■キチガイは違い続ける
 目の前に座り込む少年は変な真似をしたら即座に首の骨へし折ってやると視線で訴えるような目つきで俺のことを睨みつけていた。
 「いや、そんな目で睨まれても、両手両足を縛られて転がされている状態の俺に何警戒することがあるっていうんだ?それとも何かされるのを期待してたりとかするのかい式岸軋騎」
 「五月蝿い黙れ口を開くなその口の中の白い物を全て抜き取ってその歳で総入れ歯にしてやろうか」
 その嫌悪が含まれた視線と共に注がれた言葉にもたっぷりと嫌悪が入り混じっており、俺はとりあえず動けないので心の中で両手を上げた。それにしても式岸のマンションに一歩入ったら突然スタンガンで気絶させられて目を開けたら拘束されてたなんて、おじさん年甲斐も無く何かの新しいプレイかと思ってちょっと興奮しちゃったんだぜ。
 そんな恥ずかしい告白はやっぱり口に出すと総入れ歯にさせられそうなのでとりあえず自粛しておく。言っていいものと悪いものの区別もちゃんと付くんだからな?
 「くそ・・・鍵閉めて引きこもってたら誰にも見られねぇと思ったのに・・・とんだ誤算だ・・・!よりにもよって一番厄介な奴に・・・!」
 「そんな・・・鍵閉めて「準備万端!」なんて言ったらその時点で俺を待ち受けてるとしか思えないな・・・それにしても鍵一つつけただけで俺の行く手を阻もうとは、ぬるいなぁ・・・女性がダイエットのために浴槽に張った半身浴用のお湯のようにぬるいぜ」
 「なげぇよ」
 即座に突っ込みいれてくれる所は昨日と変わりない。変わっているのはその容姿だった。
 身長は恐らく150cm前後、かなり前に見かけた顔面刺青君よりちょっと低いかな、というぐらいだ。年齢は12,3のように見えるけれど、もしかしたらもっと若いかもしれない。28歳バージョンと同じ漆黒の髪を無造作に後ろに撫で付けているせいで、柔らかな髪がぴよぴよと零れていた。あれがギャルゲでよく描かれるアホ毛になってるんだろうなぁと思うとときめきで胸がはちきれるかと思った。うん、こういうキャラが居たらいいね。強気少女っていうのか、男装してる女の子はストイックかつ熟して無い感じで凄い犯罪臭いけれど、そこは二次元、愛の力で乗り越えれるさ。ファイトだ俺。そもそもサイバーテロリストが今更ゲームで犯罪がどうとかぬるいぬるい!
 「それこそ冷蔵庫から8時間前に取り出してしまったヨーグルトのようにぬるい!」
 「何がだよ!」
 突然の例えに話が見えないショタ軋騎が椅子に座ったまま引いた。ちなみに格好は普段のワイシャツに家族のために空けていた空き部屋に置いてあった顔面刺青君のハーフパンツを借りたようで、動くたびに見える膝小僧が可愛くて仕方が無い。撫で回したいですよねあれ。
 「しかしチラリズムってのはどうしてこうも無条件にときめくんだろうなぁ。パンチラはまぁ主流としてさ、某少年週間雑誌のテニス漫画で世界的に広まった腹チラとか、もう太腿チラ・・・語呂悪いなコレ。まぁいいや、太腿チラやらチラリズムに限界はないよね。水着とかなら普通に見える部分も一回隠されてしまうと見えるたびにどきどきするっていうか・・・年甲斐もなく恋しちゃいそうだよな」
 「同意を求められても困るが・・・とりあえずこっち見て言うな。そしてあえて言うなら視線が足に向かっているような気がするんだが、気のせいか?」
 「どうせ何処見たって怒るんだろ?足首とか膝とか見てても減るもんじゃないからいいじゃないか。少女もいいけど少年もね!みたいな」
 「話が脱線してるぞおっさん。おせちもいいけどカレーもね!と同じノリで言われても、とりあえず少年の方が語呂が合ってなくておかしいだろ」
 「おっなんだ、お前のことだから変態のような台詞は自重しろって言うのかと思ったぜ。予想を裏切ってくれるのはいいね。新鮮だ」
 「変態のようなっていうかお前は普通に変態だろ」
 「うっ、上手いこと言われた!」
 こんな正論言われると逆に返しにくいっていうか・・・うん、素で傷つくね。
