■ビー飯ビー
高い場所は空気も薄いし凍えるように寒い。ひゅんひゅん飛びまわる悟天くんを横目で見ながら、ようやく同じぐらいの高さまで昇って、ようやく周りを見回した。ジェットフライヤーの硝子越しに見る景色じゃなくて、こんな高さを自分で昇れるようになってからの達成感もついていたから、その景色は驚くほど綺麗に見える。
悟飯くんに空を飛ぶ方法を教えてもらって4日目、天気は上々、おまけに風も無い。空は驚くほど晴れ渡っていた。田舎なだけあって空気も美味しい。遠くを見れば灰色の山の天辺が白く輝いている。雪が積もっているのだ。ここはこんなにも暖かいのに。
「ビーデルさーん。大丈夫ですかー」
ぼんやりしていたら、段々高度が下がってきていたのだろう、悟飯くんが地面から手を振りながら心配そうな声を上げてきた。「大丈夫よこれくらい!」大声で叫び返せば、安心したようにその顔を悟天くんの方へ向けた。
悟飯くんは最初に私が来たとき、あからさまに嫌そうな顔したっていうのに、こういうところはやけに気に掛けてくる。きっと人を放っておけない性格なんだろう。グレートサイヤマンなんて変な格好して、わざわざ危険な所に自分から乗り込んでいくのだから相当だろう。私みたいに警察から頼まれるわけでもなくって、自分から自主的に事件に首を突っ込むのだ。
悟飯くんって、絶対おかしい。
「ビーデルさーん」
また悟飯くんが下から声を掛けてきたので、今度は何かと視線を巡らせば、そろそろお昼の時間のようで、悟天くんもいつの間にか地面に下りていた。私もすぐ気を抜かないようにゆっくりと降下する。悟飯くんの真似をして気を抜いてそのまま落下して、地面すれすれで浮く、みたいなことができれば早いんだろうけど、すぐそこに地面が迫っているのに落ち着いて集中することなんて私にはまだできなかった。
ようやく地面に足をつければ、さっきまで見下ろす形だった悟飯くんを見上げて、見上げる形だった悟天くんを見下ろす形になった。ぼくおなかすいたよー、と眉を顰めて不満の声を上げる悟天くんの頭を撫でながら、「じゃ、行きましょうか」と悟飯くんは彼らの家へと足を向けた。
「悟飯くんってさ」
「はい?」
「絶対、おかしいよね」
「え」
突然言われたことが理解できなくて不思議そうな顔をすると、みるみるうちに不安な顔になる。きっと何か私の癇に障ることでもしてしまったんだろうか、なんて考えてるんだ。
「褒めてるの」
「え?ど、どういう意味ですか?」
「ね、悟天くん、悟飯くん、おかしいよね」
一人でおろおろしている悟飯くんを一旦放っておいて、不思議そうな顔をしている悟天くんに聞けば、んー、とたっぷり考えて、「うん、おかしいよ」と言った。
きっと悟天くんが考えている悟飯くんのおかしいところと、私の考えるおかしいところはきっと違うものなんだろうけど、ええ、なんだよ、僕何かした?と狼狽する悟飯くんが可愛くて、少し笑えた。
「ビーデルさん」
「悟飯くん、可愛いね」
「お兄ちゃんかわいいよ!かっこいいけど」
「えええ」
なんなんだよう、と悟飯くんが情けない声をあげた。ヒーローがそんな声上げちゃ駄目だよ!私は堪えきれなくて、悟天くんとお腹を抱えて笑い出してしまった。
■ターレスvs悟空
ぎしり、と幹同士が擦りあって奇妙な音を立てた。異常な速さで成長を遂げる神聖樹はもはや植物の域を越え一つの生命体へと変貌を遂げている。その成長の早さのせいで己の身すら削り、抉りながらこの青く美しい星に根を張り続けていく。みしみしと奇声を上げて、巨大な化物かのようにこの星の生命を奪い続けているのだ。
乾燥した風をマントが孕んで翻る。ぎゃあぎゃあと喚き散らす鳥の群れも、いつの間にか姿を消した。この星を覆う植物からどこへ逃げるつもりなのだろう?小さな命が無様にも身悶える姿が滑稽で笑えた。遠くで小さく聞こえる戦闘の音も、きっとあっという間に消えてしまうことだけが寂しくてたまらない。生き物の躍動する音が、命を懸けて戦うその音が、俺達サイヤ人にとっての心臓の音だ。一つ戦いを終えるたびに命を削り、また生きる方法を探している。
