■ブログ短文集

■触発七花(刀語

崩れ落ちる肢体を受け止め、七花は少し遅れてじわりととがめの胸元を紅く爛れさせたその液体を呆然と見詰めた。
―――――――血液。
じわりじわりと紅を広めるその液体を溢れ出させるとがめは苦しみながら確認した。戦国時代に広まった火縄銃―――おそらく、それが未来によって特化された―――――炎刀・銃!銃口を既に下げてこちらに顔を向ける右衛門左衛門の顔は見えない。
しかし、おそらく仮面の下の目玉は、既にとがめのことを死体として捕らえているだろう、冷徹な空気が溢れていた。
「さぁ。言いたいことがあるのなら言うといい、容赦姫」
「・・・・・・・・・・」
とがめは眉間に皺を寄せ、右衛門左衛門を一瞥すると、己を抱きかかえる七花へと視線を移した。
七花は―――――何も言わず、とがめの姿をその双眸へと映している。
「――――――七花」
とがめは囁く。七花はようやく目を一度伏せると、ゆっくりともう一度目を開いた。その瞳に人間らしさは無い。
いや、あるのだろうか。
これ程までに、激昂しているのだから。
七花はゆるやかに口元に笑みを浮かべ、一つの意思を持ってとがめを地に下ろし、握っていた手を、そっと離した。
「委細承知」
その、次の瞬間。
七花は右衛門左衛門へと身を翻した。銃口を既に下ろしていた右衛門左衛門は咄嗟に腕を挙げ、狙いを定める暇も無かった故か、そのまま引き金を引いた。
ぱん、と乾いた音を立てて発射された弾丸は、そのまま突き出した七花の左掌を貫通し、軌道を変えてあらぬ方向へと飛び去る。
元々それほど空いていなかった距離を一気に詰め、七花はそのまま右衛門左衛門に激突した。右衛門左衛門に馬乗りになり、無事な右手で拳を作る。仮面の上から拳を右衛門左衛門の顔面に叩き落とす。
その一撃は右衛門左衛門の仮面に罅をいれ、激痛で右衛門左衛門が炎刀・銃を取り落とす。
七花は落とされた炎刀・銃を反射的に掴んだ。
「ぐっ――――――あ゛、」
激痛に呻く右衛門左衛門が、もう一つの銃に手を伸ばすよりも早く、七花の持つ炎刀が右衛門左衛門の額に向けられた。
「―――――――お前に、刀が使えるのか?」
緩やかに笑いながら、元忍者が不敵に鼻で七花を嘲る。
七花は笑いもせず泣きもせず元の一本の刀であったときのように、しかし、これ以上といってないほど人間らしく、憤怒の情が篭った一言を、銃弾と共に、ゆっくりと発した。
「これが刀に見えんのか?」



■左右への愛をぶちまける(刀語

顔面をはがすという行為については、細かく説明する必要など無いだろう。肉を削られた自身としては、既に真庭の外道の忍法は理解した。
肉と皮を奪われたことによって、『精神は死んだ』のだろう、本物の命は尽きることなく、無様にも家族の死体の上で私は意識を取り戻した。
「ぐっ、ぐう、うううううううううう」
皮膚を焼け付くかのような激痛と痺れ、脳内に幾度とフラッシュバックする凄惨な出来事に何度も意識を持っていかれそうになるが、今際の際に己の腕を握り締めて絶命した娘の手が異常に冷たいせいで、そう簡単に意識は消えない。
痛みなど通り越したかのようなそれはもはやこの世のものとは思えないものだ。何故自分が生きているのかも分からない。
目が開けられないせいで、手探りで娘の体を抱き起こす。死後硬直によって固まったその指先は、子供の力とは思えぬほど己の手首に爪を立てているが、顔面の激痛によってその痛みが麻痺している。
「×××・・・・・・」
抱き起こした娘の体はどこか欠けてしまっているのか普段よりもかなり軽く、空いた手で体の線をなぞると、左腕と首が無いことに気がついた。
妻は、兄は、皆はどうなったのだろうか。皆殺されたのだろうか。
真庭忍軍。
「真庭、ぁ・・・・・・!!」
痛みなのか苦しみなのか怨恨なのか憎悪なのか、理由は分からないが涙が溢れ、血肉の溢れる頬を伝って地面へと恐らく血の混ざった水滴がぱたぱたと墜落した。
「殺してやる・・・・・根絶やしにしてやる、許すものか・・・・!!」
痛みを堪えて両目を開く。固まった血が睫毛と繋がって何本か毛の抜ける音が脳髄へと響いた。
月光に照らされる相生の里を彩るのは微かに燃え残る炎と、それよりどす黒く沈んだ血の赤で、もはや人の形を保っているのはごく少数だ。
少し離れて娘の頭だけが、眠っているかのように目を瞑って伏しているのを視界にとらえ、己は黙って未だ手首を握ってくる娘の細い指先を優しく解いた。
「真庭の全てを、否定してやる・・・・・・」


