■未だその手に縋れないのはたった一つの信頼である
「検査?」
「ああ」
鳥面の男は溜息混じりに手に持っていた紙の束をカカシへと押し付けてきた。
「テンゾウが暗殺の仕事で波の方の大名の側近の所行ったのは知ってるだろ?」
口から伝えられたその任務はカカシの耳にも新しい。波の国の大名の側近が、国の税を霧隠れへ横流ししているという情報から、原因追求といざという時の暗殺をカカシの後輩であるテンゾウやその同僚達が3マンセルで行ってきたのだ。
裏で男色家という噂のあったその男の下に大事な後輩達を送るのは気がひけたのだが、「これも任務ですししょうがないでしょう」とあっさり本人達に割り切られてしまえば言うことも無い。
しかしその任務については色々と屈辱を味わったのか深い言及はできなかった。居た堪れないテンゾウの細い背中を見ながら既に暗殺されたその大名の側近をもう一度この手で殺したいなんてことを思っていた程だ。
「それがどうかしたの?」
「その側近が霧に横流ししてた金で数人ヤバイのを雇ってたらしくてな。任務中に薬やら術を掛けられている可能性があるって話だ」
鳥面の話を聞きながらカカシは調書をぱらぱらと捲り、一応の医療班を通しての検査結果を見る。結果は良好、特に問題も無いような気もするが。
「術系となると医療班も手に負えない部分もあるらしいしな。綱手さまも居なくなったことで見落としの危険性もある。本人達に了承は取ってるから、これをやってこい、とのことだ」
「これ・・・・・・・」
渡されたのは2、3度見たことのある、透明な液体の入ったチューブだった。カカシもまだ子供だったころやられたことのある、腸に直接注入するタイプの術式解除の薬品である。体に対しての封印術などは基本的に腹部が最も効果がある。心臓付近もあるといえばあるのだが、生命の最も重要な器官であるが故か、逆に効きすぎて、いらない効果までつけてしまう場合もあるのだ。
「これを俺がやるの?これ医療班がやるもんでしょ?」
自分が屈辱でいっそ舌噛み切って死にたいとまで思った行為を後輩分にやるのが気がひける。己の時は顔も知らない医療忍者が淡々と行なった覚えがあるのだが。そう言いたげに鳥面を見れば、「テンゾウに、『知らない相手からの』薬品投与はヤバイだろ」と平然と返された。
テンゾウのトラウマについては今更言うことも無い。幼い頃誘拐され、木の葉の三忍の一人に人体実験を行なわれたのだ。どうやら今までの検査は特に薬品を使わない術式の検査だったらしく、特に問題が無かったらしいが――――直に、の検査は色々と誘発の危険性があるらしい。
「そんなわけで、内容は既に話してるから。親しい相手の方が安心もできんだろ、ってさ」
「・・・・・・・・」
鳥面はそう言うや否や「そんじゃ、串刺しにされねぇように頑張れよー」とさらりと告げて一瞬で掻き消えた。おま、それを最後に言うか?と引き攣った顔のまま、チューブと調書片手にカカシは、「困ったね・・・」とぼんやりと呟いた。
隔離された真っ白い病室の中、ベッドの上で医療用のワンピースに身を包んだ少年がぼーっと座り込んでいた。以前まで一般人だった少年は筋肉の付き始めたがしかしまだ華奢な腕を袖からつきだしたまま、がちゃりと音を立てた扉へ視線を這わせた。
「や、」
どうにか笑顔を取り繕うとしているカカシにふっと笑みを零し、テンゾウは無言のまま手で室内へ入るよう促した。
「話は?」
「聞いています。早く済ませましょう」
「ちょっ、ちょっと待った」
チューブに目を留めたテンゾウは素早く服を脱ぎだそうとする。羞恥の欠片も無いその動作に逆にカカシが度肝を抜かれた。
対してきょとんと目を見開くテンゾウは、「何か?」とワンピースを留める紐を既に外してしまい、そのままカカシの顔を伺った。