「なぁ、お前はどうなんだ?」
辺境の土地でのうのうと生きたお前は。生きているか?サイヤ人として。
ゆっくりと頭を上げた自分と同じ顔をした男は、憮然とした面持ちで俺を見た。その目に映る色はただの怒り。単純で純粋な戦闘への渇望じゃないことが、この喜びに水を差す。
「そんな目で見るなよ・・・カカロット」
もっと喜ぶべきだろう?相手に拳が当たった瞬間を。相手を地に伏せさせた瞬間を。屈辱と憎しみに燃える目で見上げられる時間を。その怒りを。
「オラは・・・おめぇを許さねぇぞ・・・ターレス!」
「じゃあ喜べよ!この俺を許さないんだろうカカロット!俺に復讐することをもっと楽しむべきだ。サイヤ人はそうあるべきだぜ」
「うるせぇ!オラは地球人だ!」
「そうかよ・・・なら」
俺に向かって走り出したカカロットに合わせて一度後ろに跳躍し、その距離を保ったまま衝撃波で土煙を立たせる。乾燥した空気のせいで予想以上に弾幕代わりになった。スカウターが反射的にカカロットの居場所を教える。それと同時に、気孔波を打つ。
「このまま俺に殺されろ。ただの地球人としてな」
■シェル・シアターの後(派生悟空・カカ・3・4
「なんかフォーって父ちゃんみたいだなー」
「こんな親父嫌だけどな」
「俺だってお前らみたいなでかい子供いらねぇよ」
「そういう問題なのか?」
「フォーが父ちゃんならスリーが母ちゃんか!」
「悟空、それは流石に痛い」
「っていうか話を聞いてくれ」
「・・・スリーが嫁か」
「なんだその満更でも無さそうな顔は・・・よく考えろ。そして冷静になれフォー・・・手を広げて待ち受けるな!」
「スリーが一番母ちゃんに近いと思うんだけどなぁ」
「どういう点が?」
「髪が長い」
「眉ねぇぞ」
■6つのキスの味について
*超1飯と超2飯
最初は額に口付けた。キスってこういうのも言うんだろうか。手を握り合ったままだったから、嫌がってはいないみたいだ。
そのまま眉間に一回キスをして、次は左目の瞼の上に唇を押し付けた。薄い肉越しに、僕の眼球があるんだ。おんなじように、反対の目にもキスをした。下唇に睫毛が触れる。
次は鼻の先にキスをする。今度は右の頬から、左側の頬。「なんかの儀式みたいだ」僕が笑った。
最後に唇にキスをする。触れるだけのキス。でも、このときだけ何故か音がなった。ちゅっ、って小さく。「唇、切れてるよ」今更だけど、と真向かいの僕が微笑む。正面の僕の唇には、赤い僕の血がついてた。口紅みたいだ、と僕が笑うと、「血の味がする」って彼が唇をぺろりと舐めた。
*超3空と超4空
胸倉と髪の毛をつかまれて壁に押し付けられた。慌てて両手で壁を押さえつけるが、それよりも早く男が俺を壁に縫い付けた。足と足の間に男の片足が割り込んで、少し地面から浮かされる。何すんだこのやろ、と叫ぼうとすると、声ごと唇に噛みつかれた。がちっと歯と歯がぶつかりあうのも気にもしないで、男の舌が口の中に入ってくる。逃げるっていったって狭い口のなかでどこに逃げるって言うんだ。あっという間に俺の舌と男の舌が絡んだ。自分の口の中にあるものが、自分の意思と関係なく動き回るっていう事実が気持ち悪い。髪を引っ張られて上を向かされるから、強制的に開かれた口の端から唾液が零れた。息ができない!壁を押さえる手を離して、男の両手首をそれぞれ掴んだ。離してくれ、って絶対に伝わっているはずなのに、男はまったく気にしない。このやろう、このやろう!
ようやく口から男が離れた。ぼたぼたと唾液が自分の胴着の前部分を濡らした。できる限りの抗議を含めて睨みつけ、「何すんだ、」と吐き捨てれば、再び男が顔を俺に寄せて、口から顎に伝う涎をべろりと舐めた。
「愛を行動で表現しようかと」
馬鹿だ!今度は首に舌を這わせる男を心の中で叱咤すれば、「お前にも同じ馬鹿の血が流れてんだぜ」と男は笑った。畜生!
