■ブログ短文集

■景識のキャラを固めよう

零崎景識は、与えられた部屋の隅に蹲って眠る。
それが彼の視線恐怖症に由来するものかは分からないが、部屋の隅に設置されたベッドに、膝を抱え頭を縮ませ、声を殺して眠りにつく。寝づらくないのだろうか、と一度双識がその眠り方について聞いてみれば、どうやら本人も無意識らしい。
「あの寝方が落ち着くといいますか、ああしないと眠れないといいますか、まぁ、場所とらないんでいいじゃぁないですか」
「それに、あの寝方だと、目を覚ましてもすぐに人を見ないですし」
両目を、腕で覆って、子供が泣きじゃくるような格好で眠りに付く。
「昔から、その寝方なのかい?」
「さぁ・・・ああ、機織と同じ部屋で寝るようになってからかもしれませんねぇ。小さい時から背後を狙われてたんで、あの女には背中を向けないように気をつけてたんですよぉ」
「・・・・・・」
「何されてたんだい、一体」
「寒い日なんかにゃ、服の下に手をつっこまれましたね。冷たい手を不肖の背中で暖めようとするんですよ。しかも素肌に触れるので気持ち悪いわ冷たいわ寒いわ、あの女の爪が刺さるわ散々でしたし」
「・・・」
「背後から膝への攻撃はしょっちゅうな上、抱きつく形で胸部を抓られ、ほんと変態ですね、見境が無いですね、何が面白かったんだか、あの馬鹿女」
「そんな風な人じゃ、無かったと思うけどなぁ・・・」
「小学校低学年ぐらいですよ?恥も無けりゃあ外聞もありゃあせんよ。それに、兄弟だったかが故か、兎に角不肖には容赦なんてありませんでしたよぉ」
「・・・それで、あの寝方に?」
「背中を壁に向けてりゃ、背後はとられませんし、不肖が見られるのが嫌いだからって間近に顔近づけてきたりもしてたんで、起きてすぐあの馬鹿女の目玉みるのも嫌なんで、顔を隠して寝てました。足を投げ出して寝ると、突然ひっぱられたりもするんで、縮こまるようになったんですね」
「お袋のことなんかしらねぇよ、景識」
「不肖を名前で呼ばないで下さいよぉ、忌々しい。まったく、全然零識の兄様と似てるところがまったく無い」
「お前・・・あにさまって何だよ・・・」
「兄のことを称するあだ名でしょうよ」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・」



■景識死亡話

肉が破裂した音がした。
目の前が一瞬真っ白く染まり、呼吸ができずに崩れ落ちる。腹部への打撃のせいで、一瞬遅れて吐瀉物が溢れた。昼に食べたラーメンの小さな欠片がすっぱくなって口内に引っかかり、地面に倒れれば続いて血液も出てくる。嘔吐物の上に血が混ざって、悪臭が漂った。
生理的に溢れてきた涙が、左目は眼帯についていたガーゼに吸い込まれて湿り、右目の涙が頬を伝ってアスファルトを濡らした。
目の前がぐにゃりと歪んで、ゆっくりと正常へと戻っていく。苦しくて痛くて悲鳴も出ない。せめて悶絶したいのに、体がどうしても動かなかった。
下腹部が濡れている。もしかして失禁してしまったんだろうか?ずるりと足を引き摺れば生温い液体がジーンズに染みた。
吐瀉物の上に顔面から落ちてしまったので、見るに耐えられないであろう顔をアスファルトに擦りつけながら腹部を視線の端で見てみれば、シャツの隙間から内臓がはみ出していた。テレビで見たまだ焼いていないソーセージに似ている。食べやすそうな一つごとに捻っていけば、もっとそれらしいだろう。
それにしても自分の内臓が見れるとは思っていなかった。この世界で自分の内臓が肉眼で確認できた人なんて、おそらく10人に満たないと思う。(勝手な予想だけれども)そう考えると途端に誇らしさが胸を満たした。
「・・・・・ん」
上を仰ぎ見れば、橙色の髪を三つ編みに結っている少女が目を閉じて、眠ったまま立っていた。手に血はついていない。どうやら血が付かないほどの速さで腕を引いたらしい。おしいな、と残念に思う。
しかし、自分のことを見ていない少女に好感が持てた。毎度毎度、不肖を殺した後自分の死を目玉で確認する人間がいることに耐えられなかったのだ。眠っているのならば見られることはない。
寒い。
ズボンに滲みこんだ血液が冷えてきたのか、足元から寒くなり、腕に鳥肌が立った。本当に失禁したみたいだ。保育園の年中らへん以来だろうか。親や祖父祖母に見られるのも姉に見られるのも大嫌いだった。(特に姉に知られた時の絶望感といったらなかった)(彼女は繰り返し己を詰った)
そういえば、内臓は寒くないのだろうか?腹部に力を込めると、痛みと共にどばっと勢いよく血液が溢れた。・・・・頭がくらくらしてくる。これが貧血か。
一体――――いつまで生きていればいいんだろう?そろそろ死んでも良いじゃないか。血の気が多いとは思っていなかったが、(低血圧だったし)・・・低血圧と貧血は関係ないのか。
いい加減痛いし苦しいし頭がくらくらしてくるしで絶望しそうになっていたので、頭の上で眠ったまま立っている少女を仰ぎ見る。意識はないんだろうか?
「・・・・・・殺し、・・・て・れませ、ん、かね?」
少女の反応は無かった。
舌が縺れて言葉が上手く発せない。やれやれと思いながら、丁度良く少女の足の近くに投げ出されていた腕を引き摺り、少女の細い足首へと手を添えた。少女はぴくりとも動かない。
渾身の力を込めて、少女の足首を掴んで己の首に当てさせると、腹部がぶしゅっ、と空気の抜けた音を立てて泡を出しながら新しい血液を溢れさせた。そろそろ足の感覚が消えてきた。でも、死ぬにはあと何分か掛かるんのだと思えば永遠にも等しかった。
少女の足の裏は異常に暖かく、己の体温が急激に下がっていることを思い知らされた。少女の足首に爪を立てる。一瞬、少女の瞼がぴくりと引き攣ったのを景識は視線の端で捕らえたが、開かれることは無かった。景識は幸せに満たされ、一度笑った。

少女の足は景識の予想通り力が込められ、当てさせられた景識の首を踏みつけていた足がそのまま下へと力が入れられた。
ぼきっ、と一度だけ骨が折れる音がして、その後は少女の緩やかな寝息だけがその場を支配した。
2007/12・29


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