■ブログ短文集

(会話)
「参りました景識兄さま」
「何がですかぁ」
「なんだか太腿のところが突っ張ったような痛みがございますの。階段を上り下りするのがきつくて仕方がありませんわ」
「それ筋肉痛じゃん!」
「筋肉痛になった殺人鬼なんて初めて見たよ」
「まぁ、良家のお嬢様だったんだからしょうがないとも言えるんじゃないですかぁ?不肖だって、殺人鬼になりたてのころなんか腕が筋肉痛になりましたからね」
「あんたらどんだけ貧弱なのよ!」
「飛織がマッチョなだけだろう?」
「そこはマッチョって言わないでよ!確かに筋肉はついてるけど、そこはせめて怪力って言ってよ賢識さん!」
「っていうか言っておきますけど、不肖が筋肉痛になった理由は人を磔にするのが重労働だからですよぉ。抑えたまま突き刺すのってあんたらが考えてるよりよっぽどきついんですよ」
「それは重々承知ですわ景識兄様。ですが飛織姉様にとっては子供を持ち上げるのとそう変わりない作業ですわ景識兄様」
「蜜織、勝手に人を本当に怪力みたいに言わないで」
「飛織は怪力じゃないか」
「マッチョって言われるよりは格段にいいけどやっぱりそれはそれでムカつくわ」
「痛い痛い絞まってるってば!爪先浮いてんだけど!」
「応援してまさぁ賢識の先生」
「幸福を祈っておりますわ賢識兄様」
「ちょっと放置プレイ!?」



(景識と零崎)
「景識・・・トキが大怪我したっちゃ」
「やった!珍しいっすねぇ」
景識は、軋識がそう伝えると目を見開き嬉しそうに歓声を上げた。それを呆れた目で見やりながら、軋識はお前・・・と言葉を無くす。
「残念ながら、それは嘘だけれどね」
「あ、曲識の兄さん」
丁度良く扉を開けて入ってきたその張本人はぴんぴんしたまま近くのソファへと腰を沈めた。先程まで喜んでいた笑みを無くし、景識はちぇっ、とわざとらしく舌打つ。
景識はよく、わざとそんな事を言った。それが冗談でなくとも家族の怪我には笑って済ますのだ。双識がそれを叱っても、それを治すことはしなかった。曲識が言うには、軋識が怪我したときも同じような反応をしたらしい。
「あの子は少々、駄目な子だね。家族というものがなんたるか、一から教えなおすべきかもしれない」
双識はたまにそう呟いていた。しかし、全員がそれは意味の無いことだと分かっている。
景識は家族の大切さというのを本当に理解しているのだ。理解したうえで、あのように笑う。
だから、軋識は双識が亡くなった事を笑われたら、もしかしたら殴ってしまうかもしれないと思っていた。
「レンが死んだ」
他の家族数人を呼び出した時に、軋識はそう伝えた。一同が息を呑む中、景識は軋識の顔をじっと見つめ、口をゆっくりと開き、そして何も言えずに口を閉ざした。
「――――――――」
ぼろ、と大粒の涙が景識の片目から溢れた。溢れた涙は止まることを知らず、口火を切ったかのように流れた。
ぱたぱたと水滴が無表情の景識の顔を伝い、ジーンズに染みを作る。景識が口を開いた。
「―――――――誰が殺したんですか」
じわりと衣服に滲みた涙が広がり、黒い点を作る。
鬼はゆっくりと頭を上げた。



(景識が命知らずだったのでキリ番没)
 「あれ、まだ生きてたんですねぇ曲識兄さん」
 平然とした口ぶりなのに、言っていることは演技が悪いにも程があるほどの台詞を呟きながら、零崎景識は約7ヶ月ぶりに家族達との再会を果たした。
 ソファに座りながら珍しくヴァイオリンを弾いていた曲識は、「ひさしぶりだね景識」と特に感慨も無さげに優しく囁く。その隣にぐだぐだと崩れた格好で座って、というか寝ていた人識はその名前に軽く頭を上げ、二度目の、否三度目の再会を果たした景識を眺めた。
 リビングの入り口に立つそいつは肩から黒い布製のスポーツバッグを提げていて、何故か分からないが藍色のツナギを着ている景識は、上半身の部分を開けて腰の部分で袖を結び、上に黒い長袖を着用していた。前回初めて出会ったときは右目が眼帯で隠されていたが、今度は逆の左目が、以前と同じく医療用目的の両耳にゴムをひっかけるタイプの眼帯で隠されている。
