■ブログ短文集

■君が望んだ終わりを(僕だけが知っている (真心と時刻

「時刻はさ、俺様で終わりが見たかったんだろ?」
橙色の少女は言った。スパルタらしい彼女の師匠は、寝る時間を押してまで連日仕事に彼女を使っているらしく、少女はかくん、と首を揺らした。ぼとりと落ちてしまいそうで見ているこっちは気が気じゃない。
「そうだね。それで狐さんとは意見が食い違っちゃって、前みたいなことが起きたんだけど。僕は、君こそ世界の終わりだと思ったんだ」
「でも、俺様は、世界を終わらせたくなんか、ない・・・」
「うん、知ってるよ。君の事は、沢山知ってる。世界を終わらせたくないことも、世界を憎んでることも」
テーブルの上をさまよう彼女のか弱い手を、無意識に握った。暖かい。
「俺様は、皆憎いけど、憎みたくないんだ。時刻の願いを叶えらんないのは、俺様だって悲しいけど、我慢してくれよ」
「・・・君が謝る必要は無いよ。だって、君は、何も、悪くない、じゃ・・・」
哀しそうな顔をさせてしまった。言葉が詰まる。泣かないでくれ。僕は別に、君を泣かせたくなんてないんだから。
君を一人になんて、させたくないんだから。
自然に伸びた手が、テーブルの向かい側に座る少女の乾いた頬を拭った。びっくりした大きな橙色の両目が僕を見る。
「え、え、何?」
「あ?え、あ、ああ、いや、すまない」
何をしてるんだ。僕は。
でも、それでも今僕は、彼女の頬を伝う涙を見た気がした。
「君が、泣いているように、見えたから・・・」
しどろもどろにしか、答えられなかった。幻覚を見るとは、幻覚を見せるこの目にあるまじき失態だ。本末転倒とはこれを言うのか・・・。
一人口ごもる大人を馬鹿な奴だと思ったのか、彼女はぽかんと僕をみると、そのままふっと微笑んだ。はじめて見た彼女の微笑。
沈む太陽の瞬間を垣間見たような、橙色を模したような笑みだった。
こんな風に笑うのが普通の女の子なのに。
僕は今日初めて彼女の微笑みを見た。



■人識と兎吊木と軋騎

「あー愛が欲しいぜ」
「馬鹿だな人識君。愛は貰うものじゃなくてあげるものだぜ」
「あげる相手もいねぇのにほざいてんじゃねぇよ」
「的確!」
「『うつりぎをたおした! うつりぎはおきあがって こちらをうかがっている。
仲間にしますか?』」
「ルイーダの酒場行き」
「確かに使えなさそうだよな。あの時代機械類殆どねぇし」
「錠開けできるよ!7の機械兵相手には何か出来る気がする!」
「その場での物理的な組み立てと解体作業においては俺はお前よりも上だってことを忘れんなよ」
「FFだったら確実に色々役に立つよ」
「俺はDQ派だから」
「俺は無双派」
「だったら俺ギャルゲとるよ!!」
「・・・・・あー愛が欲しい」
「ギャルゲ貸そうか?」
「やだ。おっさんが持ってるそれって、年下の女しかでてこねぇじゃん。しかも背ぇ低い奴」
「これだから妹萌えのしない奴は・・・」
「だからと言って双識には貸すんじゃねぇぞ」



■零崎の誰かと曲識

ゆっくりと意識が浮上していく。母親の腹の中に包まれたような、生温い羊水に浸かっているような気分だった。遠くから響くような柔らかなメロディが、段々と耳朶を嬲っていく。
これは、鎮魂歌だろうか。
かつての家族を弔うような、そんな物悲しげな空気が、温度と言葉を奪っていく。音楽はあの男の悲鳴なのだ。絶叫している。そんなに悲しまれたら、私達が悲しむ分が無くなってしまう。
私はソファに体を沈めたまま、ファゴットの音に聞き入った。音が再び、遠く、私の体を包むように響いた。
嘆いているのだ。
生き方がわからない、人生こそが迷子のような男は、己よりも先に死んでしまった愛しい家族たちのために、泣いて、叫んでいる。
母は彼の為に泣きはらすだろうか。私は悲しむ家族を見て悲しむ母を見るのが嫌いだった。
「泣くなよ」
囁くように言ってやれば、音を拾った男の音楽が止んだ。また、泣き始めるだろうか。何も言わずに耳を欹てれば、男は小さく「涙が止まらないんだよ」と嘯いた。
柔らかい悲鳴が再び鼓膜を叩く。
――――――まだ、男は泣いていた。



