■お題36から41まで
■愛しさと殺意って何処か似ているね(鈴無音々)
扉を開けて、向こうにいる人物を目で探せば、半分予想通りに姿は無く。
建物が自分のものでないことも忘れて、銜えていた煙草をフローリングの床に吐き捨てる。靴裏で踏み潰して心中で悪態を呟いて、続けて近くの壁に拳をたたきつけた。
深呼吸をして数秒止まり、くるりと踵を返して、「くそったれ」ついにも口から出てしまう。
みいこ、みいこ、アンタはアタシが知っている以上に馬鹿で間抜けでヌケサクだよほんとにまったく!
苛々している心と真逆で、いつの間にか口は笑ってしまっていた。
あの間抜け面した友人に説教できるのが楽しみなのか、
それとも私の大切な友人は、分かりきってるほどにお人よしなのが、誇らしいのかどうなのか。
「(大概、アタシも馬鹿みたいだ)」
今日も誰かのために一人で勝手に傷ついてる友人を思って、殺意と愛しさを同時に膨らませ、鈴無音々は今日も笑む。
■探し者はきみでした(ぼく)
暗い路地裏を一人で歩いて、ぼくは辺りを見回し巡る。
殺人鬼に会い真っ赤な麗人に会い、優しい夕日に会い狐に会った。
スニーカーは擦り切れて足はがくがくと震え、喉が渇いて咳が出る。路地裏から抜け出して、結局収穫は何も無い。苦し紛れにその場に倒れこんで、アスファルトの冷たさに安堵した。
「ねぇ、何してきたの?」
ふとかかった声に頭を上げれば、驚くほどの晴天が空に広がっていて、蒼い目をした女の子が、にこにこ笑って立っている。
「君を」
ずっと、探してたんだよ。
■もう誰も殺したくはねぇけれどきっと無理だろうねだって俺は正真正銘本物の殺し屋でしかねぇからさ(匂宮理澄)
もう疲れた、と僕は言って、さぁ殺しに出かけよう、と僕は歌った。
幸せに生きるって何だ、と僕は嘯いて、ケツ振って逃げ惑う豚の腸穿り出そう、と僕は囁いた。
あの子は幸せに眠っているだろうか、と僕は嘆いて、あの子は幸せに遊んでいるだろうか、と僕は喜んだ。
今日も血潮の招きにあって、ステップ踏んで駄目な生き物の狩りに出かけよう。荷物は何もいらないもので、たったこの身一つが、あの子と繋がっている証拠があれば、ただ天にも昇らん気持ちなのさ!
長い黒髪翻し、素敵な殺し屋さんは今日も夜の帳の中を跋扈する。
■棺の中に眠っているのはお姫様だけとは限らないでしょうそう 例えば(早蕨弓矢)
大切に守ってきたこの心の裡に囲い込み、丁寧に釘を打ってそれを隠した。何も見せないように大切に閉まってきたものだったから、兄は勿論、それは何かと聞いてきた。それでも私はそれを見せたくなかったので、何もないのよ何もないのよと嘘を吐き、それを抱えて逃げ出した。優しい兄は追っては来なかったけれど、逆に兄が私を見てくれないと突然不安になって、にいさまにいさまとその足に縋りついた。女はいけませんか貴方の女になれませんか私は貴方の妹などではなくあなたのおんなになりたかった!
惨めに縋りつけば、私を見てくれない兄は私の抱く棺をちらりと見て、興味もないように視線を逸らした。ああ、ああ、おにいさま、貴方が望むのならあなたにだけになら私のこの棺開けて御覧にいれるからおにいさまわたしを見てくださいああ、ああ。
私は丁寧に打ちつけた釘を力ずくで剥ぎ取って、さぁ、ほら、私を見てください、と箱を見せ付けた。気味が悪いと兄様は吐き捨てて、兄様は「×××さんのうらぎりもの!」と私を詰った。ごとりと落とした箱の中から零れ落ちた醜いおんなの私は殺人鬼に殺された私を一笑に伏して、「いつまでも貴方は子供のままね」とそう馬鹿にしやがったのだ。
■子守唄みたいな悲鳴は途切れることなく 永遠と(右下るれろ)
殺人鬼たちの絶叫、雄叫び、咆哮、それらをのんびり聞きながら、眠る子供はそれらを殺す。殺して殺して殺して殺す。橙色の髪が汚れることも知らないまま、柔らかな陽だまりの中をしなやかに踊っていく。それをじっと見つめて、私はこれがいつまで続くのだろうとどうでもよいことをふと、思った。狐さんは彼女が世界の終わりを招くとは思っていない。そう言うのならそうなのだろう。世界の終わりになんぞ何ら興味はなかったが、この美しい太陽がいったいいつどうなってしまうのか、ということを考えた。彼女は人を殺し続けるのならばそれはつまり己の手の内から逃れられないことを示していたし、それならばこの子守唄も途切れはしないのだろう。彼女はすやすやと眠ったまま、その手で命を軽々と摘み取っていく。罪取って行く。
しかしそれも結局るれろにとってなんら意味を持つことは永遠にないのだろうから、きっと彼女が生まれて死ぬまできっと彼女は悲鳴を子守唄のようにして緩やかに眠り続けるのであろうし、きっと彼女が目覚めても、また悲鳴は鳴り止まないのだろ思うと、やはりどうでもよくなって、るれろは狐に会いたくなった。
2010/9・29