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想定の範囲外 「相手がどうして自分を好きなんだろう、そう疑問に思うことはないかい」 人の家に勝手に上がり込んでDVDを観ていた兎吊木は、ソファに置いてあったクッションを少女のように胸に抱え、そんなことを呟いた。 女顔で美人だが髭があるため、とてもいただけない光景だ。 俺は嫌なものを見てしまったと視線を外した。 「なあ、式岸」 「あ?俺に聞いたのか?」 「君はバカか。この部屋にいるのは俺と君だけではないか。まさか君には他の者が見えているのかい?おいおい、いつから霊感キャラを目指したんだよ」 目線はテレビ画面から移すことなく、兎吊木は饒舌に笑う。 この間問いに答えたら、今のは独り言だよ気味が悪いから聞き耳をたててくれるなと言っていたのは、どこのどいつだったのか。 言い返したところで、このマシンガントークに抗えはしないだろう。 どうせ語彙が少ないことを、更にバカにされ、血を見ることになるのは明らかだ。 (勿論負傷するのは俺ではない) 「ない」 「は?」 「お前はバカか。質問に答えたんだよ」 「ふん。それくらいわかっているよ。つい間の抜けた声を出してしまったのは、君がないと答えたからさ。本当に、式岸、疑問に思わないのか?」 「一度聞いたことを何度も聞くな」 「本当にないのか!」 兎吊木は相変わらず視線を動かすことなく、大袈裟に叫んで、持っていたクッションを宙に放った。 何がしたいのかさっぱりわからない。 「意外だ。君は、俺が君を好いていることに疑問を持つかと思っていたのに」 「ふたつ質問がある。どんな疑問を想定していたのか、それとお前は俺を好いているのか」 「霊感キャラの次はカマトトキャラかい!?それとも鈍感っ子って奴かな!睨むなよ。そっちを向かなくとも、そんな熱い視線を送られちゃあわかるってものさ。照れるじゃないか」 ふふふっと気持ち悪く笑い、兎吊木は別のクッションをまた胸元に引き寄せた。 「まずひとつめの答え。俺は式岸が、どうして兎吊木さんは俺のことが好きなのかな、あんな美人で格好いい人が俺を好きなんて有り得ないよ、だってつり合わないもの!と疑問に思っていると想定していた」 「お前、俺のこと何キャラだと思ってやがる。どんなふうに見てるんだ。気色悪い」 「辛辣な感想ありがとう。そしてふたつめの答え。俺は以前君に告白しただろう。好きに決まっているじゃないか」 「告白?」 積極的に思い出したくはないが、わからないままでいるのも気分が悪い。 しかし記憶の抽き出しを捜しても、そんな告白とやらをこの男にされた覚えなどなかった。 もしされていたら覚えているはずだ。 嫌な記憶というのは、いつまでたっても頭にこびりついたまま離れないものなのだから。 「酷いな!式岸は俺の一世一代の大告白を忘れているのか!」 再度大袈裟に叫び、兎吊木はこちらを向いた。 クッションを抱きしめたまま、わざとらしく目を潤ませて、お前こそ何キャラを目指してやがるんだ。 「一週間前だよ!告白しただろう!?君の下着を数枚拝借したよ。何に使うかだって?ちゃんと実用させてもらってるさ。いま穿いているのが正にそれだと!」 「あー…思い出したくないあれか、告白、まあ確かに告白だが、あれは嫌がらせだろう」 「ぐっちゃんのにぶちん!」 「死ね」 「冗談が通じない奴め。告白の後気付いたら病院にいてびっくりだったよ。下着を拝借するというのは、どう捉えたって相手に好意を寄せている行為だというのに。君は鈍いなぁ」 「明らかに変態行為だろうが、次は警察呼ぶぞ」 「そうか、式岸は自信満々で俺に好かれていると思っているから疑問など抱かないのか。ちぇ」 「突っ込み待ちか?」 エンドロールが流れ始めた。 兎吊木はつまらなさそうにテレビに視線を戻して、俺のせいで終わってしまったと言わんばかりの大仰な溜息を吐く。 「全く、どうして君が好きなんだろう、という疑問を感じてしまうよ」 「へぇ。その感情ならわからないこともない」 「ふうん。君に彼女以外の好きな人がいたとは知らなかったな」 「兎吊木、お前はどうなんだ」 「やれやれ。何の話だい?どうとだけ聞かれても、何を聞かれているのかわからないぜ」 自分の態度を棚に上げて兎吊木は苦笑する。 「俺にどうして好かれているのだろうと、疑問に思うことはないのか」 きっぱり言ってやると、兎吊木はこちらをゆっくり振り返り、目をしぱたたかせながら、おどけたように言った。 「どうして式岸は俺のことが好きなのかな、あんな美形でエロ格好いい奴が俺を好きなんて有り得ないよ、だってつり合わないもの!」 だからそれは一体何キャラなんだ。 |