■凌霄花の焼け落ちるとき
また一人死んだな。
透明な入れ物中で朦朧とした意識の中ぼんやりと光を見ていると、己に背を向けて光の下にある機械を弄くっていた人間が呟いた。ここは、どこだろうか。
・・・大蛇丸さまも、一体いつまでここでやっているのか・・・まるで自分から見つけて欲しいかのようにも思える。
馬鹿なことを。見つかったら必ず死刑ものだぞ。そんなことするわけが無いだろう。
いや、しかし・・・近頃里で大蛇丸さまが危険視され始めているらしい。ここもそろそろ、危ないんじゃないか・・・。
狭い。苦しい。息ができない。
まともに動かすことのできない体に鞭打って、首だけでも横に動かす。視線の先に、己と同じように透明な蓋の無い入れ物に入れられた子供達が横たわっていた。
誰か、起きて、ここから出よう・・・助けてくれ。だれか。
重い腕を持ち上げ、容器の壁に手を付ける。くらくらする。暗い、重い、寒い、足が、腕が、まるで無くなったような感触。
母さんや父さんはどこだろうか。
「だれか・・・・・・・・・・・・」
・・・一人起きたようだ。
何だって?本当だ・・・起きれるのかこんなかで。ついに化物みたいだな。
はは、死んだら人間、生きたら化物か。惨いことしなさるぜあのお方は・・・。
「だれか・・・・・・」
寝ろ。只でさえ他人の細胞ぶっこまれるなんて無茶されてんだ。すぐ死ぬぞ。
説明しても意味無いだろうが・・・ほら、一回開けてこれでも入れとけ。
何だこれ・・・ああ、睡眠薬か?
睡眠薬なんてこの状態のガキ共に効くわけねえだろ。仮死状態にする劇薬だよ。
・・・これで死ぬかもな。
ばちん、と音を立てて己を入れていた入れ物が取り外された。冷たい空気が肺を焼く。体がピクリとも動かなかった。今まで出せていた声も喉奥に詰まって出なくなる。目が痛くて涙が溢れた。男が近づいてくる。
怖い。恐い。こわい。
「ゃ・・・・・・だ・・・・・・・・・・かぁ、さ、・・・・・・・・と、さ」
「まだ声出るのか。こいつ生きるかもしれねぇな」
「ぐちゃぐちゃ言ってないで早くやれ。チャクラの暴走がいつ起こってもわからないから、そんな厳重な入れ物の中に入れてんだろ。お前の腕が植物化とかしても俺のせいじゃないからな」
「へいへい。んな怖いこと起こるわきゃねぇだろ。そもそも木遁って本人から出したりすんだろ?他人から出せたらそれこそ最強じゃねぇか」
「アホだな。漏れ出したチャクラがお前の口とか鼻からとか入って発芽するかもしれない、って言ってんだよ。初の試みなんだから何が起こるのか全然わかんねぇだろうが」
「ったく・・・そんなんに何で俺らみたいな忍でもねぇのがやんなきゃいけねぇんだよ」
腕を捕まえられたのか体が引っ張られた。それでも腕の感覚が無いから、本当に腕が引っ張られたのか分からない。視線の端で注射器が己の腕に突き刺さったが、何も痛くなかった。前学校でやった予防検査のときこんな風だったら痛くなかったのに。
透明な液体が押されて、針が抜かれる。抜くときも痛くなくて、どうしてしまったのだろうと思いながら、ひゅ、と吸い込んだ空気で噎せる。
「さっさと寝ろよ」
「っていうか死ねよだろ」
「はぁー、さっさと成功作が出てくれりゃ、俺もまっとうな仕事につけれんのによぉー」
「お前が今までまっとうな仕事についたことがあったか?」
ばたん、とまた透明な器が己の寝るベッドに蓋をする。ちげぇねぇ、と笑う男の声が、容器越しにくぐもった声に変わった。
目の前が朦朧としてくる。
眠いのだろうか。違う、これは別に眠いんじゃない。瞼が重い、頭が熱い、涙が溢れる。
これは、死んでしまうのではないか。
脳髄を焼くその熱が呼吸ができないので心臓に溜まる。
「ぁ、っ、・・・・・ひっ、いたい、いたい、しぬ・・・一人は、ゃだ、な、なんっ」
寒さは熱さに変わる。視界が赤く染まっていき、右を向いたときに隣に横たわる子供の手首に、毒々しい赤色の花が咲いているように見えた。
「―――――――、え」
悪寒が走り、どうにか止血もされずに倒れている己の右腕に視線を移す。
赤く濁る視界の隅で、己の手に、小さな芽が肉を裂いて咲いていた。
ざわりと背筋が凍る瞬間を身に帯びて、目の前がぶつんと、テレビを消したように暗くなる。
男がまた、ああ、また一人死んだかな、と呟く声が聞こえた気がした。
2007/8・19