■BACCANO! log8
*グラルア (グラ→ラド?
「姐さんが好きです」
告白してみた。
椅子に行儀よく座ってぱちぱちとジグソーパズルに勤しんでいた姐さんは、少しおどろいたように目を見張って、すぐに微笑んで「ありがとう」と囁いた。
「悲しい話だ・・・結構度胸を使ったというのに一言で、しかも友愛としてスルーされてしまった・・・これは一体どういうことだ・・・姐さんと俺の思いが伝わらなかったのか?もしも俺の今までの思いが伝わらなかったのが俺の伝達方法が悪いとすれば・・・なんてことだ・・・俺はいつからこんなに軽く見られていたのだろう・・・」
「グラハムのお姉さんはどういう方だったの?」
姐さんはそっと吐息を吐くように、柔らかな声音で呟いた。かつて俺が姉に恋したということを踏まえて俺の勘違いを指摘しようとしているのだろう。姐さんはカウンセラーの才能があるんじゃなかろうか。
「言っておきますが姐さんとはあまり似ていません。明るく快活で螺子の緩んだとにかく美人な人でした」
「そう。じゃあ、グラハムは別に私のことが好きなわけじゃないわ」
姐さんはいつから読心術を手に入れたのだろうか・・・!俺は俺すらも知らない心を指摘されたことによって呆然としていると、姐さんは完成させた真っ白い平面のジグソーパズルをそっと撫でながら、「グラハムはだって、ラッドに恋しているんでしょう?」と言った。マジか。
「それは・・・」
「違うかしら?」
姐さんは心底不思議そうな顔をして、白いなめらかな右手の甲を、俺の前にすいっとさしだしてきた。綺麗な手だと思った。
「さっき、ラッドが仕事に行く前に、薬指にキスをしてくれたのよ」
自慢か。ぎりっと心臓への痛みに俺が泣きそうな顔をすれば、姐さんは子供をあやす様な柔らかに微笑んで、(しかしその目玉の奥はいつだって死にたがっており)俺の顔のすぐ前へと手の甲を見せびらかした。
「貸してあげるわ」
手をだろうか。
俺は白く、滑らかで、とつとつと骨が均等に浮かび上がる美しい女性の手を見て、ああ、壊したいな、と思いながら、手を伸ばしかけて、やめた。
「あんまり俺を苛めないで下さい」
「先に苛めてきたのはグラハムでしょう」
そう言った姐さんは困った顔で顔を顰めた。俺が苛めたのはいつだ。俺は目の前から消え去った手を視線だけで追いかけて、俺は兄貴に恋しているのだろうか。姐さんに恋しているのだろうか、と延々悩み続けた。
どちらにせよ、どうせ俺には、兄貴も姐さんも触れることすらできないのだ。
*グラッド
ふわりと視線の片隅を揺らいで消えていた紫煙に目を向ければ、ドラム缶の上に腰掛けて一服している兄貴が目に入った。足元には頭が銃弾で砕け散った死体が積み重なっており、俺が兄貴の下に行くにはどうしても死体の上を歩かなければならなかった。ぐにゃりと足元が揺れる。
「兄貴ー」
「何だ」
「キスしたいので消してください」
「地面とキスしてろ」
即座に返された返答にがーんとショックを受ける暇もなく、兄貴から鮮やかに鼻で笑われた。完璧にあしらわれている事ぐらい俺でもわかる。
「葉巻、嫌いなんです」
「何でだ?」
「煙は壊せないじゃないですか!」
当たり前だろう何言ってるんですか兄貴とでも言いたげに反射的にそう返してしまうと、呆れたような目が俺を射抜いた。痛い。
「匂いとかが嫌なわけじゃねぇんだな?」
「う、でも俺苦いのあんまり好きじゃないです」
「じゃあ好きになれ」
何を無茶な、と言おうとすれば、兄貴の座る寸前に足を止めた瞬間に胸倉掴まれて引き寄せられた。兄貴の顔がすぐ間近に接近し、キス!?やべ!と心臓が跳ね上がると同時に、兄貴の口からぶはぁ、と大量の煙が俺の眼球と鼻に大ダメージ。
