■ブログ短文集

(兎軋)
「生産性の無いことが好きだ」
こと、とチェスの白い駒を一つだけチェス板の上に置いて、兎吊木は一言呟いた。
またいつもの独り言か、と軋騎は無言でコーヒーを飲む。付き合ってられない。話すだけで疲れるというのに。
「人間っぽくって良いと思わないか?」
「くだらない」
「そうかな、くだらないか、くだらないかもね・・・」
ぼんやりと軋騎の返答を口の中で何度か呟く。兎吊木はかつかつと板にナイトをぶつける。高い音を立てて、小さな瑕をつけた。
「手荒に扱うな。結構高い」
「そういうものを、俺に渡すもんじゃないよ。壊し屋に物を丁寧に扱えとは、酷い命令だ。気分が悪くなる」
「渡してねぇだろ。勝手に触るな」
「それもそうだ」
微妙にかみ合わない会話をしながら、それでも兎吊木はナイトを手放さずに、こつこつと板に落としたり取ったりする。
「意味の無いことばっかりやってるのに、無駄なことをやるのを嫌がるっていうのは、どういうことなんだろうね・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・眠いね・・・・・・」
「話題が無いからといって無理して哲学的なこと言わなくていいぞ」
「・・・・・・・・・・・・あいしてる・・・」
「ネタが尽きたか」




(兎吊木と軋識と)
「はっ、は、はぁっ、はっ・・・・」
犬のように喘ぎながら、軋識は崩れ落ちる。頭の天辺から足の爪先まで、真っ赤だった。愚神礼讃を掴む右手などは肉が抉れてずたずたになっているが、見たところ体に大した損傷は無い。
しかし、まるで血の入ったバケツを頭から被ったかのような状態は、普段人を殺してきた後でもこうはなるまい。
兎吊木はその凄惨さに息を詰め、血生臭さに目を見開いた。
こいつ、何処で一体何をしてきたんだか。
考えていることに反して、兎吊木の口はにやりと笑みを湛える。
「美しいなぁ」
兎吊木はうっとりしたように呟いた。
「ここまで清清しいまでに惨酷に恐怖を煽ってくると、逆に崇高だぜ零崎」
「はっ、はっ、・・・・・て、め、何で、またここに・・・・っ」
「今更じゃないか。それより、ほら、シャワー浴びたら?血で濡れて寒いだろ?」
にこにこと笑いながら手を引こうとすると、渾身の力で叩かれた。びりびりと痺れる。兎吊木は「手負いの狂犬は思ってたよりも反応が早いな」と笑う。
「今日は何人殺した?お疲れのようだが、2,30人じゃないみたいだな。力を込めすぎて逆に自分の手を傷めてないかお前」
「触んな・・・・!!」
「まぁまぁ落ち着けよ。俺なりにお前を労おうとしてるんだぜ?ゴミ掃除いつもお疲れ様。定番じゃあ、妻は甲斐甲斐しく美味しい料理を作ってやる所だが、生憎俺はカップ麺ぐらいしか作る気はないぜ」
「知るか!さっさと出て行け!」
にやにやと笑いながら、睨みつけてくる軋識を見つめ返して肩を竦め、兎吊木は「あんまり血に酔わん方がいいぞ」と忠告した。
「まぁ、毎度のように殺した後に意気消沈するようなお前に忠告することは無いか。まぁ、気に病む必要はないだろ零崎。人間を殺して悲しむ必要なんてないさ」
「分かりきったような口を利くな!・・・今すぐ出て行け。今日は本当に、お前を殺すぞ。人間の形をしているものなら、すべてぶち壊したい気分だからな」
「ぶち壊すのは俺の専門分野だろうが。唯一の特技を奪ってくれるな。まぁ、しょうがないか。俺も命は惜しい」
兎吊木は少しだけ体を屈めて軋識の額にキスを一度だけ落とした。
「うーん、生理みたいな匂いがするな」
「てめぇは美味しそうな肉の匂いがする」
「冗談も通じないのか。まったく、完全な零崎はやっかいだ」
兎吊木はそそくさと軋識の隣を通り、玄関の扉を開ける。そこで「あ、」と呟いて振り向く。
「式岸軋騎に用があるから、明日開けといてくれ。それじゃあ零崎軋識、愛してるぜ」
「兎吊木垓輔、お前を殺したい」
「いえい、やったね両思いだ」
ぱん、と最後に手を合わせて、扉が閉まる。軋識は一人玄関に立ちすくみ、小さく嗚咽を洩らした。

