■悠日の有り日
 
 朝起きると胸が膨らんでいた。





 「あの変態の願い叶ってんじゃねぇかぁあああああ!!!」
 朝起きてすぐ絶叫して、軋識はばすりとベッドを殴りつけた。
 世の中はいつの間に変態に優しい世界になったんですか?っつーかそれ以上に何が起こったんですか?
 何を考えていても仕方が無い。軋識は頭を冷やそうとベッドに胡坐をかいて座った。
 格好としては「零崎軋識」のあの格好である。スリーブレスの白シャツにだぶだぶのズボン。
 そして現在の軋識の体の異変を、冷静に対処してみた。
 胸が結構でかい。D・・・いや、E・・・?
 
 ・・・・・・・・・・。

 何自分の胸のでかさを図ってんだよぉぉおおおおお!!!
 心の中で絶叫二回目。
 肩幅もどうやら小さくなったようだし、腕も昨日の夜より少し細いようだ。明らかに手も小さくなっているし、背も小さくなった、ような・・・。
 「あかん・・・これ以上追求したら発狂する・・・」
 昨日までははっきりと分かる、自分の性別。
 よろよろとベッドに倒れこみ、何が起こったか頭の中で整理しようとしてみた。
 世の中では男だが女性ホルモンがなんやらかんやらで胸がでかくなる人間もいるらしい。しかしそれは一日で変わるわけではあるまい。
 重くなった心臓部に手を当てて、携帯の時計を見る。午後2時だった。
 午前11時に双識が人識を追いかけていくから出て行ったことは知っている。人が居ないのは不幸中の幸いだった。
 そういえば、男性器・・・!!
 はっとして身を起こす。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 「無い・・・・・・っっ!!!」
 「おや式岸Eカップじゃないか」
 軋識が、顔を真っ青にして叫んだその瞬間、背後から伸びてきた腕が軋識の胸を鷲づかみにした。
 びしり、と軋識が固まる。にゅ、と軋識の肩に兎吊木の顔が乗っかった。
 「・・・・・・・・・・・・・・・う、兎吊木さん?」
 「おいおいさん付けは止めてくれよ。兎吊木で良いよ他人行儀な。もっと近い関係だろ?俺達は」
 「何で居るんだよ!!!」
 声を捻りだした軋識を後ろから羽交い絞めにして、ふふふふふと奴がう。
 「覚えていないのかい?」
 「な、何をだ」
 「君、昨日窓鍵閉めないで寝ただろう」
 「不法侵入まっさかりじゃねぇか!!」
 家に招いたとかそんなんじゃねぇのかよ!!
 軋識は兎吊木の魔手から逃れようと身を捩るが、いかんせん今の身体能力は「女性」並のようだった。
 体力馬鹿というわけではないのに、これ以上力が無くなったらスペック程度でしか身を守れない。
 しかも今は、兎吊木にバックを取られている上に、すでに羽交い絞めにされていた。ここから何か出来るとしたら、人類最強か匂宮とかそこいらだけだろう。
 ぎゃあぎゃあと喚いて暴れるが、幸せいっぱいの兎吊木の力に叶うはずも無い。
 そのまま無し崩れにベッドに転がされて上から圧し掛かられた。
 「ばっ、馬鹿野郎止めろ!死ねカス!ロリコン!!!」
 「ふふふふふもうすでに台詞が子供の悪口のようだね。しかしこれは嬉しい誤算だ。まさか巨乳だなんてそんな萌えポイントがここで入るなんてふふふふふ!」
 「いっ、嫌だぁあああ!まさかこんなギャグ調で話が進むなんて認めねぇええええ!!」
 ぶんぶんと頭を振って、軋識が嘆いた。
 にやにやと笑いながら兎吊木が手を伸ばしてくる。
 そこで








 「・・・・・・・・魘されてたぜ?」
 「・・・・・・・・・・」
 目が覚めた。
 おそるおそる胸に手を当ててみるが何も無かった。
 「よっ」
 良かった・・・!!
 軋識は安堵の息と共に身を起こした。兎吊木が腹ばいになって自分のズボンを下ろしていた。
 「・・・・・・くねぇええええ!!」
 勢いに身を任せてその上にエルボーを叩き込んだ。がちんと歯がぶつかる音と鈍い音がした。
 「っ!っっ!!っ〜〜〜っっううううう!!!」
 「何やってんだてめぇは!?っつかどうやって入ったんだ!?」
 痛みに悶える兎吊木をベッドから蹴り落とし、はっとして窓を見る。
 開いていた。
 「正月でもねぇのに正夢見させんなや・・・・・・・」
 「えっ、何!?いつもなら窓から突き落とすぐらいで許してくれるのに、なんで物騒な獲物もっちゃってんの!?」
 脇においておいた愚神礼賛を引っつかみ、鞄から抜き取る。
 そして珍しく、笑ってやった。
 「いやあ、何、やっぱり性別変わっても、力は必要だよなって話だ」
 「えっ、何の話!?ちょっ、やめっ、こわっ、釘バットは嫌ぁぁあああああ!!!」
 




 その後、兎吊木垓輔を半殺しにした後、軋識は冷静になってみて気づく。
 女になったっていう夢はもしかして日々兎吊木に言われていることを想像してしまったからではないか?
 ということはつまるところ。
 結構知らず知らずのうちに兎吊木を結構気に掛けるようになっていると言う話なのでは?
 ごとりと愚神礼賛をベッドに立てかけ、兎吊木の方を振り向く。
 びくっとして兎吊木が一歩下がった。
 「・・・・・・・最後に一発殴らせろ」
 「ええええっ、ちょっ、もうほんとすみませっ、痛いっ!」
2006/6・1


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