「ぎゃあああああああああああ痛いぃいいいいいいい!!」
「目を閉じるなりなんなり回避しろよ」
「いやキスで目を閉じるのは基本的に女性側だろうという俺の偏見により目は開けようと必死だったので!!悲しい話、ぐぁああ!」
台詞を全部言い終わる前に兄貴の踵落としが俺の頭部にクリーンヒットした。流石にマジに言い過ぎただろうか。
「葉巻の匂いのする俺を好きになれ」
にやりと不敵に笑った兄貴に不覚にも俺は見惚れてしまい、再び眼球を襲った煙に、再び俺は無防備にも目が焼け付くような激痛を二度、味わう嵌めになった。
*クレラド (DS未プレイ予想
ぱぁん、といっそ笑えるほど乾いた音が空に響いて、それを追いかけるように男の哄笑がビルの間へと溢れた。
「ははははははっ!」
男の放つ弾丸はもはや標的を狙うなんてことをしないようにも見える。一発でしとめる、などというプロの殺し屋とは真逆に、『当たれば良い』という程に乱雑な弾丸は、男の滅茶苦茶な動きに反してしかし確実に不良達の顎を砕いてその脳天に鉛の塊をぶち込んでいく。
「おいおい楽しィなぁおい!!どうするよ楽しすぎてぶっ飛んじまいそうだよどうしてくれるんだこら!」
舌を噛むのではないかと心配してしまいそうなほど、男の言葉は塞き止められたダムから唐突に水が溢れ出るかのように止まることを知らない。見開かれた青い目玉が狂気を孕んで、恍惚に哂った。
「ああ?そういやあいつどこ行ったんだ?なぁあんたクレア知らねぇ?」
「ひぃっ!はぁああ!」
「知らねぇならいいや」
恐怖によって一言も発せず、引き攣った喉で喘ぐ男の命をあっさりと奪い、逃げ惑う男達を眼で追いかけ、ラッドは視界のなかでまるで空気を吸って黒ずんだ赤を探して一瞬動きを止めた。
クレアはラッドの動きによって完璧に錯乱した不良達の首をまるで空気でも切り裂くかのようなゆっくりとした動作で確実に首にナイフを走らせていく。数名は己の首が半分分断されたことに気づかず、5歩走ってそのまま前のめりにすっ転んで絶命する。
「おっいたいたクレアちゃん」
「ん?」
ラッドは笑顔のままクレアへと片手を挙げ、不思議そうに顔を顰めたクレアに向かって銃口を向けた。クレアの片腕によって完璧に動きを封じられた不良の一人は、「仲間割れ!?」と驚きで目を見張るが、容赦なく放たれたラッドの銃弾はクレアに向かった直後、片腕を素早く動かしたことによりクレアに掴まれていた不良少年の頭部を一回で破壊した。クレアの盾となり、不良の一人の命は奪われる羽目になる。
頭部がごっそりと無くなった死体を地面に捨てながら、クレアはにやにや笑うラッドに顔を顰めて抗議する。
「何で俺にむかってお前は撃つんだ」
「どうせ避けれるし盾も周りに沢山いんじゃん。俺の殺意は愛情よ?」
飄々と言ってのけるラッドに「上等だよほんとに」と溜息混じりにクレアは哂って、ハイタッチをしようと手をあげたままのラッドの掌に、思い切り自分の片手をたたきつけてやった。
*クレアvsグラハム
銃弾が肉を抉って地面に凹みを作る。ちゃちな拳銃を握り締めて、クレアは小さく笑った。
「なんて顔してんだ馬鹿餓鬼」
顔を覆う長い金の前髪の隙間から、獣染みた青い目がクレアを下から睨みつけた。脇腹から血を滲ませ、圧倒的不利な立場にいるというのに、グラハム・スペクターはなお赤い化物を睨みつける。
「あんたに餓鬼と言われるほど年齢に差は無いはずだ」
「確かにな。だが色々と差がある。歴然とした」
銃口はグラハムの右腕へと向けられ、無造作に引き金が引かれる。ぱん、と乾いた音よりも、びちゃびちゃと血液が床に墜落した音のほうが酷く大きな気さえする。
「差だ」
「―――――――」
