■ブログ短文集
(蒼街)
「・・・・・髪が、伸びましたね」
白いベッドに弧を描く、艶やかな蒼色に指を這わした。出会った時から変化の見られない少女は、「そうだね」と小さく返答する。
暗い部屋の中では少女の白い肌がぼんやりと浮き上がって見えた。幼女特有の膨らみの無い乳房の下に、魚のように肋骨が浮いている。
黒いコートに直に包まれるその肢体は、骨のようなか細い矮躯をさらに白く魅せる。五つの小さな指先に乗る青い爪がまるで玩具のようだった。
「・・・・・・少し、寒いかもしれない」
「・・・冷房を止めましょう」
「ううん。・・・・ぐっちゃん、おいで」
立ち上がりかける体をひっぱられ、少女の上に被さるように倒れる。寸前で両腕で上半身を支え、少女に重みがかかるのを留めた。
「暴君、」
「寒いんだよ」
「・・・・・・じゃあ、体勢を変えましょう」
少女に負担がかからないように、抱き起こすように膝に乗せ、懐に抱きしめるようにして一緒にベッドの上に横になった。すぐ近くに少女の呼吸が聞こえて、目の前の青い髪にキスしたくなる衝動を抑える。
「暖かいですか?」
「うん。・・・・・・・ふふふ、ぐっちゃん、心臓、凄いね」
するりと胸を撫で上げられて、反射的に息をつめた。急所に触れられるのはいつでも恐怖感を煽られる。しかし、少女に触れられるのには違う高揚感もあった。
「ぐっちゃん、女の人嫌いなんでしょう?」
「・・・・・・・・・・ええ」
「子供も、嫌いなんでしょ?」
「はい」
「なんで私のこと、好きなのかな?」
「貴方が・・・・・・・・」
死んでるように、見えるから。
眼の先にある深海のような暗い蒼に、言葉を飲み込む。
ゆるりと息を吐きながら、愛しげに少女に囁いた。
「俺の、永遠の支配者だからです、暴君」
「そうだよ。いい返事だね。ぐっちゃんは私のお友達で、私の物で、私の可愛い奴隷だからね」
少女は笑う。人を殺す殺人鬼を嘲るように。
「赤いぐっちゃんなんて、嫌い」
「分かっております、死線の蒼」
記憶の中の紅蓮を追い払う。
「どうか、俺を溺れさせてください」
醜い深海魚にでも、食われてしまえばいいのだ。
じわりと世界を覆う永遠の蒼は、一度だけ「可愛い子」と男を蔑んだ。
(兎軋)
「よぉ式岸コンビニ寄るついでに来てやったぜ。お茶出せよ」
「喧嘩売ってんのかお前は。邪魔だからさっさと帰れ。視線に入るところから煩わしいわ。臭いんだよ白髪兎」
「相も変わらず辛辣だよね・・・いいよ別に。俺近頃Mになろう月間に差し掛かってるから。これに手が出たら勃起できるかもしれない」
「頼むから帰れよ・・・!!」
「そういや式岸、近くの高校が文化祭みたいだったぜ。いいねぇ文化祭。時の流れを感じるぜ」
「今更つっこませてもらうと、お前の家って何kmか離れてるよな?コンビニ寄るついでってお前どんだけ遠出してるんだよ」
「話を戻すなよなぁ・・・このマンションの向かいにある所から、お前の部屋をかれこれ一時間ほど観察してたんだけど」
「おいいいいい不審者ぁああああ!!」
「下着を外に乾すとマジで持ってくぞ」
「持ってかれるんじゃなくてお前が持っていくのかよ!っていうか下着ってお前目ぇ良すぎないか!?」
「馬鹿だなぁ。双眼鏡に決まってんだろ」
「おまっ・・・ここに来るとき近くに人がいないの確認してきたよな?変態がここに来てることを知られて、外に出るとき変な目で見られたらどうしてくれる!!」
「大丈夫だろ。この間ここで宴会した後兎耳つけたまま出てったのを階下の美人なお姉さんに見られてるし」
「全然大丈夫じゃねぇえええええ!!なんだそれ!兎耳!?いつの話だよ!」
「お前が居ないときにちょっとお邪魔して、お前の汗の染み付いたシーツの上で悶絶しながら酒飲んだ日の事だけど」
「知らないうちに壮絶に気持ち悪いことやってんじゃねぇよ!お前は人を不快にさせる天才か!?っていうか、おま・・・・ぐうう」
