■留守番メランコリー
 いつもグラハムの舎弟たちが溜まっている廃工場は、現在酷く閑静なのものと化していた。広い空間の中央ではグラハムが捨てられた車をばきばきみしりと凄惨な音を立てながら解体している。それを眺めながら、ジャグジーは偶に上がる甲高い音にびくりと体を強張らせていた。
 「・・・あの、シャフトさん達、どこへ行ったんですか?」
 やっと、遅すぎる問いをかけてみれば、車のバンパーを取り外しつつ、グラハムはうん?と首を傾げてみせる。それこそ己の舎弟がいようがいなかろうが特に気にしていないようだったので、ジャグジーは己の仲間たちがいなくなってもこんなに平然としていられるだろうかと逆に泣きたくなった。
 涙を目尻に溜め始めたジャグジーに怪訝な顔をしながら、グラハムは「あいつらは今飯の調達に行ってるぞ」と簡単に答えた。一人残されているグラハムは留守番だろうか、とジャグジーが思えば、心を読んだかのようにグラハムは唐突に車を解体する手を止め、天井へと両手を上げる。
 「悲しい・・・悲しい話だ。シャフトの奴、俺が行くと店主がいい顔をしないからと言って俺をここに置いていきやがった・・・!いや、流石に以前ちょっとした出来心で店を半分解体してしまったのは悪いと思っている・・・が!なにも俺一人だけ残されることもないんじゃないか?どうだろうジャグジー」
 「えっ・・・・え、そうです、ね」
 「だろう!?つまり俺はハブ!?ハブられたのか!?これは遠まわしな苛め!?なんてことだ・・・まさかシャフトめ・・・俺に何か不満があるからといってそんな回りくどい嫌がらせをしなくともいいだろうに・・・!喧嘩なら正面きってやってやろうじゃないか!くそ、仲間だと思っていた奴に裏切られるなんて・・・・・・・・世界が終わるに等しい悲しさだ!神は死んだ!空も見えない!」
 空が見えないのはここが屋内だからじゃ・・・とジャグジーは心の中で思いながら、グラハムの言う言葉にぽろりと涙を零した。仲間に裏切られる。それはジャグジーの心にゆっくりと浸透していく。
 己が不甲斐ないリーダーだとは思っている。泣き虫なのも分かっている。強いわけでもない。本当に、今仲間達が支えてくれているのが不思議なぐらいだ。
 そう、段々現実に目をつけてしまうと、どんどんと涙が溢れてきた。心細く、切なく、足元に穴が開いてしまったかのような絶望がジャグジーを襲う。ぽたぽたと零れていた涙は頬を伝って止まることを知らなくなる。
 グラハムさんも、こういう気持ちなんだ。がらんどうだと思っていたこの広い空間がもっと恐ろしいものに思えてきて、ジャグジーは嗚咽を洩らした。
 「なんだジャグジー・・・何故泣く?・・・まさか俺の為に泣いてくれているのか!?」
 当たらずとも遠からずの結論を言ったグラハムは、レンチを片手にジャグジーをがばりと抱きしめた。突然目の前を覆う真っ青な作業着にびくりと肩を震わせて、ジャグジーは抱きしめてきたグラハムの体を抱きしめ返した。「おお!?」と今度は逆にグラハムが驚く番で、体に回された己よりも年下の少年の腕が震えていることに気づくと、途端に口を閉ざす。
 「大丈夫・・・・っ、ですっ・・・・!」
 ジャグジーのはふるふると体を震わせながら、くぐもった声を零した。グラハムは真剣な目でジャグジーのつむじを見つめる。作業着に滲みこんだジャグジーの涙も気にせず、ぽん、とジャグジーの頭を撫でた。
 「シャフトさんたち、っは、グラハムさんのこと、嫌いなわけじゃないです・・・っ!ぜっ、絶対にっ・・・・!」
 「ジャグジー・・・!」
 グラハムを慰めるつもりで回された腕は、グラハムに抱きつくことによって逆に縋っているように見える。だが、グラハムは己を必死に慰めようとするジャグジーに感激し、再びジャグジーを抱きかかえるように抱きしめた。歳はあまり離れていないはずだが、完璧に大人と子供である。
 「大丈夫だ・・・!例え本当にシャフトが人でなしだろうが俺にはお前という心強い仲間が居る・・・!頑張ろうジャグジー!悲しい話だろうが俺たちなら嬉しい話に変えられるはずだ!」
 「うっ、ううっ、グラハムさんっ・・・!」
 完璧にシャフト=人でなしというレッテルが貼られる方向へ行っている。グラハムは己のために涙するジャグジーを抱きしめ、涙と共に伝わってくる人のぬくもりに嬉しそうに笑みを零した。
2008/2・2


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