■いつか消える二度と変わらないむっつ



 ついにカカロットの動きが停止した。体をくの字に折り曲げ、口から血液を垂らしながら、空中で蹲っている。口元だけが、未だに笑みの形を作っていた。
 「へ、へへへ・・・」
 「頭に上った血でも取ってやろうか?あ?」
 フォースはつまらなさそうにそう呟き、カカロットの頭部を鷲づかみにする。何がどのような理由であろうと、悟空に手をだしたことは万死に値する。あと一発。フォースが空いた手に光弾を浮かべれば、カカロットの片手が弱い力でフォースの服を掴んだ。
 まだ抵抗する力が残っていたのかと内心驚いていると、ぼそぼそと、カカロットの口から小さな呟きが零れた。
 「なんだ。聴こえねぇよ」
 「・・・お前はいいよな」
 「はぁ?」
 ついに会話も成立できなくなったかと思っていると、カカロットはそんなフォースの反応も気に留めず、理解の追いつけない言葉を続けて発した。
 「・・・悟空は、・・・おれと、ちがう」
 「何言ってるかわかんねぇよ」
 膨らんだ気弾をカカロットの頭へ押し付けるようにすると、また小さくカカロットは笑う。
 「おめぇはどうなんだよ・・・?」
 「俺はてめぇみてぇに自分の感情を制御できないような馬鹿じゃねぇ」
 その言葉を引き金にして、フォースの気弾がカカロットの頭部を襲い、パン、と高い弾ける音と、カカロットの血が空中に舞った。
 舞空術を使えなくなったカカロットの体は、落ち葉のようにくるりと傾いで、そのまま頭から地面に吸い込まれていく。受身を取ることもできないだろう。カカロットの目は瞑られ、その体が動く気配はない。
 「カカっ・・・!」
 悟空が名前を呼ぶより先に、サードが墜落したカカロットの体を受け止めるために真下へ奔る。血塗れのカカロットの体に衝撃を与えないように慎重に受け止め、その傷の深さに絶句した。カカロットの体は焼け焦げ、その上から衝撃を与えられたせいで体のあちこちの肉がこそげ落ちている。削られたかのように肉が露出し、ぶしゅ、と血が吹き出た。胴衣は赤く染まり、既に黒く変色しはじめている。片腕が痙攣を起こしていた。
 その背後に、音も無くフォースが降りてくる。ぎくりと体を強張らせたサードが振り向けば、両腕を組み、冷たい目をしたフォースがサードの腕に抱かれたカカロットを見下していた。
 「カ、カカロット・・・!?」
 遅れて追いついた悟空がサードの腕のなかに倒れている満身創痍のカカロットの状態を見て言葉を無くす。サードは悟空にカカロットを預け、フォースを睨みつけながら立ち上がった。
 「やりすぎだろ」
 「そうは思わねぇが」
 「死に掛けてるだろうが! お前、まさか、殺す気じゃなかっただろうな」
 真っ直ぐに睨みつけてくるサードの目を見返し、フォースは小さく微笑む。
 「まさか」
 肩を竦めて言うフォースに、まったく反省の色は伺えない。その上、サードの服にべったりと付着したカカロットの血を見て、フォースは不満げに目を細めた。
 「汚ぇ猿の血だ」
 「俺たちに流れているものと同じだ」
 「カカロットは違う」
 吐き捨てるようにフォースは笑う。
 「お前は悟空が強くなろうとして努力した結果生まれた、力の昇華した形だ。俺だって、仲間を守るために生まれた。だがカカロットは違う。カカロットは敵を憎む気持ちから生まれた生き物だ。サイヤ人の業だ」
 「だからって否定できるもんじゃねぇだろうが! 俺もお前もカカロットから生まれたようなもんだろ・・・」
 二人は睨みあい、いつの間にか間合いを計り始めている。じゃり、と焼けた大地を踏みしめて、サードがそっと背後の悟空に囁く。
 「カカロットを連れて家に帰ってろ。手当てをしねぇと」
 「あ、お、おう・・・」
 呆然とそれを見ていた悟空は、カカロットを担ぎなおし、指を自分の額に当てた。次の瞬間、悟空とカカロットはその場から掻き消え、気配も遠くに飛んだ。