*ターレスと悟飯
あのビーデルって可愛い嫁さんにやるようにキスしてくれよ、とターレスは笑った。僕はそれを冷ややかに見下して、どうしてそんなことをする必要があるんだ?と問い返した。
お前みたいな最低な男が、どれだけ優しくキスができるか知りたいんだ、とターレスはゆるやかに口角を持ち上げて囁く。お前の知識欲を満たして、僕になんの得が?と言えば、ターレスは少し考えて言った。
「今度うちに来たときに、コーヒーぐらいだしてやるよ」
「インスタントな愛を天秤にかけるわけだ」
僕は肩を竦めて、ソファに寝転がるターレスの額に一度キスをする。そして父親にそっくりな顔をまっすぐに見て、顎にそっと手を添える。優しく、壊れ物でも扱うようにキスをして、そっと耳元に囁いてやった。
「愛してるよ、ビーデル」
「・・・そりゃねぇだろ」
約束は約束だろう、と僕は笑った。
*ターレスと悟空
いつもどおりに片手を上げて、よう、なんて挨拶してくるから腹が立った。なんてったって一度は殺しあった仲だってぇのに!丁度真横を通り過ぎる瞬間に、その肩を掴んでカカロットの唇に自分の唇を押し付ける。乾燥した唇は皮がささくれ立っていたから、素早くそれに歯を立てて、一気に引いた。いってぇ!と悲鳴を上げたカカロットから身を離しながら、奪ったその薄皮を口に含んで、そのまま飲み込んだ。
「何すんだターレス!って血がでてんじゃねぇか!」
口に手を当てて、そのぬめり具合に気が付いたのか抑えた手を確認すると指先が真っ赤に染まっていた。赤い血液の玉が唇にぽつりと立っていたから、「痛そうだな、舐めてやろうか」と言うと「うっせぇおめぇなんか知るか!」と叫ばれて、あっという間に居なくなってしまった。
*ビーデルと悟飯
あ、と彼女の口から小さな悲鳴が零れた。泡だて器についたクリームを指で掬って彼女に食べさせたのだ。美味しい?と聞くと、うん、と大きく頷かれる。
「悟飯くん、料理もできるんだ」
「そんな本格的なのはできないけど。料理の本があれば、それなりにはね」
お母さんには全然敵わないよ、と言えば、でも、少なくともあたしより上手いわ、とビーデルさんは笑った。
「甘さひかえめって、これぐらいでいいの?あたしは別にいいんだけど」
「うーん、ビーデルさんが美味しいと思うなら、いいんじゃない」
「味見してみたら?」
それもそうか、って思ったから少しだけクリームのついたビーデルさんの指をぺろりと舐めた。
「え」
「うん、丁度いいんじゃない?」
「っ、え、あ、う、そ、そう」
ビーデルさんはぎくしゃくしながらオーブンに視線をうつした。少し、大胆すぎただろうか。お父さんはよくお母さんにやるんだけれど。普通の恋人同士って、難しいな、と料理の本を眺めながら僕は思った。
*悟空とカカロット
掌に唇を押し付けた。こいつの手は男らしい、ごつごつとした作りだと思っていたけれど、直接唇を触れさせると、その皮膚が厚いことに気が付いた。さっきから手を観察していたけれど、実際に触れてみるとやっぱり新しい発見がある。悟空のやつは滅茶苦茶驚いていたが、別に減るもんじゃねぇだろ、と思って無視した。薬指にもう一度触れるようにキスすると、ようやく声がかかった。「なにしてんだ、カカロット」「キス」一言答えて、その掌に額を押し付ける。傍目からみるとどう見えるんだろうか。祈っているように見えるかもしれないし、縋っているように見えるかもしれない。どっちでも構わない。
実際俺はこいつに縋っているようなものだし。堪えきれないように悟空が再び声を上げた。「カカロット」
「なんだよ」
「くすぐったいぞ」
「これぐらい許せよ。お前の手が好きなんだ」
「なんだよー我侭だな。じゃあオラにもお前の手、貸せよ」
オラだって、お前の手好きだ、とカカロットは言った。ああ、まったく似たもん同士。何度この手に救われただろう。