(海亀と誰か)
海亀はいつものように何も無い畳の部屋の中央に座っていた。背筋がぴんと張ってあって、座り方が凄く綺麗で、俺はぼんやりとそれを眺めているのだ。いつものように。
どうしてか、海亀の表情は口では言い表せれないような、そんな凄く透き通っているように見えて、俺はけしてあの人のようにはなれないと思った。あの人は俺より長く生きてるのに、俺より何も持っていないように見えたから。嘘吐きだからだ。十二頭領の誰かが言っていた。
「そこで何をしてる」
「え、あ・・・!申し訳ございません」
海亀は俺の方を見ずに、突然そういった。俺以外に言ったのかもしれないなんて思ったけれど、海亀の意識がこっちに向いているのが嫌でも分かった。出て行かなければ殺されると思った。
綺麗に座ったまま、海亀は首だけで俺を見た。透明度の高い、でも、目の奥は全然濁りきってるその目は、異様に心地が悪くなった。怖かった。しかし、彼に存在を見られるということが誇りのような気分だった。
「お主は・・・」
「蜜蜂さまの弟にございます」
己の姉は現在十二頭領の一人だった。だから俺は姉について偶にこの屋敷へきていたのだ。今日は、なんとなく、この人が見てみたかったから来ただけなのだけれど。
「姉上を探しに来たのですが、何処に居るかご存知ありませんか・・・・・・海亀さま」
海亀はなんとなく面白く無さそうな顔をすると、一笑して体をこっちへと向けた。縁側につったっている俺の正面には、正座をした姿勢の綺麗な海亀が笑いながら存在していた。何もないかのようだった。
「逃げんのか?」
「にげ・・・・・・?」
海亀が何故笑ったのか理解できず、俺はその言葉を小さく口へのせた。次の瞬間、俺の髪は軽く散って、海亀の姿が立った状態で俺のすぐ目の前へと移動していた。
息が詰まって恐怖で足が竦む。しまった。地雷を踏んだ。
「盗み見は感心せぬな小僧。そういう趣味があるわけではあるまい。餓鬼なら餓鬼らしく女でも見とれ」
「あっ、あ・・・・・・も、申し訳御座いません」
俺はとりあえず逃走した。最後まで背筋の通った男がどうにも頭から離れなかった。姉に話すと滅茶苦茶に笑われた。
十二頭領になって、俺は頭領会合の集会やらで毎回あの男を見る。あの男はいつでも背筋が伸びたまま、その見た目に似あわないぐらい、人を馬鹿にして嘘をつくのだ。
それが何故か、一番あの男にあっているような気がして、俺はまだあの男が一人で居るところを毎日のように見に行ってしまう。



(七実と七花)(幼少)(微グロ
父が先程持ち帰ってきた木の実の中から、黙々と虫に食われているものとを選別して皮を剥き、笊へと開けて三回目。
山盛りに木の実が入った籠の中には既に一つも残っておらず、腿の上にぱらぱらと落ちている泥を床へと払い落とし、壁に手をついて立ち上がる。
「ふう」
似合いすぎるため息を吐きながら、七実は笊を持ち上げた。貯蔵用の甕へと移そうかと思うと、まだ5つほどの弟がぼんやりと大きな黒目を見開きながら座布団の上に寝転がっていた。
「七花。行儀が悪いわよ」
ぴしゃりと言い放っても、ぼやぼやした顔で七実を見上げてくる七花は聴く耳持たずで、ずっと右手の親指の爪をがじがじと噛み続けていた。あの女の乳でも欲しいんだろうか、なんてことを思うが、あの女はもう居ないし、乳をもらう歳でもあるまい。
七実は手に持つ笊を板張りの床に下ろすと、七花に歩み寄った。
「やめなさいと―――言っているでしょう」
見下ろしながら、少しの怒気を篭らせて言うと、七花はぽかんとした顔でふやけた親指を口から離した。七実が安心するのもつかの間、今度は左手の中指の爪を食む。
「――――――七花」
「――――ん」
今度は嫌がるように、七花はふるふると頭を振った。それでもまだ爪を口から離さないものだから、今度は七実が呆れる番だ。
「それなら、私も考えがありますよ、七花」
七実は呆れた声で呟きながら、素早く七花の左手首を引っつかむ。
「やだ、ぁ」と駄々をこねた七花の言葉ももはや聞かなかったつもりなのか、次の瞬間七花の濡れた中指の爪がみちみちと肉の千切れる音を立てて剥がされた。
「っ、っあ」
痛みで泣き声を上げるよりも早く、七花の大きな両目からぼろぼろと大きな涙が零れ落ちた。口元が引き攣り顔がくしゃくしゃと歪む。
「あああああああぁ、いたい、いたいいぃ!」
「暴れないで」
「いぎっ、いたぁああああああああ!あああああ、いたいよ、ねえちゃ、ごめんなさい、ごめんなさい」
元々肉と密着しているものを無理やりはがされるせいで、ぶちぶちみちみちと肉が剥げる音が響く。爪といえどそんなべりっと一気に剥がれる場合もあれど、七実が今行っているのは駄目な弟への躾である。
ついに左手全ての爪がはがされ、肉の塊かのようにも見える左手が開放される。七花は「ごめんなさい、ごめんなさい」と喘ぎながら左手を抱きしめた。五つの魚の鱗のようなそれを床に置き、七実は「分かればいいのです」と感情の足りない声で呟く。

「でも、よく考えれば貴方が良く噛むのは右手でしたね。七花、そっちも出しなさい」
2008/4・1


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