お題6から10まで
*拝啓 この命捧げましょうか最愛の君 (兎吊木垓輔)

 死線の蒼からメールがあった。
 それは堕落三昧の所に行って1ヶ月ほど立ってから、暇つぶしのための用件だけが綴られている些細なメールだったが、兎吊木は死ぬほど喜んだ。
 部屋で泣いた。
 堕落三昧にデータをやれるだけやった。
 メールの内容は半分ほどが恋敵についての話だったが彼女が幸せのようだったのでにこにこしながら返信を書こうとしていた。
 すこしでも彼女の脳に引っかかるように。少しでも彼女を喜ばせるために。
 出来るだけ嫌な言葉を使おう。彼女の幸せを妨げないように。
 「「いーちゃん」に、会ってみたいなぁ」
 そして会ったら言ってやろう。彼女がどれだけ苦しんだのか。どれだけ俺らが苦しんだのか。
 


*憧憬理想緩やかで確実な 死 (円朽葉)

 自殺をする生き物を、俺は人間とは認めない。
 彼はそう言っていた。つまらなさそうに、楽しそうに。
 朽葉は剃刀を右手で弄びながらテレビを見ていた。人気急上昇中の若手芸人だかが何か叫んでいる。
 ステージの上で芸を披露しているので、会場に座っていた観客は口を押さえたりして笑いをこらえていたり、口を大きく開けて笑っている。
 歳を取らないだけで肌を切れば血は出るし、首でも切れば死ぬ。
 別に死にたいわけではないけれど、朽葉はなんとなく剃刀の刃を左の手首に押し当てた。
 どっと人の笑う声がした。ふとテレビを見る。
 「・・・・・・・・・・・ふふっ」
 相方に蹴られて這い蹲った人がなよなよした動きで「怪我をさせたんだから俺を嫁に取れ!」と叫んだ。
 『もうええっちゅーねん!』
 二回目の蹴り。
 朽葉はからからと笑って剃刀をテーブルに置いた。小難しいことは、これをみてから考えよう。そして、お腹が減ったら冷蔵庫に行って何か取ってくれば良い。



*白く清く滑らかな骨のように (市井遊馬)

 「あっ・・・」
 小さく遊馬は悲鳴を上げた。かしゃかしゃと軽い音を立てて床に散らばるペンケースの中身がころころと転がったりしながら遊馬から離れていく。
 疲れでも溜まっているのだろうか、と溜息を吐きながら屈みこんで何本か鷲づかみにして拾い集めた。
 バラバラになっているボールペンなどに、一昨日の知り合いの葬儀の骨を思い出す。
 こちら側にまったく関係のない彼女の骨は、真っ白だった。小さく、儚く、清く、滑らかな。
 台の上に無造作に置かれているそれを、割り箸で優しく挟んで灰の中から助け出した。
 『人殺しの貴方も、死んだらこんなにきれいな骨が残るのかしら・・・?』
 ぼんやりと言っていたノアのあの言葉。
 「・・・・・・残ると、良いんだけれど」
 果たして戦場に身を置く私は、灰の中に埋もれるのかしら。
 きっと血だまりの中に肉と共に残されて、檻神家によって血に沈められるのだ。



*本能のままに殺し煩悩のままに血を求め (零崎軋識)

 人を沢山殺すと、自分が人を殺すのが好きだと思うことは無いか?
 そう、聞いてきたのは一体誰だっただろうか?零崎の誰かだったか?それともかつて対峙した殺し名の誰かだっただろうか?それとも、あの崇高なる蒼色のいけすかない奴隷だったろうか?
 俺はあの時、なんと返答したのだったか。
 すでに記憶に留めていない。
 「本能のままに殺し煩悩のままに血を求め!」
 なぁ、だってぼくらってそういうもんだろ?
 目の前で笑う殺人狂いが首をかしげながら聞いてきた。
 「獣みたいに肉を捜して這いずり回ろうぜ!」
 成る程、明瞭かつ良い誘い文句だ。
 俺は静かに鼻で笑う。
 「てめぇの死体とだったら、了承しなくも無いっちゃがな」



*狂ってるって?それって最上の褒め言葉 (ノイズ)
 
 イカレてると言われた。
 何を今更、と思った。
 世界の終わりが見たいと、自分の忠する男が言った。
 そりゃあイイネとボクは笑う。
 この世界で自分を分かっている人間など居ないのだ。とても死にたい。
 とても死にたい。いつも死にたい。今でも死にたい。
 自殺は最も愚かな行為だといつだったか誰かが言った。
 じゃあボクは殺してもらうヨ。
 とても殺してもらいたい。いつも殺してもらいたい。今でも殺してもらいたい。
 そんなある日、誰だかが言った。
 イカレてる。
 何を今更。
 ボクは呆れた。
2006/6・20


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