「なんだ、諦めたのか」
「呆れてんだよ!!似てるけど全然違うから勘違いするなよ!まさかとは思うが、何回もやってねぇだろうな!?」
「かれこれ5回程」
「5回もかよ!!」
「まぁ落ち着けよ・・・話を戻してだな、文化祭は近頃増えてきたオタク化現象のせいで、お遊び半分でメイド喫茶とかやる所が増えてきてるらしいぜ。いいねぇ。日本のこういうところが大好きだ」
「お前の好みなんて世間の高校生はどうでも良いと思うが・・・本格的に日本の未来を心配するべきだな・・・」
「そう言うと思ったよ。だからさ、耐えられなくなったら俺と一緒に外国行こうぜ」
「お前とは行かねぇよ」
「お前とは!?じゃあ誰と行くんだよ!許さないからな浮気なんて!お前の旅行鞄に潜んでついてってやる!そしてお前の人生という名のレールをこの破壊屋害悪細菌の名を持ってして完璧にぶち壊してやる!!」
「泣くな気持ち悪い!!旅行鞄に入ったらそのまま海に沈めるからな・・・!!」
「で、誰と行くんだい」
「いや、行くつもりはねぇけどよ・・・あ、でも、・・・知り合いの赤色が、なんだか外国に仕事に行くのに着いて来いって・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ついて来れるか?」
「う、うええええええ」
「(泣くなよ・・・!!)」
(極楽鳥さまに捧げた軋→友→僕)
ぷかりと棒の先に浮かぶ泡が、ついに離れて空に昇った。
少しだけ彼女から視線を外してその小さな気泡の行く先を見届けようとしたが、1mも経たずにぱちんと弾けた。
同じくしてそれを目で追っていた蒼い少女は、つまらなさそうに「ちぇー」っと口だけで呟いた。棒読みのような、むしろ楽しさの混ざるような半音上がったその声は、もう一度口に含んだシャボン玉を作るための緑色の棒の先で、泡となってぷくぷくと空中に上っていき、次々と弾けては空気に紛れた。
「直くんのシャボン玉はね、割れないまま昇るんだよ。天井にくっついたときは、吃驚したね」
きっと、玖渚家の中での話だろう。この天才兄妹がシャボン玉をして遊ぶなど予想もしていなかったから、少しだけ反応が遅れる。
「暴君も遊んだんですか。こういうの」
「うん。結構私の昔の遊びって、パソコンゲームばっかりだって、ちぃくんやさっちゃんや提督やら、皆思ってたからね。砂場遊びだってしたし、人形遊びもしたよ?」
それは。相当可愛らしいのだろうと、次々と割れるシャボン玉から視線を外し、泡を吐き続ける少女に視線を戻す。少女は己に背をむけたまま、シャボン玉の液に棒をつけては、全部使い果たす気か泡を精製し続けた。
「ぐっちゃんは?」
「・・・俺は・・・」
子供の頃、何をして遊んでいただろうか。
記憶を掘り返して思い出そうとするも、脳裏に浮かぶのは四六時中人を眺めていた事ばかりだ。なんて気味の悪い餓鬼だろうか。自然に笑みが零れる。
微かに乱れた俺の呼吸に、暴君が振り返る。空のような青い双眸は、暗闇の中では闇と混ざって深海を思い出させた。
「何してた?」
「・・・・・・・・そうですね、近所の少年達と、蟷螂やら捕まえて、ばらばらにしたりとか」
「ふーん、惨酷だね」
くすくすと笑われて、その笑みにほっと胸を撫で下ろす。何をしたとしても、彼女が笑ってくれるなら何でも良かった。
「てっきり、小さい頃から人ばっかり殺してるもんだと思ってたよ」
「――――――――――、ご期待に添えられず、申し訳御座いません」
一瞬絶句したけれど、感づかれてはならないと、慌てて頭を垂れる。暴君は楽しそうに口元を歪めると、ゆっくりと安っぽいプラスチックのシャボン玉の棒を銜えた。まるで水の中で空気を吐き出すかのように透明な泡を大量に吐き出す。
そんなに沢山息をすると、すぐに溺れてしまいますよと。
