■ブログ短文集
(潤軋←兎 パロ)
からんからん、と入り口についていたドアベルが、扉が開いたことを伝えた。
しかしそれは人がやってきた音ではないことを知っている。さっきまで目の前に座っていた女が出て行って音だ。テーブルには彼女が飲んでいたコーヒーがぶちまけられていて、コーヒーカップが無惨にもひっくり返っていた。割れていないようで良かった、と思う。これで弁償しろなんて言われたら、明日大学で請求書を女に渡すために会いに行かなければならなかったからだ。コーヒー一杯ぐらい奢るのはいいとして、何故事故ばりに割れたカップまで己が払わなければならないのか。そこまで俺は広い心は持っていないのだ。
「お客様、平気ですか」
ふと上を見ると、すぐ近くまでウエイターがやってきていた。黒い髪を後ろに撫で付けた真摯そうな男は、甲斐甲斐しそうに持っていたタオルでテーブルを拭いた。
ホットだったから、掛かっていたら火傷していただろうそれをきちんと綺麗にふき取ると、男はカップを片付けようと手を伸ばす。
ふと周りを見ると、客がいなかった。女のヒステリーが嫌で途中で帰ったのもいたのか、それともこんな裏路地にぽつんと立つカフェだから人が居ないのか。まぁどっちもだろうな、と思いながら、床に落ちたメニューを取る。
「ありがとうございます」
「いや、すみませんね、騒がせてしまって・・・。どうにも長続きしなくて」
「・・・・・・・いえ」
男はどう返答すればいいのか困った顔をして、少しだけ笑ってみせた。
「お客さん、モテるんですね。話を聞いてしまいましたが・・・あまり、遊ばない方がいいですよ」
まぁ、浮気を繰り返していた己の方に非があるのはわかるが。しかし、そもそも「浮気してみたい」と強請ってきたのはあの女のほうだったのだ。付き合っていた男がつまらないからという理由でうっかり本気にされてしまった己も哀しいものがあると思う。
品のいい男をぼんやりと見上げながら、自暴自棄になりつつある脳を働かせて無理に笑みを作ってみた。
「遊んでなんかいませんよ。俺は恋に全て真摯なだけです。それより、お兄さん可愛い顔してるね」
「・・・・はあ」
「メールアドレスとか教えてくれないかな、お兄さんとまた話がしてみたいんだ」
にこにこと笑ったまま誘うように言ってみると、男はすっと笑顔を消して、一言「持ってません」と言った。
「何を?」
「携帯電話を、です。人付き合いが昔から悪いものでして」
「それでも持ってるだろ?さっきカウンターの近く通りかかったときに見たよ」
男はそれでぴたりと動きを止めると、ゆっくりした動作でポケットから灰色のストラップも何もついていない携帯電話を取り出した。
そしてそれを、俺の目の前で床に叩きつけ、そして駄目押しにブーツで踏みつけた。
薄い携帯だったから、面白いようにばきっと嫌な音を立てて真っ二つに破壊される。驚いている俺を尻目に、男は変わらない声音で一言、「持っていません」と答えた。
「さっきまでは持ってましたが」
「・・・・・・俺、嫌われること、したかな・・・」
いきなり携帯電話をぶっ壊すような気の荒い男には見えなかったから、あーもしかしたら殴られるかもなーなどと思いながら、静かに聞いてみる。男は極上の笑みを湛えて、「鹿鳴館大学の助教授さんですよね」と聞いてきた。
「へえ、知ってるんだね」
「従兄弟が行ってましてね。零崎人識というのをご存知で?伊井とかっていう、有名人と一緒に居る有名人の、背の低い顔面刺青の変な子ですよ」
「・・・・・・」
あいつの従兄弟か、と心の中で渋面をつくる。なら、どんな悪口を伝えられてるか分かったもんじゃない。
「あいつが貴方にセクハラまがいのことをやられようと知ったこっちゃないんですが、うちの長兄が激怒してましてね、偶にここに来るんですよ。会うと殺されるかもしれないので、気をつけてください」
「・・・・・」
「で、俺が貴方を嫌う理由でしたか?」
男は駄目押しに微笑んだ。うん、はやり可愛い。
「俺の恋人、哀川潤っていうんですけど、覚えてますかね」
「・・・・・・・・」
覚えていますとも。
過去の嫌な思い出bPに輝く嫌な思い出である。
「で、元彼の俺になんか恨みでもあるのかい、色男」
