■優しいシャルトルーズ
 悟空がベジータの誘いに乗って、ブルマの家に遊びに行ったのがつい数分前で、サードの奴が悟飯を連れて界王界に行ったのが30分ぐらい前で。
 そしてたった、今扉を開けてすぐに、人を見下すような目線で見てくるフォースが、俺の部屋にやってきた。
 「・・・な、・・・・んだよ」
 声を上げるのが遅れたのは、明らかにその赤猿の機嫌が悪そうだったからだ。全身で不機嫌さを醸し出している。眉間には戦闘中に敵を睨みつける時によくできる皺が深く刻まれていたし、口はしっかりとへの字に結ばれている。無意識のうちに、何かこいつの勘に触るようなことをしただろうか、と謝る台詞を考えてしまうほどにそいつは不機嫌そうだった。
 「カカロット」
 ぽつりと呟かれた言葉も明らかに友好的な声音じゃない。床に座り込んで爪を切っていた俺を立ったフォースが見下してきているので、ぶっちゃけ怖い。わくわくもしないしドキドキもしなかった。
 「だ、だから、なんだよ。何かしたっけ?」
 しばらくじろじろと俺を観察して、フォースは後ろ手に扉を閉めた。カチャン、と軽い錠を閉める音がして、即座に部屋は密室になる。
 カカロット、とそいつはもう一度呟いて、溜息を吐きながら言った。
 「抱かせろ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
 何言ってんだてめぇは。
 と咄嗟に言いそうになるのをなんとか堪え、俺は改めて目の前の男を見る。男は相変わらずの仏頂面で、見下す、というより俺を睨みつけていた。赤い隈取のされている目は煌々と金色に輝いていて、満月の光のようだ、とも思える。
 抱かせろって、まさかぎゅーっと抱きしめさせろってことじゃねぇだろう、と思いつつ、なるだけ反感を買わせないよう気をつけて、遠まわしに遠慮しますと言っておこう。
 「・・・そーいうのは俺の仕事じゃねぇだろ」
 「サードは今いねぇ」
 そりゃそうだけどよ。爪を切り終えて、切った爪をティッシュで包んでゴミ箱に捨てる。爪切りを動かせないようにぱちりと取っ手を反転させて戻し、近くの棚に置く。
 「夕方になりゃ帰ってくんだろ?あと数時間ぐらい待てよ。待てもできないと犬以下だぞ」
 「カカロット」
 ぼきっ、と関節が鳴る音がして、反射的に肩が震えた。ああっくそっ、だせぇ。勿論さっきの音はなんてことはない、フォースが自分の指の関節を鳴らしただけだ。そんな行動だけで戦々恐々とする自分が憎い。サイヤ人の習性である、強い奴への服従精神が反応してしまう。
 「抱かせろ、と言ってるんだぜ。俺が」
 見上げると、そいつはニヒルに笑っていた。俺が既に流されかけているのを察知している。目を細めて見下す男の眼球が、淡い光を宿しているのを見て、俺は一度唾を飲み込み、分かったよ、と掠れた声で答えた。もしもこいつに殺されたら、どうやってダイイングメッセージを残そうか、なんてことを考えながら。





 「これ、悟空の歯型か」
 両腕を背中に捻り上げられて、床にうつ伏せにされると、あっという間に着ていた胴着が剥がされた。痛みに歯を食いしばっていると、首筋をそろりと撫でられる。つい昨日の晩に悟空とヤった時についた跡だと思う。酒を盛ったら凄いことになったのでそのまま頂いたら、首にむしゃぶりつかれたのだ。悟空との愛の結晶である。
 「はっ、俺はお前らと違って愛し合ってんだよ」
 「ふーん」
 俺の言葉にも対して興味を持たないようで、しばらくそこを眺め眇めしていたフォースは、背中の方で低く笑い声を漏らす。
 「悟空ねぇ・・・可愛いんだろうなァ」
 「・・・おい馬鹿猿。悟空に手ェ出したらぜってぇに許さね・・・・・っいっ!」