 「左目、どうかしたのかい」
 「いや、それが昨日寝てる間に蚊に刺されまして」
 曲識のいつもどおりの質問に平然とそうとって返す。嘘じゃねぇの、とでも言うかのような目で人識が景識を睨むと、景識はすっと鞄を向かいのソファに下ろし、眼帯を外した。
 左目の瞼は確かに腫れ上がり、例えるのならばお岩さんのように赤くその目を覆い隠していた。熱を持っているのか虫に食われたその瞼の下から微かに伺える景識の目は涙で潤んでいる。
 「・・・・・美形が台無しだな」
 「美少年に言われても説得力がないですねぇ」
 それは自分を卑下するような台詞というよりは、むしろ人識のことを馬鹿にするかのような言い草だった。遠いとはいえ本当に血が微かに繋がっている関係としても失礼な言い方だ。
 当たり前のように人識が顔を引き攣らせながら喧嘩腰になるかと体を浮かせ、ソファにきちんと腰掛けた。本気で言い合いを始めようとでもする姿勢に曲識は溜息を吐きそうになったが、しかし咎めることはせず、同じようにヴァイオリンの弦を引く。きぃ、と音を立てて、緩やかな音楽が室内を満たした。
 家族喧嘩も、悪くないといったところだろうか。
 「前回会ったときは右目がなんかなってたよな。ものもらいだったか?目玉呪われてんじゃねぇのか景識さんよ」
 「まぁ呪われてるのかもしれませんが、抉る訳にもいきませんしねぇ・・・もしも呪われてるのが瞼だとしたら、抉った目玉が抉り損ですし」
 嘲笑うように景識は呟くと、手にした眼帯をもう一度付け直した。眼帯が抑えるガーゼをちゃんとついているか確認した後、やれやれと呟きながらソファへと身を沈ませる。
 「でもいつも片目な訳じゃぁありゃせんよ。曲識兄さんは不肖がちゃんと両目かっ開いてたの見たことあるでしょう?」
 突然話題をふられた曲識はヴァイオリンを弾き続けながら、「まぁ、二回ぐらいしか覚えていないけれどね」と返答した。曲識と景識がどれほどのつきあいなのか知らない人識は、それが多いのか少ないのか測ることができなかったが、まぁ過去に両目無事でも無事でなくとも、今の俺には関係ないかとそれについての詮索を止めた。
 言葉を途切れさせた人識と曲識を一つしかない目玉で、未だ視線を合わせないように胸元に視線を向けつつ、景識はにやりと突然口元を歪める。
 「しかし、不肖のことを呪われているだかなんとか言いながら――――結構零崎は紅の馬鹿女に呪われている気が、しないでもないですけどねぇ」
 そんな言い草に、曲識がその弦を引く手をぴたりと止めた。静寂が室内を満たし、人識がびくりとそれに驚きながら曲識を見つめる。
 「・・・・・紅の馬鹿女?」
 「おっと、曲識兄さんにゃ禁句でしたかね。不肖の悪い癖ですよ。どうにも雌に対して好意的になれねぇもんで。これは失礼」
 「いや――――――」
 景識の言葉に首を傾げながら耳を傾ける人識の隣で、また曲識が音楽を奏で出す。先程と変わらぬ緩やかな曲調に、室内がふっと暖かくなった錯覚を覚える。
 「言いえて妙だと思っただけだ。君のお姉さんの嫌い具合は世界の女性も敵にまわすとは思っていたから、人類最強もどう呼ばれるかと微かに腹を決めていたのだけれど――――思っていたより怒らずに済んだ」
 「おや、おやおやおやおや。予想よりも軽い言い方でしたか?それは重畳。不肖ももしも実際に、曲識兄さんや軋識兄さんと同じようにそいつとあっちまったらどれ程気に入られちまうかと危惧してたんですけどねぇ―――大して目をつけられそうになく、胸を撫で下ろす気分でさぁ」
 「なんだよ、誰のことだよ」
 人識を放置したまま続けられる会話にぎりぎり踏み込み、人識は会話に混ざることに成功する。景識はこれは失礼と少し笑いながら肩を竦め、曲識は只でさえ緩やかな曲調をさらに緩やかに変えた。
