■ 愛を嘯く毎日
鼻歌交じりに、死体が乱雑に放置されている路地裏を歩くラッドの兄貴の背中を見つめながら、俺は不貞腐れていた。何故か?それはプラチドの旦那が今回ラッドの兄貴に持ちかけてきた仕事が、ルッソファミリーのシマを荒らすちんけなチンピラ集団の皆殺しだったからだ。
皆殺し。つまり一人も生かすなという仕事だ。
なんかもうやる事も無くやる気も無かった俺は、暇つぶしのノリでラッドの兄貴の所に遊びに行っていた。それが丁度良くタイミングが悪い所で、ラッドの兄貴は人殺しの仕事にすっげぇ楽しみに出かける寸前だったのだ。やる事も無くやる気も無い俺はラッドの兄貴までとりあげられたらマジでレンチぐらいしか心の支えが無くなってしまう状態だったので、人を殺す仕事だけれどほいほいついてきたのだった。以上、中略終了。・・・あれ?中略って・・・長い文を端折ることだよな。じゃあ前略は前を端折ることか。じゃあこれはなんていうんだっけ・・・・・・・あーあーあああああ。そうだ。えーと。前置きだ。前置き終了。
そんなわけで、人を解体するなんてあんまり面白くないことをやり続けるも、ラッドの兄貴についてきていたルッソファミリーのなんかおっさんに「殺せって言ってんだろこのクソ野郎」とか言われちゃったりして、でもやっぱり俺は命なんて形もないもん壊すなんてできないし、でもやっぱり仕事だからそっちが正論だからなーどうすっかなーと一人餓鬼達が逃げ惑う中ぐだぐだしていた。
じゃああれだ。なんか新参者っぽいのを探してお前が関節バラバラにした奴にトドメ刺してもらってれば?というラッドの兄貴の提案を聞き、なんか出て行くタイミングを逃して銃を片手におろおろしてる若い人を見つけて、俺が両手両足の全部の関節ぶっ壊して、そして動けなくなったチンピラの脳天に銃弾叩き込むのがそいつ、と役割を決めてとりあえず仕事をこなした。
ぶっちゃけぜんっぜん面白くもなんとも無い仕事を終え、後始末をルッソファミリーの人達に任せて、死体しか人影の無い裏路地をのろのろと歩きながら、俺は前を歩くラッドの兄貴の鼻歌を黙って聞いていた。
「こういう弱いもの苛めみたいなの俺嫌いですよ」
前を歩くラッドの兄貴の背中に声を掛ければ、「ほお、殊勝じゃねぇか」と楽しそうな声が返ってきた。ラッドの兄貴は弱いとか強いとか関係なく、自分が死なないとかって思い込んでる奴を殺すのが好きだって言ってたから、身の程も弁えずルッソファミリーに楯突いたこの阿呆なチンピラ殺しは別に嫌じゃないんだろう。
「はー・・・兄貴が羨ましいです」
「あ?何がよ」
溜息を吐きながら俺が言うと、足を止めて兄貴が怪訝な顔して振り返った。きょとりとした顔がやけに無邪気だ。むう、と俺がむくれてレンチをくるりと回せば、レンチについていた血液が吹っ飛んで壁についた。
「せめて楽しけりゃいいんですけど」
「なんだ、つまんねぇのか?まぁそうだろうなぁ。別に面白い奴もいねぇし。もう帰るか?」
「帰ってもなんも面白いことも無いんすけどー」
泣きつくように抱きつけば、硝煙の匂いと血の匂いがした。「何で抱きつくんだてめぇは」とラッドの兄貴が俺の頭を叩いた。あああう。酷い。悲しすぎる話だ。
「絶望しそうです兄貴ー」
「頑張れ。希望を持て。応援してるからグラハムちゃん」
「兄貴やる気ないですよー!」
愛が無い!!っていうか愛ってなんだろう!やばい。人生最大の謎にぶち当たってる気がする。つまり俺は今人生と戦っているのか?なんか俺格好よくないか。
無理して歩こうとする兄貴の体にしがみ付けば、足ががりがりとアスファルトで削れるかのような感触がある。ちょ、ラッドの兄貴、待って・・・!
「ラッドの兄貴は俺のこと愛してないんですかー!」
「はああ!?」
我ながら電波的な台詞を口走ってしまった。空しい俺の叫びが路地裏に響く。死んでいるけど人が沢山犇いているこの場所で、なんかやけに恥ずかしさを覚えた。
「てめぇはホモか!」
もうホモでもいいですから!兄貴の片手が俺の頭部を鷲掴む。ちょ、これ頭砕けるんじゃなかろうか。ぎりぎりぎり、と指が頭に食い込むのが分かった。これ頭絶対凹む!
と、ふっと兄貴の手の力が弱まった。未だ兄貴の体にしがみ付いていた俺も何があったかと顔を上に向け、兄貴と目を合わせる。
「・・・・馬鹿だなグラハムちゃんはよぉ・・・俺がお前を愛してねぇ訳がねぇだろう?」
慈しむような目で見られ、俺は思わず泣きそうになってしまった。ちなみに感動ではない。
兄貴はにっこりと笑っていたが、目の奥はまったくと言っていいほど笑っていなかった。冷え切っていると言ってもいい。
暗くぽっかりと沈んだかのようなその青い見とれるような目玉の奥で、兄貴は一瞬だけ笑った。
「俺の愛っていうのはつまり殺すってわけだが、文句はねえよな?たっぷり愛してやるよグラハム・スペクター」
「ごめんなさい」
こんどは兄貴の掌の代わりに、硬く冷たい鉄の塊が頭に押し付けられた。それが何かと確認するまでもない。
「前々からぶっ殺せないお前のことは愛してぇと思ってたんだよ。てめぇ自らその空の頭差し出してくるたぁいい度胸じゃねぇか。ああ?」
「・・・・・・・えーと・・・」
とりあえず兄貴の体に回していた両腕を解いて、降参のポーズとして両腕を上に。冷や汗を垂らしながら見上げるように伺えば、魅力的な笑顔で兄貴は暗い銃口を俺の額に押し付けていた。すみません。調子に乗りました。
「仲良しのよしみで最後に何か言いたいことを聞いてやろうじゃねぇか。何か言い残すことはあるか?」
「最後じゃありませんが・・・愛してます」
「俺もだよ大馬鹿野郎」
冗談でも何でもなく無慈悲にも引き金は引かれ、俺の顔すれすれを鉛球が吹っ飛ぶ。奇跡にも近く俺はそれを回避し、一目散に逃走した。正確に背中を追いかけてくる弾丸をレンチで弾いたりしながら死体の上を駆ける。
とりあえず、目下の目標は兄貴に愛されすぎないことだな、と傍から見ればある意味羨ましすぎる目標を心に立て、そして不謹慎にも今日の暇を潰すために兄貴と一日中鬼ごっことかどうだろう、とか考えたりした。一定確立で死ぬけど。
2008/2・28