 台詞を言い終わる前に、突き刺すような痛みが股間に走った。腰帯を解かれて中に手を突っ込まれたことは流石に感じていたが、突然のこの痛みは何だ。歯を食いしばって悲鳴を上げないように頭を床に押し付けていると、すぐ顔の近くにぱらり、と何かが落とされた。金色をした毛が2本、フローリングの床に載せられていた。
 「・・・?・・・・・・・・っま、さかってぇ!」
 再び、びしっ、と電撃が走るような痛みが股間に起こる。今度こそは耳に聞こえた。ぶちっ、という毛を抜く音だ。
 「まっまっ待て!ちょっとまっ、いっ・・・・!!」
 片手だけで俺の両手を完璧に塞いでいるので、空いた片方は好き勝手に動き、俺の陰毛を容赦なく抜く。なんだこれ。なんの拷問だ。
 鍛えようにもそこはさすがに鍛えられないし、毛を抜かれるのは何をしてでも痛い。股間が熱を持ったようにじんじんと痛む。ははは、と低い笑い声が背中の方から聴こえた。
 「いっ・・・ぎ、ぃ・・・・!」
 「全部抜いたら恥ずかしくて悟空とできねぇかもな。ん?」
 「てっ・・・てめぇ・・・っ!」
 ひりつく痛みに堪えながら、肩越しにフォースを睨みつければ、にやにやといやらしく笑っているだけだ。拘束していた手を離し、フォースは俺の肩を掴み、ぐるりと体を反転させる。咄嗟に殴りかかろうかとも思ったが、両手は痺れていて禄に拳も握れない。ごん、と重い音を立てて後頭部がフローリングの床にぶつかる。この野郎、と口だけが悪態をつくだけで終わった。
 「ふっ、はは。やっぱお前、変態だったんだな」
 「何を・・・」
 「ちょっと勃ってきてるぜ」
 何言ってんだ、と心の中で思うと同時に、喉がひゅっ、と変な音を立てて空気を吸った。確かに、上半身を少し持ち上げれば、じんじんと熱を持った痛みで気づかなかったが、少し性器が頭を上げていた。
 「さっ・・・・・最低だ・・・」
 「ふん、最低ね。別に構わねぇけどよ」
 くつくつと声を殺してそいつは笑い、俺の惨めな姿をじろじろと眺め、戯れ程度に俺の胸に掌を這わせた。ぷつりと勃ちあがった乳首を抓むかと思えば、爪の先で千切るように捻られる。再びぎゃぁっと俺の悲鳴が上がる。洒落じゃなく乳首がもがれたかと思った。
 「あっぎっ、いっ・・・う、ううううううう」
 「堪え性がねぇなぁ・・・」
 「誰だって痛いわこんなもん!」
 「ま、どうせカカロットだしな」
 どういう意味だそりゃ。げんなりしていると、先ほどの無礼を謝るかのように優しく捏ねられる。こいつ、サードとヤってる時ってどうしてんだろう。滅茶苦茶優しいってことは多分天地がひっくり返るぐらいありえないとは思うが、サードにべったりのこいつが今みてぇに毛毟ったり乳首千切ろうとしたりは・・・・多分しねぇだろう。
 「・・・・・・・」
 「ん、・・・・っいってえええっ」
 再び爪が立てられる。本当は千切るつもりなのか?千切るんだな?抱くんじゃなくて殺すつもりなんだなてめぇは!と心の中で判断していると、お前・・・と呆れたような声を上げられる。
 「っく、ううう・・・・なんだよドS」
 「お前、ドMだったんだな」
 「・・・・・・」
 そういわれて再び気づけば、さっきよりもちんこが勃起していた。えええ、ちょっと待て。ちょっと待て。
 「い、いや、いやいやいや、うっ嘘だっ!」
 「・・・・」
 「いっぎっ・・・・っいてぇっ!」
 今度は陰毛を毟られる。普通は萎縮するもんなのかもしれないが、俺の息子はそれに反して元気を手に入れているらしい。先走りすら零していたし、爪を立てられた乳首は爪を立てられたせいなのかもしれないが、赤く充血していて張り詰めている。マジか。なんだこれ。嘘だろぉ・・・。
 「はっ、こんな変態が悟空を抱いてるなんて信じられねぇな」
 「っう、はぁ、ぁっ・・・・・・・ちっくしょ・・・」
 禄に言い返せないことが腹立たしい。くそ、なんだ。なんだっていうんだ。どうしちまったんだ俺の体は!
