ミニリク 浴衣で温泉

ドライヤーの置いてある洗面台の椅子に腰を下ろし、ぼんやりと軋騎は涼んでいた。先程まで温泉に浸かっていたせいで肌は火照り、微かに汗を滲ませている。軋識であるときのように肩にタオルをかけ、いつも後ろに撫で付けている黒髪が濡れてぽたぽたと毛先から雫を垂らしているので、浴衣を濡らさないようにタオルで遮断していた。
「なんだ、犯された後呆然としてる処女みたいな顔して」
「殴るぞ」
やっと浴衣を着終えた兎吊木が、タオルで頭をわしゃわしゃと拭きながら軋騎へと歩み寄る。普段の癖っ毛が水に濡れて湿り、髪が伸びたような錯覚を起こす。ますます女のようだな、と軋騎は思った。
兎吊木が目の前に立っても、軋騎はただぼんやりと体が冷める気持ちよさに浸っていた。温泉など、何年ぶりだろうか。来た記憶も曖昧だし、誰と行ったかもよく覚えていなかった。記憶力は悪くは無いはずなのに。
忘れたい思い出だったのだろうか?
そう思った瞬間、兎吊木の手がするりと軋騎の頬を撫でた。反射的に、兎吊木を見る。
ふふ、と兎吊木は楽しそうに笑うと、「なんとも夢心地みたいだね」と呟いた。
「夢心地・・・」
「顔が恋する乙女みたいだぜ。心ここにあらずって所か?ふふふ、妬いちゃうね。女の嫉妬は恐ろしいが、男の嫉妬もまた恐ろしいことをお前は知らないだろ」
「・・・・・・・・っ、な」
ふいっと顔を逸らすと、喉奥で笑いを噛み潰した兎吊木が軋騎の足首を掴み、勢い良く上に振り上げた。椅子に座っていた軋騎は、後頭部から床にバランスを崩して落ちてしまう。
寸前で体を丸めて頭に衝撃がこないように体を捻り、背中を傷めないように受身を取った。どたん、と大きな音を立てたが、今は夜中の1時だ。人が来ることはまず無い。兎吊木も沢山人が入っているのは嫌いだと入り口に清掃中の札をかけてきたので、やってくる人間も居ないだろう。
「いっ・・・」
悲鳴が微かに出掛かるも、プライドでそれを押し留めた。兎吊木は無様にも転げ落ちた軋騎の上に素早く圧し掛かると、にやにや笑いながら、未だ掴んだままの足首に舌を這わす。
ぞわりと悪寒が軋騎の背を這い上がり、軋騎は近寄るなという牽制の意味も含めて片手を兎吊木に伸ばした。しかし、兎吊木はすでに背後に用意していたバスタオルをぶわりと軋騎の上半身にかけ、バスタオルごと両腕を掴んで床にたたきつけた。怯んでいたこともあり、軋騎はもがくことも忘れてあっけにとられてしまった。目の前にあるのはふわふわの白いバスタオルだけだ。灯りによって兎吊木らしき黒い影がゆらりと動くのが分かるが、それだけだ。ああ、この状態を外側から見たら、そりゃ滑稽なんだろうな、と心の底で思いながら、軋騎は未だ足を這い回る兎吊木の舌に嘔吐感が込み上げた。奴隷属性だと前言っていたが、それなら主人に命令されたことだけ言っていろと吐き捨てたくなる。
ついに足を舐めるのも飽きたのか、兎吊木はすでに肌蹴ている軋騎の浴衣の下半身を大きく開かせ、そこにあった下着を剥ぎ取るかのような荒々しさでずり下ろした。
羞恥心とすでに冷めてしまった体に、ぶるりと鳥肌が立った。お?と兎吊木が不思議そうに呟いた。
「勃起してないね」
「普通勃つか!?」
バスタオルのせいでもごもごとくぐもった叫びが上がった。既に悲しくて泣きそうだ。兎吊木はうふふふふ、と気持ち悪い女のように笑い、足と同じように性器を口に含んだ。
「っ、あぁ!?」
驚きと下半身に沈む痺れに悲鳴が上がる。腰がびくりと浮いた。
ぬるりと舌の上で男根が動かされ、生温さと言い表すことのできない気持ちよさが脳髄に染み渡る。ごりごりと後頭部が床にあわせて音を立てるが、下半身が麻酔代わりになって、大して頭は痛くなかった。
しばらく良い様に弄ばれ、ひぃひぃとあられもない声もあげ、ついには果ててしまった軋騎は、やっと両腕と視界を開放され、天井の明かりに顔を顰めさせたがまたぼんやりと視線を宙に漂わせた。
吐き気は無かったが、今更頭が痛くなってきた。下半身に言いも知れぬだるさも残り、楽しそうに顔を覗き込んでくる兎吊木がムカつく。
軋騎は気だるそうに立ち上がり、腹にかかった精液にまた泣きそうになりながらも、また浴場へと足を向けた。
「え、また入るのかい」
「気持ち悪いしな」
「俺も入るー」
「てめぇは出てけ。そして帰れ。そして遭難して死ね」
「えー」
抱きつこうとする兎吊木の顔面にストレートを決めてやり、軋騎は今日二回目、浴場へと足を踏み入れた。

2007/7・3


TOP