■そして気付かない内に生まれたここのつ
結局悟空とカカロットは太陽が昇り始めた頃にこっそりと帰って来た。自分自身の気に気づかぬはずもなく、リビングにはサードとフォースが待っており、二人の少し前に帰宅したらしいセカンドが、ぼろぼろの格好のまま椅子に座ってしょぼくれていた。満身創痍の3人がテーブルに座ってから、フォースが懐から仙豆を3粒取り出し、テーブルにころり、と置く。テーブルを挟んで向こうにいる三人が手を伸ばして取ろうとしたら最後、フォースの手がそれを叩き潰すだろう。
「言わなきゃいけねぇことは分かるな?」
高圧的な物言いだが今更それを咎められるはずもない。三人は縋るようにフォースの横に座るサードを見やったが、彼はさっと眼を逸らすだけだった。
「オラは別に何もしてねぇと思うんだけどよ、ぉ・・・」
「あ?」
悟空がおそるおそる、と口を開くと、明らかにいらついているようなフォースの目がぎらりと向けられる。口を閉ざしてさっと目を逸らすがもう遅い、フォースはのそりと立ち上がり、「そんなぼろぼろの状態でカカロット連れて逃亡してこんな時間に帰ってくるのが全然、何も、悪くねぇとでも言うのか? 悟空」と優しげな声音で笑った。太い尾がぬるりと蠢いて悟空の頭をぺしぺしと叩く。痛くはないのだが怖くて仕方が無かった。
彼なりに心配していたのだろうから、きっと隣で口を閉ざす男も無言でいるのだろうが、この状態の纏め役をフォースにしたという時点で失敗だ。サードもそれに気づいてはいるのだろうが、今更口を挟むのが億劫らしい。というかよく見ると眠そうである。どうせ家で二人でしけこんでたんだろ、とカカロットは心の中で詰った。
「何か言いたいことがあるみてぇだなバカロット」
「ぐぅっ・・・」
フォースはテーブルに転がった仙豆を一粒抓み上げ、ぐ、と潰すように握りこんだ。慌てて手を伸ばそうとするが、腕を上げるだけで激痛が奔る。目の前の男にタコ殴りにされた痛みが骨まで響いた。カカロットはテーブルにつっぷして嗚咽を噛み締める。ちくじょお、と唸ってもフォースはふん、と鼻を鳴らすだけだった。
「今回の一件は全部僕のせいです、お父さん、本当にすみませんでした」
すると、すっ、と今まで黙っていたセカンドが頭を下げた。
「勝手な独断で動いて、お父さんたち皆に迷惑をかける結果になってしまって、本当に反省してます。全部僕の手だけで終わらせるつもりだったんです。カカロット父さんの役に立ちたくて、それに、お父さんを悲しませたくなかっただけで・・・。サード父さんにも、フォース父さんの手も煩わせずに済ませたくて・・・ずっとお父さんの世話になってきた僕だから、こういう時ぐらいは恩返しにもならないだろうけど、・・・手伝いたくて・・・」
「セカンド・・・」
セルとの戦いから生まれた超サイヤ人2の悟飯である彼は確かに、昔から続く父親への罪悪感があった。多くの己の失態のせいで迷惑をかけ続けてしまった落ち度。偉大な父親の邪魔になり続けた己の存在を、何度恨んだのだろう。今回のこの一件でただ父の役に立ちたかったとセカンドは言い、四人に頭を下げた。
「本当に、すみませんでした・・・」
「気にするなよセカンド! お前は俺達のためにただ頑張ってくれただけじゃねぇか・・・俺が暴走しちまったせいで、お前を巻き込んじまって」
がた、とカカロットが立ち上がりセカンドの肩を抱きしめる。フォースは感情に流されやすいカカロットを胡乱な目で見ていたが、まぁいいか、と一粒、セカンドに投げ渡した。
「反省してるんならいい。セカンド、あまり考え込むなよ」
「あ、ありがとうございます。・・・本当にごめんなさい」
セカンドは手にした仙豆を両手で大切に持ち、リビングから出る。しばらく沈黙が落ちると、廊下の向こうからハイタッチの音が聞こえた。気配から察するにセカンドとファーストだろう。まさか先ほどのは演技・・・などという怖ろしいことを四人は思ったが、息子を信頼してドアを開けて確認することはやめた。一筋縄でいかないのが超2悟飯である。
「で、お前は何も学習しなかったのか」
