一周年記念ミニリク

*変態兎に全力抵抗な軋識さんの兎軋小説*

「うぜぇっつってんだろ近寄ってくんじゃねぇええええ!!」
ばんっ、という、いわゆる平面のものが物体とぶつかったときに出る音をリビングに盛大に響かせて、兎吊木は顔面に当たったシルバートレイを律儀に手で取った。
お気に入りの薄いブルーのサングラスが顔に軽くめり込んだので、跡が残っていないかと丁寧に目の元を指でなぞりながら、目の前で「今なら新婚で幸せ絶頂ですとかって感じの夫婦も一瞬で殺します」と全身で物語る程、殺気をだしまくる殺人鬼を呆れたように肩を竦めながら見やった。
「まったく、俺の美貌に傷がついたらどうしてくれる。俺を嫁に貰ってくれるのか?大歓迎だぜ挙式は6月で」
「うるせぇ黙れさっさと出て行け。喋るな寄るな息をするな」
狂犬、もしくは手負いの肉食獣のごとく目をぎらぎらさせて兎吊木を睨む軋識は、臨戦態勢の状態で兎吊木を威嚇する。発情してるみたいだ、なんてイカレた考えをしながら、兎吊木はやれやれと両手を上げて見せた。
「お前なぁ・・・ツンデレにも程があるだろ?ギャルゲーでも、ここまで落としにくいキャラはいないぜ。このギャルゲー暦6年の俺様に手を焼かせるとは・・・そんなお前もあ・い・し・て・る。はぁと」
「きしょいわぁあああ!!!只でさえ高音だからもはや何が何だか分からん!そして「はぁと」って口で喋るな!指をくるくる回すな!!」
「何だよ。口調で表してほしいのか?早く言ってくれよ。俺達の心には言葉はいらんが、愛以外のテレパシーは受け付けれないから、細かい命令は口で伝えてくれ。いつでもお前の命令は大歓迎だぜ!さぁ今すぐにでも罵ってくれ。孕む準備はできている」
「会話が成り立ってねぇだろうが!しかも何だ孕む準備って!?妄想妊娠!?何処に孕むんだよ胎盤ねぇだろ!?」
「そこはお前、俺との愛が成せる技だろ?あ、つっこむのは俺の方で」
「知るかぁあああ!!」
両手を広げて迫ってきた兎吊木の顔面に、容赦の微塵も挟まずに軋識の踵落としが炸裂する。べきっと嫌な音を立ててサングラスが割れた。
がしゃっ、と無惨な音を立ててサングラスの残骸が床に落ちて一度跳ねる。
「うぉああああ!痛い!むっちゃ痛い!これ目に刺さったんじゃない!?俺のブルーが!」
両目を抑えて悶絶する兎吊木を鼻で笑いながら、軋識も口を荒げる。兎吊木の身よりも死線の蒼についてのコメントの方が重要だったらしい。
「俺のブルーって言うな!暴君が穢されるわ!」
「ちょっ、ほんとヤバイって。これほんと目に刺さってたらやばくない?仕事できなくなったらお前のせいだぞ」
がらりと変貌して酷く真面目そうに顔を抑える兎吊木に、流石に軋識も心配になってきたのか、(仕事ができなくなって死線の蒼の機嫌を損ねたりでもしたら申し訳なくて死にそうだ)おそるおそる兎吊木に近づいて、蹲る兎吊木の手を掴んだ。
「・・・・・・ちょっと見せ」
と、兎吊木の頭に手を添えた瞬間。
今までの動きは明らかに演技だったのだろうと分かるような機敏な動きで、がばりと兎吊木が軋識にキスをしようと覆いかぶさってきた。軋識はそのとき、呆然としながらも、もはや反射的に右腕を振りかぶり――――。