 フォースの奴は苦しむ俺を嘲笑いながら、太腿に引っかかっていた胴着を膝まで引き摺り降ろし、後穴に指を這わしていた。いつの間にか尻の下に掌があり、何か反応を起こす前に、にゅるりと一本の指が内側に侵入してきた。痛みに馴れすぎていたせいか、悲鳴を上げることはなかったが、逆に突然のことに声が出せず、口をぱくぱくと開け閉めを繰り返すことしかできなかった。
 「ふん、なんだ。慣れてんだな」
 「っ、っう、な、お、おま」
 「なんだよ。別に痛くねぇだろ」
 にやにやと笑いながら、フォースはゆっくりとした動きで指のストロークを始めた。第一関節まで抜いたと思ったら、指の根元まで突き入れられる。痛みも、これといった快楽も無いので、ただ気恥ずかしさだけが残った。ぬぷ、と微かに聞こえる水音がいやらしくて耐えられない。自分の尻から聴こえる音と悟空から聴こえる音でこんなにも気恥ずかしさが違うとは・・・!!そりゃ自分と他人とじゃ違いはあるが、悟空もつまり俺な訳で、まさかこんなに違うとは思っていなかったというか。
 思考を明後日の咆哮に飛ばすことでなんとか目の前のにやにや笑うフォースを無視しようと努力するものの、それに気づいたフォースはフッ、と小さく笑い、指を二本に増やした。軟膏なのかジェルなのか、とにかく滑りを良くするための薬は用意されているのか、冷たい何かを纏った指が、ずるっ、と内に入ってきた。
 「っふぁ、ぁ・・・・・くっ」
 「ただの変態かと思ったら根性のある変態なんだな」
 「っせぇ・・・!変態変態言うんじゃ、ね、ぁく、ぅ・・・っ」
 ぐぷぐぷと大きな音が出るのは、指を二本に増やしたから、空気がジェルと擦れあっているからで。そして二本目から三本目に増やされるのは結構早くて。
 「っうぁ、ぁあふ、ふっ」
 「あんまり使ってねぇからがちがちかと思えば、結構柔いんだな」
 「っや、やめっひろげんなぁ、ぁ、あっ!」
 ぐにぃ、と音がしそうなほど、三本の指が尻の中で三方向に広げられて、中に空気が触れる感覚がある。いつの間にか完全に勃起した性器からはだらだらと涎が零れていて、尻の穴も何かを欲しているとでもいうのか、腹がきゅう、と締まった。
 完全にフォースの手に踊らされている。ひっ、ひっ、と喉が中途半端に空気を欲して喘ぐ。頭がぼんやりとしていて、びくびくと腰が震えた。
 「んっ、ふっぁ、ばか、はやっ、くぅ」
 「どうしててめぇはそう強請るにも悪態を入れなきゃ駄目なんだ」
 「もっ、もぉいいだろっ・・・・たのむっ、からっ・・・!」
 恥もかなぐり捨ててるってのに、一々面倒くせぇ。ぐちゅぐちゅと音を立てている尻穴の具合を見て、浅ましさに呆れているのか、フォースはふぅ、と溜息を吐いて、一度、まぁこういう単純なのも嫌いじゃねぇけどな、と小さく笑った。
 「っあっぐ、ぁあ゛あ、あ、あっ!」
 声を殺すのも忘れて、突然やってきた質量に悲鳴を上げる。文字通りずっぽりといった感じ。同じ体から派生したのに、こいつのちんこ俺達よりでかい気がするのは気のせいだろうか。ゆっくりと、それでも躊躇うことなく挿入されたフォースの性器が俺の中をねっとりと蹂躙していく。とにかく熱い。一度、奥まで咥えさせられ、ぴったりと俺の尻とフォースの太腿の付け根がぶつかる。
