■Let's meet in fancy.(空想の中で会いましょう。)
あいつを殺す、夢を見た。
一度目はナイフで刺し殺した。
二度目は銃で撃ち殺した。
三度目は素手で捻り殺した。
四度目は気が付いたら死んでた。
四度目で、泣き喚いた。
四度目で、ようやく愛の告白をした。
五度目は、無かった。
「おはようラッド!俺今日も夢の中でお前殺しちまったよ!」
朝から物騒極まりない台詞をのうのうと吐きながら、フェリックス・ウォーケン―――否、クレア・スタンフィールドはにこやかに挨拶を向かいの男に向かって言った。テーブルを挟んで向かいの男、ラッド・ルッソは目玉焼きを乗せたトーストを齧りながら、黙って眉間に皺を増やしただけだ。何かと言いたいことはあるのだろうが、それをなんとかして喉奥に押し込めた、という風に見える。その証拠に、ばりばりと音をたててトーストを口の中に押し込めると、手に付いたパンの欠片を払いながら、ぐいっと傍にあったミルクを飲み干し、しばらく何も言う気は無い、と黙ってもぐもぐと口を動かすだけに努める。そんなラッドの様子を微笑ましい子供の様子でも見るかのような目でみやり、クレアはふふん、と笑った。嫌な笑みである。
「・・・・・俺も夢でお前のことが殺せるならなんどだって夢を見てーよ」
「まぁそう不貞腐れるなよ。所詮夢だろ」
「空想でもてめぇを殺せねぇとなると、ちょっと神様の悪意的なものを感じるぜ」
「これで四度目だ」
クレアは用意されてあったトーストをがつがつと口に運びながら、感慨深げに呟く。やたらと上品なものばっかり好む癖に、やたらと物を食うときは汚い。ガキのような男だ。ラッドは普段の行いが悪い分、不思議と作法は丁寧なので、まったく真逆な二人である。共通する部分といえば、二人とも殺人者で、互いの命を狙いあい、そしてついでに、愛し合ってるぐらいなものだろう。あとは性別だろうか。
「死に方がアレだったから、俺、マジ泣きしちまったんだ、今回。起きたら涙出てるし」
「ほぉ!今回はどんな風に、愉快痛快に俺様のことを殺してくれたんだ?てめぇが泣くとなるとよっぽどだな」
「それがだなぁ」
トーストから零れる欠片がテーブルにぱらぱらと落ちる。今更その無作法にラッドは何も言わないが、見ていてそう気分のいいものでもない。ミルクを継ぎ足し、いや、コーヒーでも入れるかと一人考えているところに、クレアのなんとも酷い台詞がさらりと押し入って来た。
「お前と性交してる最中なんだよ」
「ぶはっ!」
ミルクを飲もうとした寸前にそんなことを言われたらひとたまりも無い。零すことは何とか堪えたが、せいこう、とその言葉を反駁し、目の前の白いミルクを見て、ラッドはそれをテーブルに置く。コーヒーを淹れよう、と決めた。
「ケツの穴って太い血管が集まってるから、手酷くするとショック死するって聞いたけど、マジで死ぬんだなーと思ったよ。まぁ一つ学習したし、これからお前とヤる上で、ショック死させる確立は恐らく減ったわけだし、今回の夢は勉強になったな。ちゃんと優しくしてやるよ」
「なんでそう下劣な会話を朝っぱらからしなきゃいけねぇんだよ」
色々と突っ込むことも面倒くさくて、ラッドは呆れた顔をしながら苦いコーヒーを胃に入れた。こういう不味いもんを無理やり飲んで、意識を紛らわせた方がいい、と思ったのだった。クレアはそういうことにも特に気にした風も無く、トーストを食べ終わった後にごくごくとミルクを一気飲みした。よくできるな・・・いや、そういう奴だったか。ラッドは心中でそう呟きながら、溜息を吐くことしかできない。
「お前が弱い癖にずぅっと俺に対して偉そうな口きくから、多分こういうストレス発散方ができたんじゃねぇかな、と思うんだけど」
「てめぇに口答えしたら皆ヤリ殺されんのかよ。この色情狂」
「まさか。お前だけだよ、ラッド」
語尾にハートでもつけるかのような甘ったるい台詞を吐きながら、クレアはにんまり笑って見せた。ああ、この野郎、俺が嫌な顔すんの見て喜んでんのか。この変態ヤロー。苦々しげに顔を顰めるラッドを愛しい生き物でも見るかのように目を細めて見やり、クレアは小さく噴出す。
「なんか、警戒してる猫みたいだな」
「生憎、俺は世間じゃ人喰い鰐で通ってるんだが」
「鰐は好きだ。っていうか動物は何でも好きだ」
そりゃもうグリズリーと友達だった経歴だって持つのだから、鰐だって可愛いものだろう。世の中にはその牙の間に頭を突っ込む人々だっているほどなのだから。
「でももう、夢でお前を殺すのも疲れた」
溜息を吐きながらクレアは言う。別に殺されたい訳ではないのでそんなこと言われても困るだけなのだが、ラッドは「じゃあ殺すなよ」ととりあえず言ってみる。しかし殺すなといわれて夢で見ないようになるならば、今までの4回は一体なんだったというのだろう?
「俺だってもういいよ。でも夢って別に操作できるわけじゃないだろ?」
「じゃあどうすんだよ」
「これから一緒に寝ようぜ」
・・・お前これが言いたかっただけなんじゃねぇの、とか、お前自分の年齢幾つだと思ってんだ、という台詞が一瞬でラッドの脳内を埋め尽くしたが、どれを言えばいいのか逆に詰まってしまう。クレアはいたって平然と、真面目そうに、「よし、そうしよう」となんだか勝手に決めた。
「よし、じゃあベッド運ぶわ」
「おいおいおい待て待て待て。そもそもベッドを持っていって同じ部屋で寝て、その夢は止まるもんなのか?とまらねぇよな?」
「ん?確かにそうかもな・・・じゃ、一緒に寝るか」
「変わんねぇじゃねぇか」
「いや、同じベッドで、って意味」
「・・・・・・・・・・・いや、いやいやいやいや」
なんだそれ、とラッドが言うよりも早く、クレアはさっと立ち上がり、胸元についた食べ滓も払うことなくリビングから出て行ってしまった。何だ突然、とラッドがその背を見送った直後、はっとラッドは何かに気が付いた。
と、同時に、扉をいくつか挟んだ向こうで、めしめしめしぃ、ばきばきばき、と嫌な音が聞こえてきた。遅いと知りながらもクレアの後を追い自室に向かえば、想像通り、自分のベッドがスクラップと化していた。凄まじい先ほどの破壊音は、クレアがラッドのベッドをただの木の塊に変えている音だったのだ。
ぱんぱん、と両掌を打ち合わせながら、爽やかにラッドに振り返り、クレアは持ち前の人懐っこい笑顔でにっこりと言う。
「一緒に寝るよな?ラッド」
「脅迫じゃねぇか!」
「ソファで寝るって言うなら、ソファも壊すか」
やれやれ、と呟きながら、大して面倒くさがっている様子でもないクレアを呆然と見ながら、これ以上家具を壊させて溜まるかと、ラッドは言葉を無くしつつクレアの腕を掴んでその行動を阻む。こうして恐るべき唯我独尊男と付き合うことにした過去の自分を責めながら、ラッドは殊勝にも今晩共に寝ることを自ら志願したのだった。
2009/12・22