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 お題11から15まで
笑って泣いてそうしてもう一度だけ 笑って(紫木一姫)

ぼーっとする頭で立ち上る煙を見ていた。
師匠の知り合いの人かどうか分からない大人の男の人が煙草を吸っている。
「(煙たい・・・)」
鼻を突く苦い匂いが、彼女を殺したのだ。
さっきまで、頭がぼんやりしていたときはまだ彼女の死を認識していなかったのに。
煙のせいで、彼女が私の中で、やっと死ぬ。
「紫木」
誰かが私を呼ぶ。さぁ笑え。泣いている暇など、私なんかには、無い!



あぁ綺麗ですねその色具合といい形といい見蕩れてしまいますよ美しき哉 血飛沫(根尾古新)

さっきまで共に話していた人間が目の前で死んでいた。
「それにしても良い死にっぷりですなぁ。そこまで壮観だと掛ける言葉も思いつきませんや」
重い体を揺らして一歩踏み出す。それだけで外から入り込む光に当たらなくなり、部屋全体が薄暗く感じる。
生臭い匂い。
すん、と鼻を啜ると鼻の奥を鈍い痛みが襲った。顔を顰めて見せるが特に何も起こらなかった。
目の前の男はただ死んでいた。
「いいですな。私も死ぬときぐらい華やかに生きたいもんだ」
先程まで吐いた嘘はきっと目の前で中身をさらけ出しているこの体から抜け落ちたのだろう。
己の醜い言葉の数々は目の前には少しも残っていなかった。



もしもし貴方 死んで下さいませんか? (闇口濡衣)

するすると滑るように屋根の上を伝っていく。
主に命じられた命令を遂行するために、ただ早く、時間通りに。
珍しく死に方も説明された。別に気にすることは無い。それを実行することのみが己の生きる術。道。
路地裏に入った標的を見送ってからゆっくりとそれの上に移動する。時間通りに人を待つように立ち止まる。
それを見下ろし、壁を伝って下へと降りる。
白いうなじがくくり上げた髪から解けた髪の毛の隙間から覗く。
ゆっくりと狂気を手にして、ゆっくりとそいつの右肩を優しく叩いた。
振り向くまで一秒も掛からない。



畏れと快楽殺しと代償願った未来と望んだ破滅 (時宮時刻)

 畏れるものと快楽の伴うものは同じものだと誰かが嘯いていた気がする。
 人殺しに代償なんてそんなちんけな物吊り合わないと誰かが謳歌していた気がする。
 誰が言ったものだか世の中には面白い言葉でいっぱいだ。
 人を呪う呪い名にはしみじみと来るもので溢れている。
 そんなものを目にするたび、ぼくは毎度この世界を憎む。
 知った風な口を訊くなよ。お前ら何を考えながら生きてるんだ?
 くだらない生き方だ。
 狐が言った。
 「お前の望む未来は?」

 「ご存知の通り、永遠に続かない破滅 だ よ 」



赦してと乞う君と笑うことを忘れた僕(宇佐美秋春)

 黒子が紐を持ちつつ俺の前に立っていた。
 顔は見えない。俺はなんだよくだらねーとか思いつつ、炭酸の抜けたファンタを呷った。
 「で、何、そんなチラリズム完全防備な衣装着ちゃって。つまらないですなぁ」
 おどけて見せるとそいつは紐をぎっと握り締めた。あららなにそれ俺ってつまりどうなっちゃうわけ?
 まぁ、殺されるわけですが。
 俺は少しだけ距離を取って、一応訊いてみた。
 「お前それ、自分で決めたの?」
 「・・・・・・・・そうだよ」
 そいつはぼつりと呟いた。
 ふーん。へーえ。そーう。
 せめてあと一人ぐらい賛同者が居たら暴れてやろっかなーとか考えたのに。
 「いっくんも可哀想になぁ。っていうか俺も可哀想になぁ」
 目の前の人間が顔を歪めた気がした。
 「謝る」
 そいつが呟いた。
 何やってんだろうなぁ、どいつもこいつも。
 その時確実に、俺は笑顔を忘れて、一人呆れた。
2006/8・16


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