次の日、兎吊木が目を覚ましたのは都内のとある有名な病院の一室だった。



*あくまで執事ですからって言う兎吊木*

「あくまで執事ですから・・・なんとも深い言葉じゃないか。あくまでという言葉から考えられるに、彼は「あくまで」・・・徹底的に執事なのだから、これぐらいのことできて当たり前だと暗に語っている。だがしかし!あくまで執事なのでそれ以上凄いことはできませんとよと裏で、そう、主人の他諸々の人にあまり買いかぶらないで下さいねと遠慮しているんだよ。この引き気味の態度からして、ああこいつは能力があるのだが、執事と言う役柄故に自己主張することなく主に尽くす・・・この元々からの奴隷属性!そしてこの見た目のどっかで見たことある気がするこの姿、世の中の女性が放っとくわけが無い!ただでさえメイドとか執事とか日本にはびこる様になったのに、題名に最初から執事なんて入ってたらお前、レジ直行だろうな!しかもお前、ベタベタの癖にうっかり予想もついてないこのオチ!お前オヤジギャグかよと世間の何人がツッコミを入れたんだか・・・っていうかこの世界観からして、おそらく英国だが、「あくまで」、一応漢字であらわすと「飽くまで」という意味なんだが、ご存知のとおり「to the end」。「悪魔で」は「an evil spirit」・・・英語にするとギャグどころか全然つながりがないが、まぁこれは日本漫画だから許されるネタだろう。英語版なんかになった日にゃ、何のつながりがあるんだと茫然自失だな」
「・・・漫画片手に語る以前に、お前には仕事があるだろ・・・」
兎吊木は○執事と書かれているコミックスを片手に、扉に背を預け長々と語っていた口をやっと止めた。執事が着る様な燕尾服をきちっと着こなしているが、先ほど語っていた内容によって、格好よさは微塵も残されていたなかった。
ここまでしっかり読んだ人は居るまい。軋騎はテーブルの上のレモンティーを口に運び、苦々しげに顔を歪めた。
「しかも茫然自失の意味が分からん。何で我を忘れる必要があるんだ・・・」
「いや、しかしお前、これは一回読んでみるべきだぜ。執事以外の人間がまったく役に立たないという奇跡も起こってるし。しかも執事がフォークを指の間に挟んで投げるとか・・・どこの大道芸だとツッコミどころ満載だぜ。しかも見た目が某輪廻転生する人にめっちゃ似てる」
「知るか。さっさと仕事に戻れ」
手で追い払うように軋騎がぎろりと兎吊木を睨むと、兎吊木はお前・・・と目を見開く。
「俺に家事をさせたら、それこそドジっ子メイドよろしく皿は割るわ家具は壊すわのてんやわんやだぜ・・・?正気で言ってるのか?それとも俺にドジっ子要素を求めてるのか・・・?期待されてるんだったら俺ほんと、頑張っちゃうよ?」
「何でお前執事なんて役柄についてんだよ・・・!?・・・今からでも遅くない・・・首にするか」
「ちょっ、首の意味違くない?解雇するって意味だよ?何で包丁持つんだ。どんだけホラーなご主人さま☆なんだよ」
「ぐだぐだ言ってる暇があるんだったら、さっさと仕事に戻れ・・・すぐ行かなかったら、お前の部屋の少女コミック全部焼くからな・・・」
「おまっ・・・ハチクロを焼くなんて人間のすることじゃないぞ!?」
必死で少女漫画を守ろうとする執事(35)を蹴るように廊下へ追い出す。扉を早々に閉めようと軋騎がドアノブを引いた。
「待て」
それを、兎吊木が寸前で腕を中へとねじ込ませて、軋騎の手を掴んだ。
「何だ」
「・・・・・・あくまで執事でずっ」
台詞の途中で軋騎は半ば反射的にドアを力任せに引く。兎吊木の腕が扉に勢いよく挟まれ、嫌な音が屋敷に響いた。