■「やぁ少女の味方兎吊木お兄さんだよ!」

「少女の味方というのは肯定してやってもいいが、お兄さんというのは頷けない。おじさんだと言い直せ」
「おいおい世の中そんな細かいことに気にして生きてたら過労死しちゃうぜ?世の中には2児の父親の癖におにいさんだっているんだからな!子供がいない分まだ俺の方がお兄さんだ」
「白髪で白スーツで無精髭のおにいさんなんていてたまるか」



■バレンタイン (人舞

「今日はバレンタインですねぇ」
「そうだな」
ケーキ屋の店頭で、バレンタインという行事にのっかって特別製らしいチョコレートが硝子の向こうに鎮座している。甘ったるい匂い。どれが良いかと物色する女子高生。手作りの為に板チョコを買い込む少女。聖バレンタイン。
「チョコ食いてぇなぁ」
「食べたいですねー」
にこやかに、しかし暗い会話を交わすのは、男にしては背の異様に低い少年と、ニット帽を被った、両手の無い少女である。公園に設置された、雨風は凌げる上に暖房がついている待合室に二人きり、向かい合った状態で座っていた。
「という訳でチョコ食べましょう」
「・・・くれんのか?」
舞織の申し出に少し首を傾げ、不思議そうに人識は問う。どうせホワイトデイには三倍返しとか狙ってんのかね、と思うと、舞織は懐からもぞもぞと板チョコを取り出し、テーブルに乗せた。手がない分無駄にこういうところが器用だ。
「チョコを出してください」
「・・・」
ああ・・・自分で食うのか。
いっそこのまま喰ってしまおうかとも思いつつ、言われたとおりに包み紙を剥がす。チョコレートの匂いが鼻腔を擽り、嫌にすきっ腹に響いた。
「あーん」
「・・・・・・・・」
人識の予想通り、舞織は口を開けてチョコを口に入れてくれと示した。忌々しげに思い、押し込むように突っ込む。「むぎゃ」、と変な悲鳴が聞こえたが、これくらいやらないと許せないと思う。
せめて食べることは見たくないと思い、冷たい風が吹きすさぶ硝子の壁の向こうへ視線を移せば、ぽん、と手首の無い腕が人識の頭に当てられた。
「んだよ」
「ん」
舞織はにこやかに笑いながら、手先の無い腕でチョコを指差す。折りながら食わせろとでも言うのだろうか?
「ほっひーへーむ」
「・・・・・・・・・はぁ?」
言葉からしてポッキーゲーム・・・とかだろうか。しかし舞織が喰っているのはポッキーではない。板チョコだ。
「ふほうはらたへてくらはい」
「・・・・・・・・」
えーと・・・・ポッキーゲームならぬ、板チョコゲームって奴?
まさか板チョコの両端からばりばりと食っていくというそういうのだろうか。
人識がその結論に思い至るのに、舞織はその通りとでも言いたそうに上半身を乗り出し、己が咥えているチョコの逆側を人識へと差し出してきた。
「・・・・・正気か?」
「おいひーへふよ?」
そういう問題ではない。
甘いチョコの香りがむわりと人識の頭を毒す。
「・・・・・・・」
逡巡の末、人識はがぶりとチョコに齧り付き、そのまま顔を斜め下へとスライドさせた。板状のチョコは歪みに耐え切れず、ばきっと音を立てて、不恰好に割れる。
「むー!ほっちがおおひ!」
「・・・・・・」
板チョコは人識7、舞織3の割合で割れ、舞織がチョコを取り落としそうになるほど激怒したが、人識は知らんフリをしてもくもくと飾り気の何もないチョコの塊を喉奥にす早く収めた。
2008/3・24


TOP