フォースはそう言ってじとり、とカカロットを睨みつける。じり、と居住まいを正し、俺は、とカカロットは呻いた。どうすりゃいいかわかんねぇよ、と小さな声が零れ落ちた。カカロットは渋面をつくり、隣に座る悟空をちらり、と盗み見る。
「気持ちには、一応、整理はつけれたんだ。でも俺はやっぱりサイヤ人でしかねぇし、俺達の中でも1番サイヤ人らしくなっちまってる。これからこんなことがねぇなんて俺にはどうしても言い切れねぇ。だから」
「お前は本当に馬鹿だよな」
フォースはカカロットの言葉を溜息混じりに一笑する。隣で話を聞いていたサードが、「お前っていうか俺ら全員頭は悪いけどな」と横槍を入れる。悟空とカカロットがきょと、と二人を見ると、フォースはこつこつとテーブルを指先で叩きながら首を傾けた。呆れかえっているようだ。こき、と首を鳴らす。
「なんで暴れたくなったら止めてくれって頼まねぇんだよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・あ、そっか」
こういう時分離してると便利だな、とサードは肩を竦めて言う。悟空は手を打ち、カカロットは目を丸くして固まった。当たり前すぎてまったく考えが及ばなかった。
「暴れたくなったら稽古ついでにストレス発散でもすりゃいいだろ」
「そりゃそうだな! じゃあ」
「待てコラ」
悟空がなーんだ、とでも言うようにのんびり仙豆へ手を伸ばす。それを宙でべしりと叩き落とし、フォースは再び目を光らせた。
「言うこと言ってねーだろ」
「・・・・・・」
じんじんと痛む手を掴み、悟空はわりぃわりぃ、と頭を掻いた。親が子供を叱る図だ、とサードは心の中だけで思う。しかし1番遅く生まれたフォースが父親のようだというのは不思議なものだと思う。老成した状態で生まれたからだろうか?
悟空が本当に、悪かった、と言うと、あっさりフォースは仙豆を投げ渡した。カカロットはそれでも不貞腐れたようにむすっとして、フォースを睨むだけだ。謝らなきゃやんねーぞ、とフォースは手の中で豆を転がす。遅すぎる躾けだ、とサードは思った。
「カカ」
すると、悟空がぐいっとカカロットの頭を掴んで、己のほうに向けさせた。え、と開いた口の中に仙豆を放り込む。あ、と三人が目を丸くするうちに、カカロットの怪我がぱっと煙のように消えてしまった。
「オラはそんなひでぇ怪我してねぇし、別にいーよ」
「悟空お前なぁ!」
フォースが怒って声を荒げるが、わりぃなフォース、と悟空はぱっと立ち上がり部屋から出て行ってしまった。カカロットもそれを追うように立ち上がり、しかしフォースにずいっと手を差し出した。
「・・・・・・なんだ」
「仙豆。悟空に食わせる」
「・・・・・・」
フォースはじとりと睨んだが、結局ぽい、とそれを投げた。それを難なく掴み取り、カカロットは扉を開けて悟空の背を追う。扉が閉まる寸前、悪かった、とカカロットの消え入るような声が聞こえて、閉まった。サードはくくっ、と肩を震わして笑い、フォースはガキが、と苦虫を噛み潰したように吐き捨てる。どいつもこいつも甘いものだ。
いらねぇんだけどなぁ、と悟空は言ったが、キスして食わせてやろうか、とカカロットが言うと慌ててその手に齧りついた。悟空がチチの待つ家に帰ろうとすると、それを引きとめ、カカロットがその身体を近くの林の中に引っ張り込む。悟空、とカカロットは甘えるように名をよんで、その肩に額を押し付けた。と、思えばすぐに身を離す。伺うようにカカロットは悟空を見て、じゃあ、と言葉を選ぶように一度口を閉ざす。
「じゃあまた」
自分自身に別れの言葉とはおかしなものだ、と悟空は思い、うわはは、と大笑いした。びくっと目を丸くするカカロットの唇を掠めるようにしてキスをして、じゃーな、と笑った。握っていた手が離れ、悟空はただいま、と家に帰る。その背を見送りながら、カカロットは手に残る悟空の熱を強く握った。
そうだ、クリリンに会いに行こう。そうして今度は謝るのではなくて、感謝を伝えに行こう。お前と親友で良かったと、それを今すぐに言いたくなって、カカロットは踵を返した。
2010/10・20