■熱の行方
やり方は適当だ。女とやるように唇から入ると、まるで愛し合っているようで腹の裡がくすぐったい。唇はかさついていたけれど唾液で濡らすと気にならなくなる。肉厚な唇を食んで、啄ばみかちかちと歯をぶつけた。貪るように舌を絡めて、互いに手を這わせる後頭部の髪の感触を愛しく思った。短く刈った家康の髪は硬いので、うなじを指でなぞるとざりざりと音が立ちそうだった。
「お前があの頃つけてた喉輪の紐がよォ」
「うむ」
「すげぇ、エロいって思ってた」
「ぶは、は、は、なんだそりゃ」
音を立てて唇を離し、そんな告白をすると家康はこんな時でさえ緊張感無く笑う。うなじから背中にするりと指を下ろすと、筋肉の上からとつとつと浮いた骨の感触があって、それがまたいやらしかった。パーカーを脱がし、ランニングシャツの中まで手を入れようとすると、おいちょっと待て、脱ぐからと身を離された。
「一枚ぐらい着てる方が燃えるんだがなぁ」
「首周りが伸びるだろ」
ばさり、と家康はへらへら笑いながら男らしく上半身裸になった。均整の取れた良質な筋肉のついた肉体はそれこそ健康男児そのもので、薄暗い室内では影がくっきり見えてそれもいやらしいと思ってしまう。じっと見蕩れていると、「なんだ、ストリップショーでも見たいのか」と馬鹿にされた。お前の口からそんな台詞が聞けるとは、と目を丸くすると、政宗がこの間貸してくれたAVにあった、とさらりと答えられた。
「お前らAVの貸し借りとかするのかよ・・・」
「今時の子供は小学生だって家に集まってAV上映会やらやるみたいだぞ。貸し借りといっても、ワシはそんなに持ってないから基本的に借りてばかりだけどな」
「え、お前AVとか持ってんのか」
「意外か」
「まぁなぁ・・・・・・後で見せろよ。どういうのが好きか気になる」
今まで見たことのないような食いつき具合に、お前なぁ、と家康は眉を八の字に歪めた。困った奴だ、と言外に語っている。いいじゃねーか、お前が女に欲情してる姿に欲情すると答えると、家康はワシの知ってる元親とは思えん台詞だ、とげらげら笑った。
お前の知ってる俺ってどんなんだよ、と言いながら家康の投げ出された足を拾い上げ、浮き上がった踝にしゃぶりついた。ジーンズをたくし上げながら脹脛に吸い付くと、「もっとカッコいいと思ったんだなぁ」とにやにや笑われる。こいつ、この時代になってからやたら強かになった気がする。「おめーは随分可愛くなくなっちまったよ、竹千代」と泣き真似をしながら嘆くと、「可愛くないワシは嫌いか」と家康は目を細めて笑った。窓から差し込む月明かりを反射して、暗闇の中だというのにオレンジの目がちかりと光った。夜でも美しい太陽の瞳が俺を嘲笑う。
「お前の本当に可愛いところは俺しか見れないだろうからそういうのはどうでもいいね」
「セクハラで訴えられるぞ、元親!」
はははは、と家康は呵呵大笑して、ぐい、と俺の頭を掴んで引っ張る。導かれるままに家康の上に覆いかぶさると、家康の手が俺のベルトのバックルに伸ばされた。脱ぐか? 脱がすか? と挑むように言われたので、脱がして、と甘えてみた。
「できるだけエロく」
「エロい脱がし方って何だ?」
ちゅ、ともう一度唇に吸い付く。家康はふむ、と唇を歪め、先ほどの願いを快諾してくれたらしく、俺の肩を掴んで一度体制を反転させた。俺は仰向けに倒れて、その上に家康が覆いかぶさる。家康はのそりと立ち上がり、俺の頭を足で跨いだ。家康の顔が俺の下半身の真上、家康の下半身が俺の目の前に来る。エロ本で見たことがある。シックスナインというのだったか。家康は少し考えてから手でベルトのバックルを外し、ボタンを外した。目の前で家康の股間がふりふりと揺れているというだけで頭も沸騰寸前だったが、家康が次の瞬間、ジッパーを口で挟み、じぃぃ、とゆっくりそれを下げたのでぎくりと足が痙攣して跳ねた。ふ、と家康が笑う声が股間の方から聞こえてくる。パンツ越しに家康の吐息が俺の息子に当たっている気がして、体が震えた。
