■P飯P
先の戦闘で切り落とされたピッコロさんの手を見つけた。
むき出しになった大地は土地柄のせいかごつごつしていて、パオズ山の地面みたいに水分を含んでいない、所々罅割れた硬そうな地面だ。その上に、ピッコロさんの手は掌を上に向けた状態で、肘よりちょっと手前の部分から、ごろりと転がされている。
人間の手とは違って指が5本もないから、親指がない。だから丁度僕の手から親指を根こそぎそぎ落としたような形だ。明らかに人間の肌の色とは思えない色をしたそれの切断面は、すでに乾き始めている。溢れた血液が乾いた地面に染みこんでいて、どこからかやってきた小さな虫が水分を求めて集まり始めていた。
僕は慌ててそれを拾い上げて、傷口を自分の外套で包んだ。傷口が見ていて痛々しかったし、そこに放っておいて、ここらへんにいる動物に食べられちゃうのが凄く可哀相に思えたからだ。
ふと、僕はそこで自分の背後からかぶせられる影に気づいた。振り向けば、お父さんがじっと見下ろしてきていた。僕の外套からはみ出たピッコロさんの手をきょとん、とした顔で見ていた。
「それ、ピッコロの手か」
「うん」
「チチに見つかったら捨てちまえって言われるから、ちゃんと全部隠して持って帰ったほうがいいんじゃねぇか」
そういうがいなや、お父さんは僕の手からピッコロさんの手をとって、僕の外套でぐるぐる巻きにしてしまった。布の塊をもう一度僕に持たせて、そろそろ帰るぞ、と先に歩いていってしまう。
僕はぐるぐる巻きにされたピッコロさんの大きな手を両手で抱えて、お父さんの背を追った。
そもそも持って帰って何をするとも考えていなかった。お母さんに、なんだそれ、中身見せろと要求されたけど、お父さんが仲裁に入って、僕はそれを持って自分の部屋に引っ込んだ。ピッコロさんの手を机の上に乗せて、そこでようやくどうするか迷った。
ピッコロさんに返すべきだろうかと思ったけれど、あの人のことだ。返されたってすぐ捨てるだろう。もしかしたら粉々に吹き飛ばしてしまうかもしれない。自分の手を破壊するって、どういう気分なんだろう。脱皮した自分の皮を壊す気分だろうか。どうでもいいのかもしれない。
でも、そんなことはすでに予想済みだったはずだ。僕は一体なんのために持ってきて、そしてどうするつもりだったんだろう。僕はピッコロさんの物言わぬ手と睨めっこしながら、ぼんやりしていた。
少しして、開けっ放しにしていた窓から虫が入り込んできた。大きなオニヤンマだ。迷い込んできたトンボは、ばちばちと大きな音を立てて壁にぶつかり天井にぶつかり、しばらく暴れまわっていたけれど、天井にぴたりとくっついて動かなくなった。僕はピッコロさんの手を見て、ようやく決めた。庭に埋めようと思った。
思ったら即行動、やることならばやるべきだ。僕はピッコロさんの手を抱えて、窓から外に出た。布に包んだまま、僕の部屋の真向かいの、柔らかい地面を一人で黙々と掘った。僕の体が丸ごと収まりそうな大きさの穴を掘ってから、僕はピッコロさんの手を埋めた。うん、これでいい、と僕は満足した。あんな、何も無い悲しい大地に、一人だけ取り残しておくなんて可哀相だからだ。
もう一度穴に土を戻した時に、お父さんが修行しに庭に出てきた。僕が地面に土を戻しているのを見つけて、一緒に土をのせてくれた。
僕がそれをぼーっと見ていると、何か思いついたのか、お父さんが一度家の中に戻って、何か棒を持って戻ってきた。お父さんはそれに、ピッコロの手の墓と書いて、土の上にさした。
「お母さんが嫌がりそう」
「チチは優しいから平気だろ」
くすくす笑ってしまうと、お父さんは真顔で言う。そう言うと、さっさとどこかに飛んで行ってしまった。
「そういうわけで、そこに花が咲き始めたんです」
「お前は俺の手が球根か種だったとでも言いたいのか?」
「いえ、でも色からして植物だとは思いますが」
僕が飄々と言ってみると、ピッコロさんはあからさまに不貞腐れたような顔をした。窓から見える庭に、まだお父さんが指したちんけな棒が刺さっていて、それを埋めつくすように紫色の花が咲いている。
「種明かしをすると、その後お墓を見つけたお母さんが気味悪がって、花の種を植えたんです。お母さんはどうやらその後何も生えないのを願っていたらしいんですけど、ご覧のとおりなわけですよ。ピッコロさんの手って栄養満点だったんですね」
「ふん、じゃあ数年前にとったお前のとった行動は正解だったわけだ。いい肥料になったな俺の手は」