 「零崎の何人かが既に出会っちまってる、人類最強の変な女ですよ。髪も目も赤い上に、着てる服も赤いから、見つけたときはすぐ分かるそうですよぉ?ま、不肖はまだ会った事はございませんが」
 「レンはどうやら会いたがっているようだが、今の所会えてはいないそうだ。僕は彼女がまだ少女で、まだ人類最強にすらなっていない頃に一度会ったことがある」
 「・・・紅の馬鹿女?」
 「紅の馬鹿女」
 人識の疑問系の言葉に、にやにや笑いながら景識が答えた。人類最強相手に馬鹿女とはこの男もなんて奴だと思ったが、今更な話だ。
 「不肖がこの世で最も恐れるモンは血の繋がった唯一の姉貴だけですよぉ。人類最強なんて面白い女相手に畏怖なんてできやしません。それが不肖の信条ですから」
 子供が虚勢を張るようにも見えたが、景識相手に何を言おうと、確かに景識を脅かすのは実の姉だけだろう。景識の全ては姉から始まり、全て姉で終わる。人識は既に記憶の彼方に消されている母の顔を思い出そうとしたが、既にそれは灰となって人識の中から既に飛んでいってしまった。
 「言うぐらいなら誰にだって言えるっちゃからね」
 「でもデイ。やっぱり女性相手にそういう台詞を使うのは感心しないね」
 呆れたような声と諭すような少し強めの声の二重奏がキッチンの方からのんびりとやってきた。
 軋識は両手に二つずつマグカップを持ち、双識は片手に一つマグカップと、空いたもう片方に曲識の土産代わりの芋のパイが入っている箱を持っている。人識達が座るソファの横にある一人用の椅子に軋識が腰掛け、荷物をどかして人一人分の座れる場所が空いた景識の隣に双識が腰を下ろした。
 一人に一つずつ渡されたコーヒーの淹れられているマグカップを手に取り、景識が意地の悪そうににぃ、と哂う。
 「あれ、軋識兄さん、会ったんでしたっけ?」
 「・・・まぁ、一度だけっちゃけどな。人識、とりあえず人類最強に会ったら、第一に、逃げろ」
 「そうだな。それが一番の得策だろう。悪くない」



(景識とラブレター)
「・・・・・・・・お」
「どうしたっちゃかデイ」
「いや、部屋の掃除したら懐かしいもんがでてきまして」
「なんですか?手紙?誰からですか?・・・・はっ、ま、まさかそれはっ」
「恋文じゃぁないですよぉ舞織ちゃん」
「恋文って言うのか・・・?せめてラブレターじゃねぇの・・・?」
「今更だろうデイの変な喋り方も。しかし、それもまた、個性を出すという意味では、悪くない」
「でも、手紙なんて貰っても読まずにそのまま捨てるような奴だと思ってたっちゃけど、案外大事に持ってるタイプなんだっちゃね・・・」
「いや、捨てはしないですよぉ。・・・まぁ読んではいないんですがね」
「一番駄目なタイプじゃねぇの!?」
「ラブレターじゃなかったら、誰から貰った手紙なんです?」
「双識兄さんからですねぇ」
「ラブレターじゃね?」
「ラブレターじゃないんですか?」
「同じくラブレターだと思うっちゃ」
「・・・悪くない」
「双識兄さんのことを何だと思ってるんですかぁ?いくらあの人でも同性に恋文なんざ渡したりしませんよ・・・いや、家族に恋文は渡したりしませんよ」
「そうかぁ?やりそうじゃね?」
「口とか体で表現するタイプでしょう?ありゃ」
「成る程!」
「納得するべきではないと思うがな、舞織・・・しかし、まぁ悪くは無いだろう」
「そんなこと言って、羨ましいんじゃないですかぁ曲識の兄さん」
「いや、恐らくそれは僕も貰ったことがあるはずだ」
「マジかよ!」
「お前も貰ったはずだぞ、人識。アスも貰っただろう?」
「・・・・・・・あ、ああ・・・・・あれっちゃか・・・」
「なんで遠い目すんだよ大将」
「でも、今になってお兄ちゃんも読まれるなんて、かわいそうですね・・・」
「じゃあもう読まずに終わりましょうかねぇ」
「おい最低野郎」
「おや、一番賛同してくれるであろうと信じてたのに、酷い言葉を使いますね人識」
「俺はどんなキャラだと思われえてんだよ・・・」