 俺がにやにやしながら転げ回ってると、式岸は嫌そうに顔を顰めたまま時計をちらちらと確認し出した。
 「なんだ、時間制なのかこのイベント」
 「イベントって言うな。あと1,2時間で戻るって知り合いが言ってきてたからな。・・・流石にこの格好のまま成人になるのはキツイ」
 「いいじゃないか。少し滑稽だけれど俺お前の脚好きだぜ」
 「好かれてもなんも嬉しくねえよ」
 「だよなぁ」
 俺は笑いながら手首を捻った。両手が合わさった状態で、しかもあまり動かないように特殊な結び方をされているせいで体が攣りそうに痛む。しかしまぁそんなこと知ったこっちゃ無いし、人の関節の破壊方法も過去に頭に叩き込んでいたので、とりあえず俺は体を腕の上に押し上げるように捻った。
 「あ?」
 式岸の素っ頓狂な声が零れるのと同時に、俺の両腕がごきっ、と嫌な音を立てた。体に奔る激痛と共に結んでいた恐らくゴム製の紐が手をすり抜ける感触がする。
 「うっ」
 思わず悲鳴が漏れたが、そこは気にしない。変な方向に曲がった両腕は放置したまま、肘でどうにか体を起こし、そしてその勢いで無理な体勢で縛られていた両足もごきっと音を立てて変な方向へ曲がった。やばい。全身が心臓になったかのように脈動している。頭もがんがんと痛むし、悲鳴を上げても足りないぐらい絶叫したい気分になった。
 「いっ、ぐわっ」
 「・・・・・・」
 そして悲しいかな、俺を縛り上げた中身は30代手前、見た目は小学生の男はアホを見る目で床でのた打ち回る俺を見下ろしていた。視線にはありありと「こいつ・・・自虐趣味あったのか」と如実に伝えてきている。せめてMだったのか・・・ぐらいに思って欲しい。
 しかし、そんなツッコミをいれれるほど俺は正常に動けず、とりあえずなるだけ足首と手首を床に接触させないように膝だけで起き上がり、式岸が座っている椅子に上半身を凭れかからせた。
 「凄くないか俺。初めての大脱出」
 「いや・・・・・・・馬鹿だろ」
 見事な一刀両断だった。もう体は痛みで限界に達しそうだった。痛すぎて気絶もできないぐらいの痛みだった。これが気持ち良いなんてMの人はどこかおかしいんじゃないだろうか。・・・そしてこれを見てぞくぞくするSの人もどこかおかしいに違いない。
 「・・・両腕外して、どうやって関節戻すんだ?」
 とてもまともなことを突っ込んだショタっ子軋騎君は、どうやら俺の関節を嵌めてあげようなんて優しい考えは思い浮かばなかったようだった。くっいつでもどこでもサドっ子は時に鋭い刃になるんですね。
 「・・・位置決めて床に押し当てれば乱暴だが嵌めれるぞ・・・まぁ馴れてなきゃできねぇけど」
 「心配御無用。俺は素人じゃない」
 式岸も俺の台詞にへぇ、と少し驚いて目を見開いた。まぁ拘束された状態で関節外すなんて芸当ができるぐらいだからそれぐらいできると思ったのだろう。
 「俺は全ての技術を破壊のみにつぎ込んだって知ってるだろう?」
 「・・・・・・・・・・・・・まさかとは思うが」
 「うん、多分ビンゴ。『直す』事に関しちゃ、俺何もできないからねぇ」
 素人以前の問題で、外すのはできるけど嵌めるなんて多分一生できないね。
 少し自信満々に言ってしまった俺をまるっきり馬鹿を見る目で見て、式岸は細いその足をすぐ前の俺の肩へとのせた。ハーフパンツの裾から覗く白い太腿だけ見ると、少女と少年の差なんてほぼ無いに近い。
 「じゃあ、ついでに首の骨も外してやろうか」
 「予想してたけど、俺の骨はめてあげるって選択肢は無いんだね・・・」
 「縛っておく手間が省けた。あと2時間、そのままでいろ」
 まさか、SMプレイに続いて放置プレイまでされるなんて!俺はとりあえず愕然としながら、顔のすぐ横にある軋騎の少年版の足を嘗めようかどうかとりあえず悩んでおいた。いや、まぁ嘗めるんだけど。
2008/01・17


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