躾な手が、胸元の赤い突起をきつく抓んだと思ったら、性急にすぐに下方向へと下がってく。熱を持った掌が、腹を伝って太腿へ到達した。既に勃起している性器を掴むと、先走りの零れている鈴口へと親指の腹を擦りつけた。「ひっ、っんむ・・・!」喘ぎ声も、口を吸いあっているせいで中途半端でくぐもって空気に溶けない。びくりと反られた体で、テンゾウが一度カカシから離れようともがくも、それを嘲笑うようにカカシの空いた片手がテンゾウの腰を抱いた。性器同士を擦り付けあうように密着させれば、そのままカカシはテンゾウの息子と己のものを一掴みにして、一緒にすりあげた。
 「はっぁあ、あっ!やっ、っあ!」
 唇が離れ、カカシの唇がテンゾウの首筋へと移動すると、留め金を失ったテンゾウの口からはあられもない嗚咽が漏れる。元々止める気も無いのか、薄い布団に後頭部を押し付けながら快楽から逃げるようにテンゾウが身を捩った。
 「テンゾウ、こっち。やって」
 「んっ、っ!はっ・・・」
 カカシの掌から性器が開放されると、テンゾウが堪えきれないように震える手で己の性器を握った。カカシのものと一緒に。先走りでぬるついたそれを丁寧に愛撫すれば、手を離したカカシが器用に片手のみで潤滑油の蓋を開け、たっぷりと指に含ませた。「テンゾウ、腰」一言囁けば、従順にテンゾウは震える足でなんとか下腹部を掲げた。カカシに恥部を露出させる格好になるというのに、もはや既に目の前の快楽を追い求めることしか考えていないのか、普段冷静で冷徹な双眸はとろりと蕩けきってきた。じわりと浮いた汗は二人の肌をぴったりと重ね合わせている。
 「いれるよ」
 「っん、・・・ふ、くっ・・・・!」
 カカシの言葉にびくりと、体を強張らせ、続いて後孔へ押し当てられた冷たい感触に瞼を瞑る。テンゾウのその様子にふと笑みを零しながら、ずぶずぶと押し広げるように2本の指がテンゾウの中へと押し入れられた。
 「っふ、あ、ああぁ、あ・・・あ、あっ」
 「平気平気。普段と考えれば余裕でしょ」
 「ばっ、か、ああっ!」
 ぐちゅ、と粘性の高い音を響かせて、カカシの指がテンゾウの中で押し広げられた。ゆっくりと内壁を擦り上げ、どろどろと潤滑油が注がれていく。肉ひだ一つ一つを確かめるかのような丁寧な感触に、ぐっと歯を噛み締め、テンゾウが高い悲鳴を上げた。
 「ごめん、いれていい?いれていいかな?いれるよ?」
 「っは!まっ、あんた、あ、あ、!」
 テンゾウの焦った声が上がるも、ずるずると引き出された指の感触にぱくぱくとテンゾウの口が開閉する。口の端から零れた唾液をべろりと舐め取って、カカシが小さく謝った。
 「ごめん、任務が終わったら団子奢るからさ、ちょっと、ね」
 「あっあ、馬鹿か、そんなもんで、あ、ひっぃ、ああああっま、ああ、ぁあああ!」
 そのままなし崩れでカカシの勃起していた肉棒がテンゾウの中へと突き入れられた。テンゾウの性器ごとしごいていたテンゾウの手はもはや性器に添えるだけで、大した役割は持っていなかったらしい。指とは比べ物になら無い程の質量を受け入れたテンゾウの体が弓なりに仰け反った。絹を引き裂いたような悲鳴が断続して上がって、テンゾウの白い喉が室内に鮮やかに浮き上がった。貪りあうように体を重ねる。穿つ。抉る。心臓を。射殺すように。

 「はっ、はっ、ひっ、はは、ははは、ふは、あっはははははははは!」

 荒い息をついていたと思ったら、突如、塞き止められた水が溢れるかのように、テンゾウが笑い出した。この情景だけ見ていた人間がいるならば、おそらく気が狂ったとでも思うかもしれない。しかし、それに押されるように、一度体を硬直させたカカシも、ついでげらげらと笑い出した。
 「っ・・・・は、はは、ははは、あははははは!」
 「は、あはは!あっ、っちょ、カカシせんぱ、っや、動かないでっえっ!」
 それでも中に挿入された肉棒が前立腺をかき回すことに関しては受け流すことができなかったのだろう、びくびくとテンゾウの体が波打つ。それでも堪えきれないようにげらげらと笑い声を上げる。涙すら流して、ひぃひぃと声が上がるまで笑った。
 じとりと汗の浮いた肌を密着させて抱き合って、指を絡ませあう。恋人同士のようだったが、笑いあう姿はまるで悪巧みを終えた悪友同士のようにも見えた。
 「人間らしくいこうじゃないか・・・俺たちは犬か?」
 散々獣のように食い合ってきたというのに、カカシはやけに冷静そうな顔をして、真面目ぶって言った。そんな道化のような姿を見ながら、くすくすとテンゾウが肩を揺する。今なお体に男を咥え込んでいるというのに、そんなことなど微塵も伺わせない気丈さで。
 「いっそそうなれたらいいんですけど」
 「それもそうだ!」
 真面目ぶっていたカカシも、再びげらげらと笑いの渦に戻った。
 「人間らしくというと、そうだ。愛でも囁くか?」
 「先輩、舌が腐り落ちるんじゃないですか?」
 戦によって昂ったことを貪りあうように抱き合ったことなどまるで問題ではないとでもいうように、普段の飄々とした口調でテンゾウはからかった。そんな姿をにやにや見たまま、カカシが肩を竦めて囁く。
 「それは困るねぇ。テンゾウ、治してよ」
 「医療班じゃないので何もできませんよ」
 「じゃあこのまま行く?素っ裸で医療班ところに駆け込んで、」
 「愛を囁いたら舌が腐り落ちた?」
 「やばい、くだらない!」
 汗と精液で絡み合いどろどろになった上で、思春期の童子が言いそうな馬鹿みたいな台詞で笑いあい、ふと思い出したように唇をぶつけあう。口内を舌と舌で舐め取り合いながら、堪えきれないように片方がぶはっと噴出すと、もう片方も堪えきれずにげらげら笑った。

 「ああ、このまま腹が捩れて死んでしまいたいよ」
 冗談めいた台詞を、息の上がった中で途切れ途切れにカカシが言えば、にやりと笑ってテンゾウが案山子の首元を撫で上げた。良いじゃないですか。意味ありげに微笑んだ後輩を、薄い布団の上に寝そべりながら見上げると、子供に好かれそうな笑顔を浮かべて、優秀な後輩は洒落にならない台詞をさらりと吐いた。
 「先輩、俺の上で腹上死が希望だったはずでしょう?」
 「ああ、なるほど、悪くない・・・・・・・・・いや、いやいや、それ以前に忍者が笑い死にって!」
 慌ててその提案を否定すると、まるでそんなものが世界の理だとでも言いたげな目で、薄く笑みを貼り付けて、怜悧な男が微笑んでいた。
2008/6・29


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