肉の抉れた腕はそれでもレンチを握り締める。筋肉が引き絞られ、血液がぶしゅっと勢いよく噴出した。グラハムは幽鬼のようにゆっくりと立ち上がり、激痛も血も全てを無視して、「壊す」と一言宣言する。
「素手の俺に手も足もでなかった野郎が何をぬかす?」
「知るか」
グラハムは臆しない。クレアはそのイカレた姿に、かつての列車の上で対峙したクソみたいな殺人鬼をふと思い出しながら、「じゃあ、遊んでやろうか?」とゆっくり笑い、手に持った一つの凶器を余裕そうに背後へ投げ捨てる。
がしゃん、と音がした途端、銀色に輝くグラハムの凶器が、正確にクレアを肉塊にしようと襲い掛かった。
*フェルメートとチェス(拷問
ベッドに繋がれた少年は、頭部を破壊されたことによって未だぼんやりする頭で必死に天井を見上げていた。霞む視界のなか、暖炉の明かりでゆるやかに照らされた木状の天井が、段々と鮮明に見えてくる。
「チェスは可愛いね」
ベッドの隣、片手で新品同様のコルク抜きを弄ぶ、前髪でその双眸を伺うことのできない男は、口元を柔らかく歪めて、そっと空いた指先を、少年の足に這わした。
恐怖とあまりよくない健康状態において、少年の足は冷え切っていた。裸足のまま埃の薄く積もったシーツの上に、縛り付けられるようにして放置されている。その小さな足の指を、抓むように男は指先で撫でた。
「何故、こんなにも可愛らしいのだろうね」
嘲笑うかのような男の声が、ようやく少年の耳にしっかりと聞こえるようになる。男の指は少年の冷たい足よりももっと冷たく、ぴくりと少年の足が痙攣した。
男の手先は、少年の視界から見えない。怖い。何をされるのか、予想がつかない。
それは、目の前に晒された凶器よりも少年の心臓を急激に犯していく。未知への恐怖、というよりは知らないものへの恐怖だろう。少年の手が、汗ばんでいく。
名前を呼んでも、男はきっと何も留めることはしないだろう。怖い。
次の瞬間、少年の体が強張る。足に、何か生暖かいものが吹き付けられているのだ。
―――――吐息?・・・何が、
続いて、足の人差し指と中指が同時に温かいものに包まれた。濡れている。
嘗められているのだ、と少年の頭が引き攣る。気持ち悪さよりも、今まで男にやられてきた行為によって、先の行為が予測できた。静止の声を上げるよりも早く、ごちゃ、と変な音がした。
激痛。冷たい足がもっと冷たくなる。そしてその上に重なっていく生暖かい、己の血液。
「ははぁ、チェスの指は、可愛いねぇ」
――――――ふぇるめーと。
べぇ、と男はチェスの顎を掴んで己の顔を対峙させると、見せつけるように口を開け、血の滴る舌をチェスへと見せた。真っ赤な男の舌の上で、チェスの足の指がぽろぽろとまるで玩具のように血に塗れて存在していた。
*フェルメートとチェス (拷問
ねとりと少年の柔らかな腹部に男の舌が押し付けられた。すべすべとした肌の下には未発達故か筋肉の無い少年の軟い肉がある。ぎくりと体を強張らせた少年に薄ら笑いを零し、男は「ふ、はは」と小さく笑い声を上げた。熱い息が掛かる下半身に屈辱と恐怖で歯をがちがちと鳴らす少年を嘲笑うように、男の口が開かれ、そのままがぶりと歯が少年の腹に食い込んだ。
「あっ・・・・・ぎぃっ!がっ!」
悲鳴を出すことも無い。みちみち、ぶちぶちと肉が千切れる音が直に体に伝わる。生暖かい液体がどばっとベッドに広がり、男の口元を真っ赤に汚した。噛み千切られた腹部、陥没したそれにようやく少年の絶叫が室内を振動させた。絹を劈く所ではない、絶望の声が屋敷に響く。
「チェスの肉は柔らかいねぇ」
男はそう言って、千切れた肉片をごくりと飲み込んだ。絶望の音が、嚥下する。
2008/2・24