「まぁ読むだけ読んでやれっちゃ、デイ。・・・・・・まぁ、それほど酷くは無い、と思った気がするっちゃ・・・」
「じゃぁ、酷い内容だったら、今日の昼飯は軋識兄さんの奢りでいいですかぁ?」
「勝手に決めるんじゃねぇっちゃ。認めねぇっちゃからな」
「もー、早く中身見てくださいよ景識さん!こんな会話ずっと続けてたら、どうせ面倒くさくなって結局捨てちゃうとかいうオチが来そうで怖いんですけど!」
「不肖は舞織ちゃんに一体どう思われてんですかね?」
「とりあえず面倒くさくなると全てがどうでもよくなる奴だと思われてるんじゃね?」
「え?違うんですか?」
「そこまで酷くは無いですよぉ。面倒くさがりキャラは印象薄いですしね」
「なんでキャラ作りにこだわるんだよ・・・・」
「軋識兄さんの真似ですよぉ」
「嘘吐け」
「うっそぴょーん」
「ええええええっ今何て言いました!?景識さん大丈夫ですか!?今景識さんが言ったんですか!?」
「まったく取り乱しすぎですよぉ舞織ちゃん。落ち着かないと人識君が惚れちゃうような大人のお姉さんになるのにまた道が千歩遠くなりますよ。クールダウンクールダウン」
「違うだろ!テメェそんなキャラじゃねぇだろ!なんか乗り移った並におかしいだろてめぇええええ!」
「ドン引きですかぁー?もう少し軋識兄さんや曲識の兄さんを見習って冷静に対処しましょうよぉ」
「いや、悪いデイ。俺は体が動かなかったが心はこれ以上と無いほどにドン引きしたっちゃ」
「ええー」
「これだから僕は君が苦手なんだけれど・・・流石の僕も、これを個性として悪くないと言うのは憚られるが――――レンなら笑って流すんだろう。しかしまぁ、そんな形も、悪くない」
「曲識の兄さんも不肖のことを一体なんだと思ってるんですかぁ?流石に傷つきますよぉ」



(橙色の粛清)
ごりっと骨と肉の軋む音が脳髄を貫いた瞬間、自分の体が既に自分の意識の外にあるものになってしまったのだと理解した。
反転する景色、美しい夕焼け、家族の死体。
ぼとっ、と無惨にも投げ出された己の体が面白いほど紅をまき散らかしていたものだから逆に笑ってしまいそうになってしまった。
なんてシュールな絵なんだろうなぁ。
自分を見下ろすのは年端の行かない橙色の女の子だ。夕焼けは日の光と暗い雲と歪ませて、鮮やかなピンク色をしていた。ああ、橙色は現実を叩きつけるのがご趣味らしい。
「はっ、はは、ははははは、な、何だよ、何だこれ?何で俺達、死んじゃうんだ?どうしてお前、なんで殺せないんだよ!」
橙色の女の子は突っ立ったまま眠っていた。かくりと首が前傾する。ああ、この首落としてやりたいのに。
「なぁ、お、お願いだ。殺さないでくれ。し、死にたくないんだよ、だって、来週は、姉さんと映画を見に行く約束だってしたし、それに、再来週は、兄さんの誕生日だから、皆で飯食いに行くんだよ・・・!なんで俺が死ななきゃいけないんだ?・・・そ、そこで倒れてる弟だって、この間好きな歌手のライブのチケットようやく手に入れられたって・・・・・・よ、喜んでたんだぞ!?」
喉がひり付いて涙が溢れた。
俺達が人殺しなのがいけなかったのか?鬼として生まれてしまったのがいけなかったのか?
そんな、こんな酷い終わりを迎えるなんて、あんまりじゃないか!
俺の叫びにすら、オレンジ色の女の子供は眠ったままだった。喉のねとついた感触に咽ると、げぼっと血の塊が口から出てきた。なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ。
鼻からもぽたぽた血が出てくるし、頭はくらくらするし体は動かなかった。
「あっ、ああっ、あ・・・・・・・・・」
どうして死ぬんだ。どうして殺されなければならないんだ。
だって、だって――――――――。
2008/4・1


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