うっかり言いそうになってしまったが、彼女が楽しそうに笑っていたからその言葉を飲み下す。
きっと、溺死する瞬間も楽しそうに笑っていて、深海の中でもあの子供を待ち望んだまま、叫びを含んだ泡を吐き続けるのだろうと思った。
「(引き上げてくれる人が、夢に見る少年だといいですね)」
ちょっとだけ呪いを含んで、心の中で呟く。
きっと、呼吸も出来ずに彼女を見つめる己の方が、彼女よりも先に、彼女の海の中で溺死するだろうと分かっていながら。
(すぐに割れてしまうシャボン玉は、けして死線を越えて、あの子供の下へ、暴君の声を届けてくれることは無いだろう。)
(潤軋潤)
マンションの自室に足を踏み入れた次の瞬間、暗闇からでてきた細い腕に掴まれると、そのまま素早く閉められたドアに叩きつけられ、下から力ずくで唇に唇を押し当てられた。
目の前を掠めた紅の髪に、この馬鹿女、と心の中で悪態を吐くと、心でも読まれたのが腕が己の首に回され、まるで絞め殺すぐらいの力で抱き込まれた。みしっと頭が嫌な音を立てたが、そんな音さえも聞こえたのか、相手の唇が緩やかに歪む。
苦し紛れに女の後頭部を掴み、逆に抱きしめ返すように女の口の中に舌を突っ込む。一瞬驚いたようだったが、自分の頭を掴んだままの腕は弱まることを知らず、ぐしゃりとワックスで後ろに撫で付けた髪を馬鹿にするように掴んできた。
しかし、その腕は引き剥がそうとするわけでもなく、また、言葉に表すならば「この程度かよ」とでも笑うように頭を撫でてくるものだから、女の年齢やらそんなのを考える暇もなく、女の口の中を蹂躙した。
女は、いつも通りならば負けじと自分から舌を入れてくるような痴女だったと記憶していたので、黙って己の舌を受けるのに、逆に首を傾げそうになったが、いつものようにただ流されるのも癪に障ると思い、自分の方が背が高いことをいいことに、空いた手で女の腰に手を回し、体の向きを反転させ、逆に女を扉に押し当てた。
やっと気が済んだのか、女は己の首元から腕をぱっと離すと、自分の胴回りに腕を回してきた。歯列をなぞっていた己の舌を逆に絡めとり、しばらく唾液が絡み合う音が耳を覆うと、女はいつも通りに己の口内にゆっくりと舌を押し込んできた。
限界だと負けを認め、両手を女の背後について唇を離す。唇から繋がった唾液の線が、先程の馬鹿みたいな行為を目にさらしてきたので、慌てて口を拭った。
「やればできんじゃん」
「・・・・・・・・」
今更心の中を渦巻くのは、この女は未だ10代だったという現状だ。謝ろうかと思ったが、これぐらいのキスなんてあっちから毎度毎度やってくるものだから、別にいいのかと思ってしまう。重傷だ。
暗い部屋には未だ灯りは灯されず、暗闇に浮かぶのは女の白い肌と紅の鮮やかな双眸と髪だけで、色気なんてのも大して曝すつもりも無い純真爛漫な目が、良い年こいた己を馬鹿にしているようだとも思えた。
「なに、傷ついてんの?」
「誰のせいだと・・・ああ、くそ、何やってんだ俺は・・・」
後悔後先に立たず。今回のことは、女を叱るにも的外れだ。先にやったのがどっちだなんて、ただの子供の喧嘩の擦り付け合いである。
未だ抱きついたままの女の腕が、まるで援助交際なんてのをする女子高校生なんて考えを引き落として、また自己嫌悪に陥った。
「ふん、でもまぁ、ちゅーをこっちから吹っかけるだけで乗ってくれるとは、兄ちゃんもその気じゃん」
「何がだよ・・・」
女は入り口にへたり込む己についてしゃがみ込み、けらけらとまるで楽しそうに笑ってみせると、いつも通りに格好よく、悩んでる己が馬鹿なような錯覚を覚えさせるほどに、はっきりと言い切って見せるのだ。
「だって、もうどうしようもないほどに、兄ちゃんがあたしを愛しちまってんのさ」
「・・・・・」
返答は、出来ない。(きっと、だってそれは、核心をついてしまっているのだ!)