「俺に恨みはないですよ・・・潤はとりあえず、逢ったら殴ると豪語してますが。何やったんですか?」
「やられたのは、むしろ俺の方だよ」
「ほほう?どの口でそれをぬかすか」
聞きなれた声に、反射的に振り向く。体が密着するほど近い位置で、紅が燃えていた。
「あたしのものに手を出そうとするたぁいつだって感に触る奴だなァ腐れ兎が!」
視線の端で彼女が拳を握るのが見えて、俺はどうすることもできずに目を閉じる。追う様にやって来た激痛に椅子から落ちた。
(凶獣と蒼)
「いーちゃんが帰ってくるまでの暇つぶしにつきあってくれるよね、ちいくん」
「はい」
「私の友達だものね。暇つぶしぐらいどうってことないよね」
「暇つぶしでもなんでも、どうぞお好きにお使い下さい。死線に使っていただけることが俺達の至福です」
「ふふ、いい子だねちいくん。それじゃあとりあえず、何か甘いものを、頂戴」
(少女と少年)
目を開ける。ぼんやりとした意識とはこういうことを言うのか、玖渚友は朦朧とした意識の中、重い瞼を閉じないように必死だった。
苦しい。頭が働かない。天上が平面に見える。おかしい。おかしい。
世界が歪んで見えた。重い体を看護士に支えられながら持ち上げると、世界は目を閉じたときと一転していた。全てが塊だった。認識できていない。体の節々が痛かった。痛い、つらい、哀しい、寂しい。
寂しい、寂しい、寂しい。
何故この両手が動かないのか、何故この両足が動かないのか。
何故この両手が肉としてくっついているのか、何故この両足が一部としてくっついているのか。
そこで異変に気がつく。痺れる片手で片目を覆った。眼が、片方、見えない。
「あっ、あっ、あ、ああっ」
いきている。
生きているということは、死んでいないということだ。
「いーちゃ、いーちゃん、どこ、どこにっ」
喉がひりついて上手く呼吸ができない。こきゅうって、どうするんだっけ。
体が麻痺していて、感覚が無かった。私が何処に居るのかもわからない。ただ、兎に角体が冷えていた。背中に悪寒が走る。
一人にしないで、生まれてきたことを否定しないで、生まれてきちゃいけないなんて、もう味わいたくなかった。
感覚の無い片目から歪んだ液体が溢れた。頬を伝っているのかもわからないそれは、もう片方の目にも伝染してぼろぼろと溢れ続ける。目の前が歪んだ。
寒い。凍えて死にそうだ。
「い、いー、ちゃ」
動けないくせに無理に動こうとして、感覚の無い体を引き摺るようにして、ベッドから降りようとする。
それでも足に力が入らずに、そのまま転んでしまった、べちゃっ、と体が床に叩きつけられる。それでも痛くなかった。床の冷たさも感じない。
「ひっ、う、ぐ」
「友!」
がばりと、抱き上げられる。じわりと、指先から暖かさが流れ込んできた。
眠っていないのか目の下にくまができていたいーちゃんが、わたしを抱きしめていた。
「あっ、はっ、うああっ、うぁああああああああっ、いーちゃん、いーちゃ、ん」
「大丈夫だよ、ごめん、ごめん、一人にしてごめんな・・・」
耳元に囁かれる言葉が脳髄に染み渡った。まだ、心臓は痛いけれど。
「もう大丈夫だから、もう・・・」
「うぁ、あ、ごめんね、ごめんねいーちゃん、ごめんねっ」
今まで生きてきた全ての分の涙を流した。
それは留まることを知らず、大好きな人の肩口をただだたその日は、濡らし続けた。
(人識と舞織)
「一緒に居てください」
「やだ」
「なんでですかぁー可愛い女の子が一人でオロオロしてんですよぉー」
「俺お前嫌いだもん」
「嘘吐き」
「そっちこそ嘘吐きだろ」
「いいですよぉーだ。私のことが嫌いでも、私は意地でもあなたのこと嫌いになりませんもん」
「嘘吐き」
「もーそんな嘘嘘言ってると逆に真実味なくなりますってぇー」
「うっせ。俺はお前ほど暇じゃねぇんだよ。敵討ちなんて、くだらねぇ」
「敵討ち。敵討ち、くだらないですか?」
「くだらねぇよ。何で死んだ奴なんかのために敵なんて討たなきゃいけねぇんだっつーの。そいつが生きてるからこその敵討ちだろ」