「そうですねぇ、あそこで何も起こらず放置するぐらいだったら、正解だったんでしょうね。でももしもあそこに置いたままで、数年後に勝手に草木を生やしていたら、それこそ奇跡を起こせたんでしょうが」
「・・・お前まさか、本当に俺の手が肥料代わりになったとか思ってるんじゃないだろうな?そもそも俺の手はお前の外套に包まれてたんだろうが」
「そうでした。うっかりしてました。でも、夢があっていいと思うんですけどね。ピッコロさんの花畑と命名したいです」
「勝手にしろ、馬鹿野郎」
忌々しげに吐き捨てるピッコロさんの声に思わず笑ってしまった。
■超1×悟飯×ターレス×超2
本当のことを言うと、お前のためを思ってやってみたんだ。金色の鬣のような髪を逆立てた幼い子供は、皮肉気に口を歪ませて言った。両手に抱き上げる子供と、まったく同じ顔をしているものだから、思わず言葉を無くしてしまった。
大切に抱かれた子供は瞼を閉じて、浅い呼吸を繰り返している。体にはいたるところに痛々しい傷が刻まれていて、靴が脱げたせいでむき出しになっている足から、血が滴って墜落する。
「こいつが欲しかったんでしょう?」
そう言って強大な力を孕んだ子供はそのズタボロにされた自分自身を俺に差し出してきた。血の気を無くした幼い顔が、苦痛で歪んで小さく呻く。俺の腕の中に渡された子供の体は、想像していたよりもずっと軽かった。子供に背負われるべきである力や才能など微塵にも感じることのできないほどの、なんともあっさりとした、拍子抜けするような軽さだ。その時、悟飯、と悲鳴を上げて、どこからともなくやってきた金髪の子供が走り寄ってくる。
その子供は、眠っている子供、悟飯によりそっくりだ。丁度色だけを変えればその子供になるだろう。息を飲むような速さで俺に突進しようとする子供の腕を、いとも簡単に髪を逆立たせた子供が捕らえる。セカンド、と悲鳴が上がる。
「離して、悟飯が、悟飯がぁ!」
「駄目だよファースト。僕らは所詮偽物のガラクタだもの。本物にはけして手出しはできないのさ」
大粒の涙を溢れさせ、狂ったようにファーストは泣き叫ぶ。未発達の肉体をもって必死でもがき、小さな手を悟飯に伸ばす。寸前、触れそうで触れないところで、セカンドがそれを止める。悟飯を抱きかかえたまま、俺はそんな二人の化物染みた力を持つ子供を見る。
「悟飯、ターレス、お願い、悟飯をつれていかないで、つれていかないでよぉ!」
ファーストの泣き叫ぶ声がする。セカンドは薄く微笑んで、俺を見ていた。ぞっとするような情景だ。この二人の子供の命の根源である子供は、俺の手の中にあるというのに。セカンドは、どうぞ全てをお好きなように、とでも言うように、ただ笑っている。片手で滅茶苦茶に暴れるファーストの肉体を捕らえ、どうしたの、と俺に囁く。
「殺さないの?」
不思議なもので、俺は両腕に抱えた悟飯の体をぼんやり見下ろした。セカンドに痛めつけられたのだろう、命があるほうが不思議なほど、衰弱しきっている。繰り返される呼吸は苦しげだ。
「いらないの?」
ターレス、お願い、許して、許して、とファーストが泣きじゃくる。こういう風に素直に泣けば、歳相応なのに。俺はぼんやりとその姿を見ている。セカンドはただ憂鬱そうに微笑むだけで、それ以上俺に何も催促はしない。
「か弱くて可愛い悟飯が欲しいんでしょ?」
「そういう、わけじゃない」
「じゃあ、どういう意味なの?」
ふと気がつけば、俺の腕の中で眠っていたはずの悟飯が目を開けて、じっと俺を見ていた。自分の血で汚れた両手が伸ばされて、俺の顔に触れた。冷たい、血の通っているかどうか怪しい、それでも子供特有の柔らかい掌だ。そろそろと指の腹が俺の頬を撫でる。
「ターレス、今更、力ずくで手に入らないものでも、欲しいの?」
嘲笑するような声だった。弱く優しい悟飯は俺の手の内にあり、強く惨忍なセカンドは俺が届かない距離で、薄く微笑んだまま俺をじろりと監視している。ああ、そういうことか。俺は思わず笑いそうになってしまった。手に入るものなど一握りでしかないことはもう分かりきっているのに!今更気づいた間抜けな俺を察してか、セカンドは一際笑みを深くして、「なんて愚かな戦闘民族」と俺を嘲笑った。
悟飯→万人に平等に優しく弱い人間部分
超1→唯一の自己防衛する自分を優先する部分
超2→そもそも優しさってなんですか?僕の存在理由は敵を殲滅することですみたいなターレスにとっての憧れに値する強さと強者の塊みたいな部分 悟飯の才能