(兎軋)
「ふと思ったんだけどさ」
「なんだ。下らんこと言ったら土に還れよ」
「えー、会話が全部面白いこと言わなきゃいけないのは世の中で芸人だけだと思ってたんだけど」
「芸人に謝れ。そして相変わらずの偏見とも言える常識はずれをいい加減治せ」
「まぁ聞けよ。よくBL小説といわずエロい漫画から始まり文学の中に、「もう乳首が立ってるぞ?口では嫌がりながら、体は素直なんだな・・・」とかって頭を疑う台詞があるじゃないか」
「白昼堂々そんな台詞を言うお前の頭も俺は疑うけどな」
「腰を折るなよ!ベッドの上なら喜ぶけど」
「黙って死んでろよ」
「でも、まぁあんなこと言ってることはまぁ置いといて、冷静に考えてみれば、そんな台詞を言ってる相手も乳首立ってんじゃないか?」
「・・・・・・どうでもいいことにツッコミ入れるなよ」
「だってそんなことやってるってことは襲ってる側も興奮してる訳だろ?「もう乳首立ってるじゃないか・・・」なんて言いながら、自分も立ってるっていう・・・馬鹿みたいな光景だなぁ」
「そこで冷静になる奴が今までいなかったんだろ。襲われる側もまさか、「貴方も立ってるじゃないですか」なんて言えないだろ(多分)」
「ああー成る程。つまりそれを視姦する第三者がいてくれれば、「そういうお前も立ってるじゃないか・・・」という台詞が入ると」
「そろそろこの会話やめていいか?」
「いいじゃないか。男同士のやりとりでとりあえずやるべきは、「相手の部屋の行ったら、とりあえずエロ本探し」が第一、第二に「下ネタは挨拶」、第三に「自分の初めてをバラす」んだろう?」
「30近い男がすることじゃないだろ。それはせいぜい高校生、上で大学生までだ」
「安心しろよ。俺の心はいつだってガラスの10代だ」
「そうか・・・その心今踏みにじってやろう」
(兎軋)
テーブルを挟んで二人で向き合い、軋騎と兎吊木は黙り込んでいた。
軋騎はただ話す気も話す事も無いのでただ沈黙していただけだったが、珍しいことに、自分から「ただ喋り続ける饒舌形」と豪語する兎吊木が一言も発さずに、ぼんやりと軋騎の右手を見続けてるのが、軋騎のマンションの一室を異様な空気に仕立て上げていた。
何しにきたんだよやること無いならさっさと帰れよここは俺の家であっててめぇの小屋じゃねぇんだよ兎が!と言いたい気持ちをぐっと抑え、軋騎は見つめられる右手が気持ち悪く、自然な動作でテーブルの上に乗せていた右手を、己の頭へと移動させた。肘をつけた状態で、右腕に頭の重さを乗せる。
兎吊木は軋騎が腕を動かしたのに、同じく視線だけをそれに移し、結果的に右手のある場所、軋騎の眉根の寄せられる額へと移動した。
「・・・・・・・・」
「・・・なんだい、見つめあいたかったのかい?」
「何でだよ!っというか、何で俺の右手を見る!?」
ついに耐えられなくなったのか、兎吊木のぽかんと驚いたような声に反発するように軋騎がテーブルを叩いた。兎吊木はそんな小さな癇癪に、やれやれとまるで落ち着いたように肩を竦めてみせた。余裕そうな顔に灰皿を叩き込みたくなったが、軋騎は普段と違う兎吊木の様子に、少しだけ黙って何を言い出すか待つことにした。