 「っ・・・入った・・・」
 「ぁっ、ふぁ、あつ・・・い・・・」
 「おい、カカ。動くぞ」
 「っ、う、・・・っああ」
 なんかもう動ける気がしない。返事はしたものの既に死にそうだ。そう、何だかんだ言っているうちに、フォースは一度中に入った性器を引きずり出した。カリの部分だけを残すぐらいまで引き抜いて、再び内側に捻じ込む。獣のような悲鳴が断続的に上がった。
 「ひっ、ぃあ゛っあっ、だめ、だっ」
 「何がだよ」
 「わかんねっ、ぇっ、あぁっ、ふぁ」
 まさか俺の口からこんな女みたいな声が上がるとは思わなかった。っていうか悟空と同じような声が出てんのか。いつか自分で自慰してるときの声でも録音して聞いてみようか。・・・いややっぱやめよう。萎える。
 「あっあ゛っあ!やば、ぁひ!ぃ、ふ」
 「・・・・・・・・」
 「なっ、なん、だ、・・・・っ?」
 ずっ、ずっ、と水音だけが木霊する室内を不審に思って、天井を見上げていた目線をフォースに移すと、フォースはとある一点を見て何かを考えているようだった。とある一点、といってもそれは俺の股間であり、一度、俺の息子を観察しているのかと思って眩暈がしたが、真実はそれ以上だった。
 床につかれていたフォースの手が、ふいに動いて、俺の腹の上に乗せられ、すいっと下に下がる。ざり、と指先で陰毛を抓み、フォースは俺を見た。ばちっ、と繋がる目線で全てを悟り、俺は突っ込まれていることも忘れて体を無理やり起こす。突然に頭が覚めて、身が竦んだ。
 「・・・・えっ、うっうそだよな?」
 「まぁ、実験だよ実験」
 「まっ、待ったおちつっ、ひっ!?ぁあ゛ぅっ!」
 ぶちっ、と音がするのと、びゅる、と俺のちんこから精液が吐瀉されたのはほぼ同時だった。お、おま、おまあああああああ!
 身を襲う倦怠感にぐったりする俺を、フォースがげらげら笑いながら見下していた。くそ、もう、変態だのドMだの好きに言え!








 「なぁサード・・・お前らの普通のセックスって何してる?」
 「ぶはっ」
 悟空がチチと一緒に買い物に出かけたのがつい5分前で、フォースがベジータを無理やり超サイヤ人4にして名前も知らない星に向かったのが30分前で。
 そしてたった今、昼の定番番組をぼんやり見ながら茶を啜るサードに、俺は聞いてみた。
 「え?ん?今なんて言った?」
 「昨日とかさ、フォースに毛毟られたりした?」
 「・・・どうしたんだ?あいつに何かされたのか?髪の毛毟られたのか?」
 心配そうに俺の顔を見てくるサードの顔を見たら、ふっと笑いが込み上げてきた。
 「いや、なんつーかさ、俺、やっぱりサードのこと、すげぇと思うぞ」
 「いや、だからなんなんだよ」
 訝しげなサードの顔をみて、フォースってほんとにサードが大切なんだな、と心の中で思いながら、もうあいつに抱かれるのは嫌だ、と心の奥から本気で思った。サードにできないことをやられるだけなんざまっぴら御免だし、そもそも俺は抱く側なんだからな!
2009/11・22


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