■お題16から20まで
異端ですか居たんですかそれとも逝ったんですか (匂宮出夢)

 「失敗作だ」
 誰かが言った。偉い人間だ。己よりも。
 そんなことを頭の隅で感知しながら、手に残る感触と殺した相手の血で生臭い己の体を見下ろした。
 臭い。
 眉を顰めて体をそっと後ろに引いた。
 どす黒く身の底にたゆたう殺意はぐるぐると旋回しつつ、奥に沈んでいく。
 「感情に異常が」「弱さの欠落がある」「強弱がない」
 まるで永遠に繰り返すフォルテッシモの音楽のように。
 強さのみが支配する世界。
 「お前の弱さができたよ出夢」
 異端者は何処からともなくそこにいつからか居て、弱さを奪われそこから逝った。



痛みを知らず傷つくままに傷ついたのは (一里塚木の実)

 私の恋敵は男である。
 ついでに死者である。
 ついでにいうと私が恋している人は当たり前に男である。ホモではない。
 「狐さんの顔って見てると落ちつかねー」
 「そうですか?」
 病毒遣いが喚いた。
 彼の表情を見ると、酷く世界を興味の無いものと見ているのが丸わかりだ。
 それが私達であれ。彼は思考するのを止めているからその顔は酷く味気ない。
 しかし私は、彼が狐の面をつけていることに落ち着かない。
 その面は彼が彼に対しての思いが張り付いてる。まるで彼と二人きりの時でも彼との間に彼が居るかのようだ。
 「木の実、来い」
 「はい」
 返事をして、彼の背を追う。彼の仮面が外されることをいつか望みながら、この胸の痛みを知らずに過ごす。



生に至る病死に至る救い又は 破壊 (西東天)

 一から壊して世界の果てを拝んでみてぇ。
 世界の果て?
 世界の終わりだな。っていうか。
 ふん、世界の終わり。見れるんじゃねぇのか?潤がいるだろ。
 ありゃ駄目だ。優しいからな。壊すっつーより発展するのを望んでるじゃねぇか。
 世界の果て、か。世界の終わりの?
 いいだろう。惹かれるだろう?天。きっと、良い眺めだぜ。
 ふん、良い眺め、か。成る程、見たくなったぜ明楽。
 ああ・・・・きっと、美しいんだろうな、世界の、終わりは。
 ・・・・・・・・・・。
 見たかったなぁ、世界の、果てを。



我赤故に 赤 (哀川潤)

 御託は要らない。理由もいらない。そんなくだらないの、いらない。
 つまらないつまらないつまらない世界だ。
 くだらなくて反吐が出る。
 あたしに理由は要らない。敵に理由はいらない。私に必要なのは赤色だけ。
 赤だけが私をここに置かせる。
 ああなんて世界はこんなに色が無いんだろうね?
 (きっと皆あたしに負けちゃうからだ)
 (思い出せよ、お前らはそんなつまらないはずが無い!!)



泪で汚さないで下さい (石凪萌太)

 泣いていた。
 目の前で、女は惨めったらしく泣いていた。
 殺し屋だというのに―――人間のように、当たり前な人間のように、
 儚く、弱く、惨めに、悲しく、同情を誘うように。
 泣いていた。
 しかし仕事なのだ。僕の仕事は、人を殺すこと。
 重い鉄の塊を両手で振るい上げ、女の肩へと導く。
 息が苦しい。
 上手く呼吸ができない。
 女の泣く声が、止まらなかった。
 「人殺しの癖に―――・・・」
 自分が死ぬときは泣くのか。
 喉がからからに渇く。僕は静かに目を閉じて、両手に伝わる感触に嗚咽を上げた。

 (人を殺したことを、誤魔化すんじゃない!)
2007/6・15


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