「ええー?それおかしいですよぉー。敵討ちって本人の自己満足ですよ?そんななんで生きてるうちに敵討ちなんて恥ずかしい。私お兄ちゃんを殺した奴らを根絶やしにしたいから敵討ちしにいくんですよ?お兄ちゃんが死んだのムカつかないんですかぁ?」
「・・・うーん、どうなんだろうな」
「ほら、即答できないじゃないですか。私お兄ちゃんが死んだの哀しくて憎くってムカついて苛々してしょうがないんです。早良さん殺したいですよ」
「早蕨だろ。んん、殺したい、か・・・思ったこと無い気がするぐらい思ってるから怪しいな。かはは、傑作だぜ」
「お兄ちゃんのことを思い出してみてください。色々と思い出があるでしょう?」
「カレー不味かったなー」
「ちょ、真面目にしてくださいよぉー」
「うーん、生首が友達だったか?」
「零崎に友達なんていないんじゃないですかー??」
「っつーかいい加減その喋り方止めろ。キャラ違うくね?」
「舞織になったんでちょっとイメチェン」
「死語だ」
「人識くんに死語を判別できるとは・・・ごめんなさい、嘗めてかかってました」
「お前ほんと人を敬う気ねぇな」
(人識と舞織)
「じゃんけんで俺が勝ったらお前の馬鹿みたいな鋏くれよ」
「ええーじゃあ私が勝ったら人識くんさっき磨いてたナイフ下さい」
「うおお嫌な妹だ」
「家族じゃないんでしょう?」
(チームで遊郭パロ)
「私を上手に殺せたら、お前が欲しがる体の一部、一つ上げようぢゃないか」
どうだえ、どうだえ、蒼女は誘う。
「それなら私は貴方の髪を人房御所望」
一番最初の女は言った。
「貴方の髪を人房、いつまでも大切に扱って、毎晩忘れず舌を這わして蒼に溺れる夢を見たい」
「どうぞどうぞ殺しておくれ」
「殺す前に一つ聞きたい、あなた、それ以外はどうするの」
蒼女は艶やかに一言。
女は悲しそうに「それなら貴方を殺せない」
「私を上手に殺せたら、お前が欲しがる体の一部、一つ上げようぢゃないか」
どうだえ、どうだえ、蒼女は誘う。
「それなら俺はあなたの唇を御所望」
二番目の男は言った。
「貴方の唇、飽きるまで口付けて、腐る頃になったらお腹に入れて、貴方の一部は俺になる」
「どうぞどうぞ殺しておくれ」
「殺す前に一つ聞きたい、お前、残りはどうするんだ」
蒼女は鮮やかに一言。
男は悲しそうに「それならお前を殺せない」
「私を上手に殺せたら、お前の欲しがる体の一部、一つ上げようぢゃないか」
どうだえ、どうだえ、女は誘う。
「それなら俺は貴方の右手を御所望」
三番目の男は言った。
「貴方の五本の指を、しゃぶりついばみ俺が死ぬまで、腐りそうになるなら干物にして持ち歩く。貴方は永遠に私とともに」
「どうぞどうぞ殺しておくれ」
「殺す前に一つ聞きたい、貴方、残骸はどうすんだい」
蒼女は軽やかに一言。
男は悲しそうに「ならば貴方を殺すものか」
「私を上手に殺せたら、お前の欲しがる体の一部、一つ上げようぢゃないか」
どうだえ、どうだえ、女は誘う。
「それなら俺は、何も要らない」
四番目の男は言った。
「実は俺は殺人鬼。人が殺せりゃなんでもいいのさ。あえて言うならあんたの血が、蒼いか赤いか知りたいね」
「どうぞどうぞ殺しておくれ」
「殺す前に一つ聞きたい、あんた、死体はどうなるんだい」
蒼女は今までと同じく、艶やかに鮮やかに軽やかに、深く笑みながら小さく一言。
「死体は燃やして灰となり、雨と混ざって愛しい人に降り注ぐのさ」
男は一度顔を顰め、「俺はあんたを殺せない」
なぜだなぜだと女は喚く。四人も私が要らないと申す、ねぇあたしは何処にいけるの。
散々喚いて泣き散らし、ついに力尽きて女は嘆く。殺人鬼すら殺してくれない、私は人なの生きてるの?
女が黙るまで見ていた殺人鬼、可哀想にと呟くと、警備をして女を閉じ込めていた人間皆殺して出て行った。
蒼女は一人ふらりと檻から抜け出す。真っ青な青い髪が真っ赤な血で濡れて、青い目も血が混ざって、淀んだ黒に変わってしまった。
それでも女はふらふら歩く。やっと街から出たところ、一人の男が待っていた。
女は男を見つけると、黒くなった髪を振り乱し、金も名誉も捨てて男に抱きついた。男は一言「迎えにいけなくて、ごめん」と謝る。
ただの女はぼろぼろ泣いて、片目だけ蒼に戻ってしまった。
2007/10・14