その日、軋識が父と仰ぐ一人の殺人鬼が死んだ。




(曲軋)
「左手を出してくれ」
京都にある軋識のマンションのリビングで、曲識は向かい合った状態の軋識にそう言った。
軋識は一瞬止まり、いつもどおり真面目そうなその整った曲識を見つめ、一言「何で」と聞く。曲識はその質問に小首を傾げて、さも不思議そうに答えた。
「結婚指輪をあげよう」
「いらねーっちゃ」
しかも何故結婚指輪。
唐突な申し出に、曲識は少しだけ考えて、ああ、と納得したように呟き、そしてまた真面目くさった顔で、「結婚しよう」と言った。
「・・・・・・・・・・」
「順番が逆だと思ったんだけど・・・なんだその変なものを見る目は。言いたい事があるのなら口で言ってくれ」
「いや・・・お前・・・アホだろ」
心からの呟きだった。
そうか。と、少しだけ物悲しげに曲識は呟いて、微かに頭を下げる。悲しそうにするのに悪いことをしただろうか、と申し訳なく思って、呼びかけようとすると、丁度良く曲識が顔を上げた。
「じゃああげたい物があるから、左手を出してくれ」
「・・・・・・・」
なんで左手なんだよ。
手は出さずに、全身で拒否してみる。反抗と受け取ったのか、曲識はもう一度左手を出してくれと言った。
「・・・別に、右手でも構わないよ」
「何よこすっちゃか」
「それは、貰ってからのお楽しみってやつだよ」
にこりとも笑わずにいうものだから、手が出せない。
流石に曲識も業を煮やしたか、静かに一言呟いた。
「『左手を前に出す』」
「・・・・・・っ!」
意思に反して、軋識の左手がテーブル上に上げられた。ぴくりとも動かせない。
いつからかけているのやら、と心の中で呟く軋識を尻目に、曲識はポケットから何かを掴みだし、ころりと、軋識の手の上に乗せる。
掌に乗せられたものは、予想に反した透明なキャンディだった。
「・・・・・・」
「レンが東京の遊園地に人識を連れて行ってきた土産だ。アスに会ったら渡してくれと、逃げた人識を追ってる最中に会って言われた。美味しいよ。中にハチミツが入っている」
微かに拍子抜けの色を出した軋識に、微かに笑いかけて曲識は立ち上がる。
「結婚指輪の方が欲しかったかい」
「・・・・てめぇ・・・」
遊ばれたことに顔を引き攣らせて睨む軋識に歩みより、動けないことを良いことに、額にキスを落とす。
「欲しいって一言言ってくれたら、いつでもあげるよ」
「誰が言うか・・・!」
「さぁ、どうだろうね」
まだ、先のことは分からないさ―――悪くない、などと曲識が笑った。




(兎吊木と軋騎)
「なぁ式岸、俺自分探しに出かけていいかなぁ」
「土産はまともなの選んでこい」




(兎軋(サイコロ後)
「よぉ式岸、泊めてくれよ」
「・・・・誰だお前」
「ああ・・・髪を切っただけで分からなくなるとは、お前もボケてきたんだなぁ・・・兎吊木垓輔だよ」
「兎吊木ぃ・・・?飼育係に死んだって聞いたぜ」
「実際ここにいるんだから、デマに決まってるだろ」
「・・・・・違う。お前は兎吊木じゃない」
「え?」
「俺の知っている兎吊木垓輔は、他人に迷惑をかけるぐらいなら、死を選ぶ男だった」
「それ何処の兎吊木垓輔だよ。他人に迷惑かけて死ぬ男が壊し屋なんてする訳ないだろ。いい加減足痛くなったんで中に入れてもらえませんか足ちぎれるってば!」
(玄関の扉に足を挟めながら



(死線と屍と兎吊木と軋騎)
「なっちゃん、今好きな人いる?」
「いいえ、いません」
「そう。・・・ちょっとなっちゃんの子供ってどんなのかなーって思ったんだけど、子供の顔が拝めるのは遠そうだね」
***
「式岸・・・」
「あ、何だ深刻そうな顔して」
「・・・・・・お前の子を、孕ませてくれないか」
「ぶふっ」
「だっ、駄目だぜってぇさせねー!!そんなこと!!お母さんは断じて許さないぜ!式岸の子を孕んでもいいのは俺だけだ!そして孕ませてもいいのも俺だけだぁあぁぁああああ!!!」
「大声で叫ぶなボケっ!気持ち悪い!・・・・・で、なんでいきなりそんな・・・」
「蒼が・・・私の子供を見てみたいとおっしゃって・・・」
「・・・・・・・ちゃんと自分の好きな奴見つけてそういうこと言った方が良いと思うぞ・・・」
(その日軋騎は、本気でチームには馬鹿しかいないのだろうかと本気で悩んだ。




(名前を持たない殺人鬼と殺人鬼)
「そうしき・・・?」
「そう。お前の名前」
「・・・・ちがう」
「うん?」
「ぼくは、そうしきっていう名前じゃ・・・ない」
「・・・・・」
「ぼくの、名前は分からないけれど、ぼくは、そうしきじゃ、ないよ」
「じゃあ、死ね」
「え」
「それで、お前は今生まれた。はじめまして、双識。俺はお前のお父さんだ」
「・・・・・・?」
「分かんないか?つまり、さっき「お前」は死んだ。今生まれた、お前は双識だ。零崎双識」
「・・・・・ぼくは、双識」
「そうだ。・・・・生まれてきてくれて、ありがとう。お前に会えて嬉しいよ」
「・・・・嬉しい、の?ぼくと会えて?・・・ぼくが生まれたことを、祝福して、くれるの?」
「ああ。新しい俺の家族。さあ、一緒に幸せになろうぜ」
2007/8・01


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