「これからどうして欲しい?」
「そういう台詞って俺の台詞だろ!」
ははは、と家康は明るく笑い、はむ、と俺をパンツごと咥えた。勃ちあがりかけている肉を歯ではなく唇で形を確かめるように擦り付けてくるので、びくっと腰が震えてしまう。家康はすりすりと俺の股間に唇を這わしているかと思えば、ぴたりと一度止まり、はぁ、と熱い息を俺の息子に吐いた。
「・・・・・・はぁ、ぁ、元親のにおい・・・」
「おいおいおいおいちょっと待てその台詞シャレにならねーぞ!」
すげーエロい! パンツが自分の先走りと家康の涎でぐしょぐしょになっている感触がする。できればもう一回言って欲しい。家康が笑いを堪えてぷるぷる震えていた。しかしそれよりも先に俺が喘ぎ声を出してしまいそうで困った。俺は目の前にお預けを食らったように浮いている家康のベルトを外しに掛かる。ジッパーを下げると、丁度家康が俺の息子をパンツからついに出したようで、外気に触れてチンコが物凄く感じてしまった。ひぃ、と悲鳴を上げそうになり、咄嗟に家康の腰を鷲掴んで己の顔に降ろす。既に半勃起していた家康の股間を顔面で受け止めてしまった。ひぃぃっ! と家康が絶叫する。
「は、あ、あああ、ちょ、待て、もと、もとちか、まて・・・っ、い、息かかる、から、一回はなし、い、いぁ、ひっ」
「っ、む、れも、おまえが」
「しゃべるな、ぁあ! 腕を、とれ、とってくれ、待て、で、でるから、まて!」
言われた通りに手を離すと、身じろぎした家康の膝が俺の頭部を打った。すまん今のはわざとじゃない、とふらふら俺の上から退き、家康は傍らに非難する。少しテンションが上がりすぎて暴走気味だった俺の頭も丁度良く冷静になったので一度身を起こす。ぜぇぜぇはぁはぁと間抜けに息を荒げる男二人の呼吸が室内に響いて、ちょっと落ち着こうぜと少し休戦を持ち上げる。家康もわかった、と頷いて布団にばたりと倒れこむ。薄い布団にごろりと並んで、しばらく時計の秒針を聞きながら過ごした。枕元の携帯を開いて時間を見れば深夜1時だ。酒の勢いとはかくも怖ろしい。家康も携帯を一度開いて、すぐに閉じた。仰向けに転がり、くあ、と欠伸をする。
「眠いのかよ」
「ああ・・・・・・」
「寝るなよ」
「・・・・・・今日ほんとに最後までできるのか? この会話前もやった気がするが」
「今日こそはやる!」
ばふっ、と拳を枕にたたきつけ、俺はそう宣言した。そう、俺達の駄目なところは冗談と本気のノリの違いが分かりにくい所だと思う。真剣みが足りないのだ。真剣に見詰め合うと家康が吹き出すせいもあると思うが。
「勃ちはするんだけどなー」
「・・・お前の男らしさを勢いに変えて欲しいよ」
「馬鹿野郎・・・俺が完璧に勢いに身を任せたら今頃強姦事件だぞ」
「本当か。お前の愛を見くびってた」
家康はそう言いながら瞼を閉じ始めていた。寝る体勢だこいつ・・・まだ中途半端に勃ってる俺の息子を哀れに思わねーのかよ・・・。家康、と名前を呼んで、ぽかりと開いた唇に噛み付く。ふ、と家康はまたのろりと目を開けて、赤子のように俺の唇を吸った。
「やろう」
「ん」
小さく頷いて、家康は瞼を閉じた。波打ったシーツが淫靡で、家康の手を思わず握った。震えてはいなかったが汗でびっしょりと濡れている。家康、と名前を呼びながら首に噛み付いた。呼気はやたらと熱かった。
2010/10・20