「抵抗ないね・・・」
「そりゃ、医療でしたらやんなきゃ駄目でしょう・・・下手して死ぬとか嫌ですから」
それはそうだけど。顔を引き攣らせてカカシが言葉を無くしている間に、テンゾウは上半身を覆っていた薄いグリーンのワンピースを脱いだ。陽に当たっていないせいで白く、体の出来上がっていない華奢な体が外気に触れる。
ああ、この子は。
頭がくらくらするのにはああ、と溜息を吐きながら、そのまま下半身にも手をやるテンゾウの手首を掴んでその動きを静止する。
「・・・何ですか?」
「テンゾウ、あのね、そういうの、すっごい心臓に悪いんだけど」
ゆっくりと言い聞かせるように単語ずつ言えば、テンゾウは「何がですか」と再び首を傾げた。
「俺がテンゾウの裸に欲情するような人間だったらどうするの」
「そんなわけないでしょう」
そんな曇りの無い目で言わないで下さい。
即座に否定されたのに俺、信頼されてるんだなーと感動しそうになったが、ここはそう簡単に流されてはいけないのだ。
「実は本当なの」
「・・・先輩、同性愛者だったんですか?」
「あー、うー、うーん、それも違うと思うけど・・・別にガイとかアスマの裸見ても別になんとも思わないんだけど」
この子ストレートに聞きすぎじゃない!?と心の中で絶叫しながら、カカシは項垂れ嗚咽を上げる。テンゾウは「じゃあ、」とそんなカカシを無視して言葉を紡ぐ。
「少年愛じゃないですか?アカデミーに通っている少年達を見て欲情したりしませんか?」
「しないしないしないから!俺はテンゾウだから欲情できるの!勝手にホモにしないでよね!」
「僕男ですよ?ホモじゃないですか」
そうですね。
がっくりと肩を落とすカカシを特に感情無く見やり、テンゾウは顔を顰め、しかしやはり平然と、
「とりあえず検査をしましょう?」
と言葉を紡いだ。
「だーかーらー!」
「抱きたいのなら抱けばいいでしょう」
「・・・・・・え」
今なんていった?
ふっとカカシが顔を上げれば、テンゾウは表情を欠片も変えないままカカシの手を持って己の体に当てさせ、「気の迷いかもしれませんし」と気にせずズボンをずらす。
「抱きたいと言えば抱かれましょう」
真摯な目ですとんと落ちるようにその言葉を吐いた幼い少年の肌は柔らかく、暖かな体温が指先を伝っていく。もはや覆いかぶさるように、カカシはテンゾウの上に圧し掛かった。
露出させた下半身には薄い陰毛が幼い性器をそっと隠しており、そのあまり見たことも無い下腹部に頭がかっと熱を持った。
「任務で抱かれてきたんでしょ?」
「ええ」
白い肌には情事の後は残っていない。まるで処女なのではと思うほどテンゾウの体には傷一つ無かった。
「・・・その割りに、綺麗だね?」
「・・・・優しかったですよ。あの対象は。希望するなら行為を最初から説明しましょうか」
「いらない。何も喋って欲しくない」
普段どおりに淡々と言葉を吐き出すテンゾウにちりちりと心臓が軋み、喰らいつくようにその胸にある小さな突起に舌を這わした。ぐっとテンゾウの体が硬直し、滑らかな手がシーツを握り締めた。は、と引き攣った笑い声が上でなった。
「嬉しいの?抱かれるのが?」
「まさか」
テンゾウは嘲笑うように口元を歪めた。余裕そうだ。・・・・そりゃそうか。さっきまで他の男に体を開いてたんだからな。
そう思えばじくじくと頭が痛んだ。検査のことを頭からふっとばし、空いた手でテンゾウの性器を擽る。薄い陰毛を割って反応の無いそれを擽るように指を這わせれば、ぎくっとテンゾウの体が痙攣する。カカシは手に未だ握り締めていた検査用のチューブを思い出し、先端にあったプラスチックの蓋を片手で器用に外し、その先端を窄まったテンゾウの後孔へとつぷりと差し入れた。
「ひっ、ぃ」
