■お題31から35まで
■君の為に最上の終わりを与えてあげよう(神足雛善)
「君に死んでもらいたいんだ」
男は深い考えも無さそうに、さらりとふわりとするりと水が零れて墜落するようになだらかに撫でやかに言った。
「玖渚友のためですか」
男は返答もせず、ただ笑みを深くしただけだった。しかし、サングラスの向こうで熱を持たない目玉の奥が、静かな憤りを孕んだことに俺は気づき、そして口を閉ざす。
「彼女を軽々しく言うものじゃないよ、神足君。神足君。彼女をそう軽くとってもいいのはね、『何も知らない人間』と、『彼女を仇名す人間』だけなんだよ、神足君」
「すみませんね、兎吊木さん」
うっすらと目を細め、男は笑う。
「もう俺が君に助言できることは何もないさ。さぁ、俺を殺してくれよ」
安らかにあでやかにつややかに緩やかに男は笑う。太陽に当たらない生白い指先が己を誘った。
■天国ですか地獄ですかそれとも過去ですか未来ですかねぇ此処は何処ですか?(佐代野弥生)
「・・・・・警察に出さない?」
「あら、そんなに愕かなくったっていいじゃないの」
赤神イリアは優しく微笑んで見せた。私は理解することができず、そんな、と言葉を無くす。
「だって――――――人が死んだのに」
「天才と天才の命はつりあう以前のものよ」
イリアは笑う。呆然として恐怖に立ち竦む弥生を、まるであやす様に微笑んで、そっとその洗練された両手に触れた。
「私がもしも殺されたとしても――――その犯人は隠蔽されるのですか。これからも」
「ええ。例え貴方が人を殺したとしても、貴方のことは匿うわ」
まるで人殺しを促すかのようなそんな女の言葉に、弥生は目の前が暗くなるのを感じ、ゆっくりと瞼を閉じた。女の匂いがして、いっそこんな才能いらなかったと神を憎んだ。
■綺麗事だって時としてそれは立派な凶器になりえるさ(葵井巫女子)
「人殺しは、悪いことだよ」
少年は言った。分かってるわそんなこと。分かってるから、どうしてそんな目で見るの。
悲しみが心臓に巣食って嗚咽が零れる。息苦しさに溜息を飲み込めば、世界と己が遮断された気分になる。
吐き気がする。喉が締め付けられる。苦しみは私を殺せない。
「人殺しは、悪いこと、だよ」
少年は繰り返す。わかってる、わかってるから、蔑まないで嫌いにならないでそんな目で見ないで殺してない、殺したかしら、もう殺さない、でもそんな目で見られるぐらいならいっそ死んでしまったって――――――――ああ。
少年のこの言葉で、悲しすぎて死ぬことが叶うならば。
■守ってやるって云って簡単に死なれちゃあ僕はどうすりゃ いい?(奇野頼知)
例えば俺の右手の薬指から伝わった毒があなたから音を奪ったとして、
例えば俺の左手の人差し指から巻き散らかされた毒が貴方から視覚を奪ったとして、
そしてそれが俺をどう変えるだろう?
俺がほしかったのは少しだけのあんたの幸福な時間と、少しだけのあんたの時間を共有する時間だけだったのだけれど。
反転する視界のなかで、暗く染め上げていく視覚のなかで、おれがさいごにみたかったのはけっきょくのところ
■どうしたら君の世界を破壊することが出来たのかな?(春日井春日)
わたしはまったく面白くない。
なんといっても面白くないのだ。
私のお気に入りの全てはとある少年に持っていかれてしまった(むしろ少年がお気に入りだった)し、
私の祈った全ての事象は(むしろ祈るべきは弥生ちゃんのディナーの内容だったかも)全部いつの間にか雲散霧消しちゃうし。
あっというまに奪い去られることはもう慣れたものだったけれど、私は悲しくて悲しくて仕方が無い!
嘘だけど。でもね、でも少しだけ楽しかったのはあの少年が最後に見せたあの踏ん張りだったんだよ。
これは嘘じゃない。
実際私はあの子が壊れることはつまるところ世界の理みたいなものだと思ってたから、あんなにあっさり持ち直すなんて思ってなかった(それだけあの子があのみいこさんに想いを寄せてるってことなんだろうけど)(あの子のことだから私がメイド服とか着て慰めたら案外あっさり立ち直るかもしれない)(いつかやってみよう)(多分忘れるけど)
だからねぇ、あの20階段だか100階段だったか分からないけどとりあえずなんか上がったり下がったりできそうなグループじゃないけど、私はある意味あの子の世界が壊れちゃう所を少しだけ期待していたのかも、なんて思うのよ。
きっとつまらないだろうけど。
きっとあの子の世界が壊れちゃうなんての、すっごく造作もないことで、壊れようが壊れなかろうが誰も喜ばないしだれも悲しまないようなものだったんだけど、むしろそれが私の望んでた終わりだったのかも。
だって私は意思の無いことを愛することにすら興味も無い女なんだから。
いえーい。ちょっとかっこいいこと言えたかな?言えてない?しょっく。
ああ、面白くない。面白くないけど、幸せ。
2009/1・19