■霧散するコーラル・リーフ
床に叩きつけられた体はぴくりとも動かない。呼吸を繰り返すことさえ辛かった。何か見えない力に圧迫されているのか、呼吸がし難い。相変わらず両目は黒い布で覆われていて、あの性悪の双子が一体今度は何をやらかしてくれるのやら。さっぱり分からない。
もう、いっそ殺してほしかった。終わらない世界で生きるのがどれほど辛いことか。彼女達は分かっていない。どうせ、狐さんに心酔しているだけの、大して世界の終わりを望まない中途半端な奴らなんだ。
だから、橙なる種がどうなろうと、この子供達にとってはどうでもいいことに違いない。
ああ、思い出すだけでも恋焦がれる胸が痛む。あの美しい太陽の申し子は、今、どこでどうしているだろう。死んでもいいと思ったけれど、彼女の今後だけが心配だ。あの忌々しい―――奴が、何をするか分からないが、もしも、昔のように、あの小さい体にはちきれんばかりの人間への憎悪を身を削りながら溜め込むようなことに戻ったと思ったら――――。
「時宮時刻」
二つの声が、ぴったり揃って両側から聞こえた。トーンも早さもまったく同じ。僕が咳き込むように、なんだい、と問えば、愚かな子供は淡々と言う。
「おわかれだ、時宮時刻」
「さようならだ、時宮時刻」
じゃり、と床を草履が踏みしめる音が両側からして、僕は黒い布の中で、一度、目を開く。母が嫌った目。父が憎んだ眼。家族が気持ち悪がった瞳。異端のめ。女の子一人救えない異能の力。くだらない。僕は笑った。
暗転する視界の中、僕の目はいつまでもあの美しい橙を想っている。
2009/5・14