びくりとテンゾウの体が撥ねる。気にせずそのままチューブを握りつぶせば、中に入っていたゲル状の透明な薬品がテンゾウの中へと侵入していく。
「つ、つめた、」
不満を言うようにテンゾウは忌々しげに呟くが、カカシは俺が悪いわけではない、と無視して薬品をテンゾウの中へ全て入れ終えた。くちゅ、と音を立ててチューブの先端を抜き出せば、とろりと液体が溢れてシーツに垂れた。
「・・・全部入れなきゃ」
「まっ、ぁああ!」
別に全部入れる必要は無いとは思うが、カカシはおもむろに人差し指で液体を救い上げテンゾウの後孔へと差し入れた。ぬぷぬぷと薬品のせいで難なく侵入した指が内壁に締め付けられて音を立てる。
「あ、ぐ、っ・・・!」
内側からの圧迫感にテンゾウが喉奥で喘げば、カカシは殆ど気にせず指の本数を増やして熱のせいでどろどろになってしまったテンゾウの内側を指で引っ掻き回した。快楽というよりも苦痛を伴うその行為にテンゾウは唇を噛み締めぎゅう、とシーツを握り締める。
「優しいのより痛いのが好きなのかな、テンゾウは」
「っぁ、あああ、ぁ、ち、が」
カカシがにやにやしながらテンゾウの性器に舌を這わせた。既に立ち上がっていたテンゾウの性器からはとろりと先走りが零れており、もはや初めの気丈な姿などどこにもない。
「ぁ、はぁ、・・・せんぱ、」
「テンゾウが好きだよ」
カカシはいつもの冗談めいた言い方ではなく、しかし愛を囁くような真剣な声音ではなく、まるで台本を読むかのように淡々と囁いた。
「う、嘘でしょう?」
今度は引き攣った顔で、逆に縋るようにテンゾウが問う。カカシは一度苦しそうに顔を顰めると、「そうだったら、いいんだけど」と笑った。
「っああ、あ、」
どろどろになってしまったテンゾウの中から指を引きずり出し、代わりにそそり勃ったカカシの性器がテンゾウの後孔へと当てられる。
「・・・やめてください、」
「なんで?俺にやられるのは嫌?」
「私情で動くなんて、忍失格でしょう!」
まるで泣きつくような、そんな叫びを上げてテンゾウは濡れた双眸でカカシを見つめた。
「テンゾウは愛されるのが怖いの?」
「止めてください、僕は」
喘ぐようにテンゾウが叫ぶ。
「テンゾウが抱かれるのを、俺、許せないかもしれない」
そんなことを、言ってはいけない。
そう言いたげな瞳は、カカシの欲望がテンゾウの中に突き入れられた瞬間大きく見開かれ、口から零れたのは言葉にならない喘ぎ声だった。
ずぷ、と密着していた肉を裂いてカカシの肉棒がテンゾウの中に押し込められる。テンゾウの体が反り返り、苦しさにテンゾウの眉根が寄せられた。
「っあああっあ、ふぁ、あぁああっ」
「気持ちいい?苦しい?泣きそう?」
「っぁあ、んっ、ふぁあ、か、かっ、ぃ、っあ!」
テンゾウの手がシーツから離れ、カカシのベストを握り締める。指先が白くなり、唇から唾液が零れた。
ずっ、ずっとカカシの男根がテンゾウの中から引き抜かれたり貫いたりとを繰り返せば、はぁ、はぁっ、と息の上がったテンゾウの喘ぎ声が室内に響く。ぎしぎしとスプリングが悲鳴をあげ、涙で滲んだテンゾウの目の中の漆黒がぼんやりとカカシを見ていた。
「好きだよ」
「っ、・・・あ、ぁ!あああ!」
びくりと一度大きくテンゾウの体が揺れて、テンゾウの腹の上に白い精液が吐き出された。カカシが唐突な中の圧迫感に達してしまうのをなんとか堪え、ずる、と肉欲を引きずり出してからテンゾウの腹の上に欲望を吐き出し、その後、室内には二人分の苦しそうな喘ぎ声が少し続いた。
「・・・付き合うのは?」
「・・・・・・・・」
カカシが覗き込むようにテンゾウの顔を見れば、テンゾウは納得できないように顔を顰め、
「やることという事が、逆でしょう、」
と呆れたように呟いた。
2008/3・10