■残りは2つであり
特に新しい問題が起こることも無く、他の組との取引についての資料に目を通すだけで終わりを告げようとする今日。
まだ顔つきに幼さの残る、しかし段々と女性らしい顔立ちになってきたリカルドは一足先に夕食を作りに行ってしまったクリスを思いながらダイニングへと向かった。かなりの広さを持つルッソファミリーの新しい豪邸のダイニングは、むしろ食堂と言った方がいいと思われる広さを持っている。中央に配置された長テーブルには約15人強が座れる広さを持ち、実際、ルッソファミリーを代表する殺し屋のラッド・ルッソが呼んだ舎弟や友人達と共に食事をするのに困らない。騒がしい夕食になるが、元々テンションを高く持つラッドがいる時点で静かな食事を送ることなど無理に等しいだろう。ついに30歳を越え一度は監獄に入れられたこともあるラッドも、一時期は静かになるかと思われたが流石に表面上しか取り作れないらしく、存分に暴れられる事態になった場合、20代ともなんら変わりの無いお祭り状態へと変貌する。昔から変わらないなぁと思うが、あのラッドが大人しくなった、などとなればそれこそ天変地異の前触れだろう。地球が二つに割れてもおかしくは無い。
成長期にも入り、どんどん身長も伸び声も顔立ちも変わっていくリカルドだけが先に進み、ラッドもルーアも、それこそクリスやレイルなどという本当に成長しない者も、まったくといっていいほど変化が無い。本人達に言わせれば、ラッドはラッドで「年波に落ち着いただろ?」と真顔で言い張るかもしれないし、クリスやレイルも「リカルドと出会って、ありえないほど変わったよ」というかもしれない。しかし、微妙な疎外感だけがどうしても消え去れない。
幼い頃、男装をしていれば少年と見られることばかりだったのに、成長した彼女の体は、どれだけスーツに身を包んでも、その見た目だけは誤魔化すことができなくなっていた。それを今更嫌とは言わないが、女マフィアとだけでルッソファミリーが軽く見られることが嫌なのかもしれない。
そう思いながら、やっと食堂の扉を開くと。
「おめでとうリカルド!」
「え?」
素っ頓狂な声を上げると同時に、ぱん、ぱん、とクラッカーがはじける音がリカルドを襲う。一瞬銃声!?を身を竦ませたが、明らかに音は軽く、そして痛みも、ましてや銃弾も飛んできやしなかった。
リカルドの上からぱらぱらと落ちてくるのは赤や白などの紙の切れ端で、髪にひっかかるのはピンク色のめでたい色をしたリボンばかりだ。クラッカーを鳴らした赤目の見た目人外は、にこにこと笑いながら目を丸くするリカルドに再び「おめでとう!」と切り出した。
「・・・クリスぅ。何が起こってるのか理解できてないっぽいよ?」
「そりゃそうだろ。祝う理由もこじつけくせぇしな」
テーブルに座りながら呆れた声を上げるレイルと、腹が空いているのかテーブルに体を突っ伏しているラッドを交互に見やり、やっと状態を把握した所で、リカルドは何事?とクリスを見上げた。
「何って・・・・リカルドが僕好みのマフィアに近づいたことに関しての昇進祝い?」
「・・・・近づいた?」
何かしただろうか、と脳裏に物事を思い浮かべ――――思い当たることが無く、首を傾げる。
花を愛でる―――――というか植物を屋敷の周りに育て始めたのはルッソファミリーを立ち上げた頃からのはずだし、歌が上手い、というのも―――そもそも音痴でもなく、そしてクリスのように壊滅的な音楽センスがあったわけでもないので、ある程度は元々歌えたのだ。
後は・・・なんだっただろうか。空が飛べる?片手で自動車を持ち上る?・・・情婦を10人弱侍らせる?
今の所それができる見込みもないし、最後にいたっては性別からして問題がある。情夫、にすればなんとかなるかもしれないが、レズにでもならないかぎりそれは無理だろう。
一体何、と聞こうと口を開こうとするよりも早く、にこやかに笑ってクリスは祝い事の理由を教えてくれた。
「飛べるじゃないか!空!」
「・・・・・いや、飛べないよ」
何を言っているんだろうか。ついに頭にどこか異変でも――――そう怪訝そうな顔をしてクリスを伺うリカルドに、クリスは首を傾げ、「あれ?」と見下ろした。
「ネブラの系列会社との何かの企画のオープニングセレモニーとかで、飛行機に乗るんでしょう?」
―――――――――飛行機。
確かに、確かに飛ぶ―――確かに飛ぶけど!
リカルドはそっち!?と心の中で驚きながら、二の句を告げずに言葉を無くした。絶句するリカルドの表情にげらげらと笑って、ラッドが「だよなぁ!?」と仮にもボスであるリカルドへとびしっと効果音が付きそうな勢いで指を差した。その向かいに居たレイルが避けるように身を引けば、リカルドの顔にラッドの人差し指が真っ直ぐに向けられる。
「俺もよぉ、リカルドが実際に羽でも生えて飛ぶのがクリストファーの願いとか思ってたんだが、・・・いいじゃねぇか!また一歩恋人の理想に近づけたんだしよぉ。ここは素直に喜んどこうぜ」
「別に、恋人じゃないですよ、ラッドさん」
「そうだよ。クリスはリカルドの恋人じゃないよ!」
すぐさま二人の少女からの反論にあい、クリスが笑いながら「僕って愛されてるー」とスキップしながらキッチンへと向かった。空いたままの扉の向こうから、夕食の用意を済ませたルーアが不思議そうな顔をして、遅くやって来たリカルドに目を留め、「おめでとう、リカルド」と微笑んだ。
「いえ、ルーアさん、それはちょっと違うと・・・」
「でも、クリストファーさんは喜んでるわ」
柔らかく微笑まれてしまえば、返す言葉が見つからなくなってしまう。彼女の言うことは確かに正論だ。好みのマフィア像はクリスのものだし、クリスがそれで喜んでいるならば彼女が何か反論する余地はない。
クリスは素早く、恐らく手作りであろうかなり作りこんでいるケーキを持って戻ってきた。夕食よりも先にケーキ!?と思いながら、クリスににこやかに笑われたまま、己の定位置へと腰を下ろす。
「おめでとう、リカルド」
「うん・・・・・おめでとう、クリス」
実際祝われるのは彼の方だろう。ルーアに注がれたシャンパンのグラスをもって掲げれば、クリスは楽しそうに「次は片手で車を持つんだね!」とケーキを切り分けた。
・・・・・・・ごめん、流石にそれは無理。
早くも掲げたグラスを提げたくなってしまったドン・ルッソを尻目に、再びレイルとラッドとルーアはくつくつと肩を震わせた。
2008/1・28