*ツナザン*

 お腹すいたな・・・。
 ツナはぼんやりと心の片隅で思いながら、重い判子を朱肉に押し付ける。12時にはまだまだ時間があったが、朝食をかなり軽めにとったせいか、酷く小腹がすいていた。誰かに頼んで何か持ってきてもらうのは、朝食を食べなかった自分のせいだから呼びにくいし。
 ツナははー、と溜息をゆったり吐いてから、判子を書類の右斜め下にぐっと押し付けた。ずれないように気をつけながら、ゆっくり離す。幸いにもずれることなく印を押すことに成功し、判子を元あった場所へと戻した。サインは自分の字が汚いので気がひけるが、判子も判子でずれるかどうかかなり不安になる。
「腹減ったな」
 そこでやっと、ツナが存在を忘れそうになるほど無言だった男が、まるでツナの心の中を代弁するように呟いた。ツナの座る机の向かい側、黒いソファを二対向かい合うように設置させた片方にふんぞり返るように座るザンザスが、手に持った書類をぱらぱらと捲る。ヴァリアーの始末書だった。書いてある殆どにはベルフェゴールの名前が連ねられている。ザンザスはおもむろに立ち上がり、纏められたそれをツナの座る机に叩きつけるように置いた。
「飯食いに行くぞ」
「なんで俺もなのさ」
「腹減ってねぇのか?」
 減ってますとも。
 心の中で返事をして、ザンザスを軽く睨む。返答などすでに予想済みしていたのか、ザンザスははっと鼻でツナを嘲った。彼がボンゴレの血を引いていなければ、この異常なまでの感の良さは一体何なのだろう。ツナは苦虫を噛み潰したような顔でザンザスを見ると、「俺仕事終わって無いんだよ」と情けなく悲鳴を上げた。ツナには恐ろしいお目付け役の、黒い死神兼優秀な家庭教師がついているのだ。
 しかし、10年前、暴虐を人間にしたような暴君であったザンザスは、それがどうしたという顔で、
 「俺には関係ねぇよ」
 と吐き捨てた。
 うん、知ってた。こいつがこういう奴なのは。
 ツナは心の中とは裏腹に口元は笑みを作ってしまう。神経がいかれてきたらしい。
 十年前のあの日から、随分感性が狂ってきてしまったようで、ツナは書類をどさりと机の上に積み重ねると、何をするのかと怪訝そうな顔をするザンザスの手を握り締め、すたすたと扉の逆方向に位置する窓へと向かった。
 空いているもう片方の手で窓を開け放つ。絶好のサボり日和だ。こんなときに外に出ずに何するって言うんだはっはっは。
 「おい、ついにおかしくなったか」
 「そりゃいい。自殺したら、ザンザスにボスの席譲ってあげるよ」
 「・・・他殺は?」
 「絶対お前に譲らない」
 ちっと憎たらしそうに舌打ちが背後で一度。一生自分に席は譲られまいと分かったんだろう。頭がいい子は大好きだよ。
 ツナは窓辺に足をかけ、殆ど身を乗り出す形で窓に立つ。ちちち、と鳥が囀る声がする。それと、後ろで不機嫌なテナーの声。
 「どこで食うんだ」
 「どこでもいいよ。とりあえず、何か胃に入れたい。ピッツァとかどう?」
 「好きに決め」
 と、そこでザンザスの声に被さるように、ツナの腹からぐう、とありきたりな音が鳴った。ぶはっ、とザンザスの噴出す声。
 「あー・・・も、ほんと何でも良いよ。腹減りすぎてヤバイ。お前だって食えそうだよ」
 はぁ、と溜息を吐きながらツナが腹を押さえる。いまだ部屋に立ち、片手をツナと繋ぎ続けるザンザスは、先ほどの腹の音がツボに入ったらしく、まだくつくつと笑っていた。涙目のまま、するりと首元をわざとらしく晒し、ザンザスは情婦のように、にや、と笑ってみせる。
 「・・・喰えるんだったら、喰ってみろよ」
 「・・・そんなこと言うと、ほんとに鮫に頭から足の爪先までぼりぼり食べられちゃうんじゃない?」
 「あほな事言ってんじゃねぇよ綱吉。大人しく肉を捧げてやんのはてめぇだけだぜ」
 「・・・そ。それは役得」
 ツナは今度こそ、ザンザスの手を離して両手を上に挙げ、降参のポーズをとってみせた。

2006/8・01


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