「・・・・・・・」
「・・・・・なんだよ、だんまりか」
いや、それはこっちの台詞なんですが。
兎吊木が少しでも喋らないとこんなにもおかしい気分になるのかと、気づきたくなかった己にとっての兎吊木の存在を再確認してしまい、軋騎はついに何かあったのかよ、と一言尋ねた。
「よく聞いてくれたな。お前が俺に対して感心を持たせる台詞を吐かせるのに、俺が何分呼吸してなかったと思うんだ」
「お前喋らないと呼吸できねぇのかよ!嘘だろ!人間の潜水時間を思い出せ!」
既に漫才に近いやり取りをしてしまうことに羞恥を湛えてみせるが、兎吊木は満足したのか、ふふんと笑い、視線を軋騎の右手から外した。
「実はな、先日、俺の母親が死んだんだよ」
「――――――――、ほう?里帰りしなくていいのか?」
一瞬言葉に詰まったが、皮肉な笑みを何とか作り、できるだけ平然と返してみる。兎吊木はそれに小さく微笑みながら、「無理するなよ」と答えた。
「母親に反応すべきは零崎だろう?」
「・・・・・・てめぇ・・・」
ひく、と口元が引き攣るのを感じながら、未だ笑ったままの兎を睨む。何が言いたいのかと思えば、これか。
「寂しいって何だろうなって思ってたんだよ」
兎吊木は言った。目の奥だけが笑い続けていた。
「俺の残る肉親は母親だけだったからね。餓鬼の頃から家族に対しては特に感慨も浮かばないような生き方してきたもんだから、特に母親が死んだって、何も思わないもんだと思ってたんだよ。でも実際死んでみると、思ってたよりショックがあった」
「お前でも・・・・・・・」
肉親に何か思うことでもあったのかと言いかけて、やめた。流石にそんな人間の言うべきでは無い台詞、式岸軋騎が言うべきではないと思ったし、それ以上に、暴君のあの台詞を思い出したからだ。
軋騎が黙ると、兎吊木はちょっとだけ怪訝そうな顔をした。それでもまだどこか楽しさの残る口調のまま、言葉を紡ぐ。
「何も無いと思ってたんだ。母親は小さい頃、兎に角俺を良い大学にばかり入れようとしたからね。反抗期の俺がもしいたら、腹いせに代アニ入るところだ」
「それは反抗期重ならなくて本当に良かったな」
心の底から思った。
「だから、母親が大嫌いだった。ただ俺を産んでくれた事に関しては、この世に少女がまだ居るから感謝してもいいけれど」
感謝以前に母に謝れよ。
「それでまぁ、この間母が死んじゃった後に、突然お前のことを思い出してさ」
兎吊木は笑った。こんなことを言っては、俺の頭がどうかしてしまったのかと思えるが、例えるのならば慈母のようだと言えるかもしれない。
「お前、お母さんいんの?」
まるで中学生が聞くような言い回しだった。ただ楽しそうな二つの目玉が俺を見る。零崎のあいつじゃないけれど、こんな目玉だったら抉り出してやりたいかもしれない。
「母親なんていねぇよ」
軋騎は微かに笑みを含ませて笑った。あ、可愛いな、などと兎吊木が思ってしまうほど優しげな笑みだったから、兎吊木はそれ以上聞くことを忘れてしまった。
いつからいないの、などと聞けば、軋騎はどう答えただろうか。
軋識が一番最初の殺人の標的を、優しく生温い空気と共に思い出していたそのときに。
2007/10・14