 瞬間移動で消えた悟空たちを追いもしないフォースに肩透かしを食らった気分で、サードは目の前を男を静かに見やる。フォースはサードを見つめたまま、そっと溜息を吐くように笑った。
 「おめぇは優しいな」
 「優しくねぇよ。・・・俺が優しいと言うんなら、おめぇも、カカロットも、悟空も優しいはずだ」
 「おめぇは優しいよ」
 一度、フォースは大きく溜息を吐き、そして拳を握り締める。次の瞬間には再びフォースの気が強く燃え上がり、地面をあっという間に燃やし尽くす。大地の焦げる匂いから逃れるように大きくサードは身を引いて、そしてそのまま目の前の男へ向けて気弾を投げつける。空気がその強さに負けて悲鳴を上げた。遠くで夕日が大地を赤々と照らしている。






 ぱち、と軽い音が立つと、船の中は一気に明るくなった。扉が開くと自動的に灯りが点くシステムになっている。ターレスはセカンドを抱き上げたまま自分の気に入っている柔らかいソファに座り、膝の上にセカンドを乗せてその身体を自分に凭れ掛けさせる。少しでも調子に乗った行動をとるとすぐに制裁を与えようとする男は何もしないままターレスに体重を預けた。
 仙豆を取って来いか、メディカルカプセルに入れろと命令されるかと思ったが、セカンドはじっと動かないままだ。寝ているというわけでもなく、ぼんやりと目を開いたまま静かにターレスの心臓の音を聞いているように見える。
 部屋の中には時計が無かったので、室内はまったくの無音だ。しばらく動かないでいると、すっとまた電気が消えた。中に入った人間がまったく動かないでいると勝手に消えるのだ。天窓から差し込む日の灯りがじわりと室内を照らすが、既に薄暗くなってきた中、視界は既にあまりよくない。サイヤ人という人間よりも遙かに優れた生き物であるが故に、夜目にもきくが、セカンドの陰になっている顔はよく見えなかった。
 ふと、まるで策も下心も無く、ターレスはセカンドの頭を撫でた。汗をかいていたせいか、髪の間に指を滑り込ませるとじとりと濡れていた。それでも気にせず、まるで犬の毛の調子でも測るようにゆっくりとその頭を撫でる。逆立った髪の毛がぺたりと張り付く。気持ち悪いとその手を払いのけもせず、セカンドはそれでもじっとして動かない。
 いつの間にか時間が過ぎて、部屋の中は真っ暗になった。月明かりで薄ぼんやりと室内が照らされる。
 「・・・頭撫でるの上手くなったね」
 「そうか? 自分じゃ分からんな」
 「うん、気持ちいい」
 思えば、ターレスが悟飯と接触を始めた頃は、よく力加減を間違えてすぐに怒られていた。ぐしゃぐしゃになった髪を抑えて、よく喚いたものだ。
 父親のものとは違う手が、ぎこちない動きでセカンドの頭を撫でる。子供をあやすような掌は人を殺めるという行為を止めてから久しい。ターレスの心臓の音をぼんやりと聞いていると、体中の痛む場所が和らいでいくような錯覚に陥って、ふと、笑った。
 「ああ、やっぱりお父さんは強いなぁ・・・」
 「そりゃあな。お前の父親だしな」
 「こういう時って他の男の話はするなとか、言うものじゃないの」
 「そういうのはお前に関しては諦めてる」
 失笑するように呟いて、ターレスは満足そうに目を細めた。緩く弧を描く唇を見上げて、は、とセカンドは鼻で笑った。全て力任せで事を済ませようとしていた男が、いったいいつからこんな風になってしまったのだろう。
 「ターレス、成長したのかな? それとも老けただけ?」
 「どっちかと言われれば、そうだな」
 考えるように言葉を切って、ターレスは恭しくセカンドの頭に唇を押し付けた。子供をあやす大人のような仕草で、セカンドはその行為に父親の影を見る。
 「お前に流されることに抵抗がなくなってきたんだよ」
2009/10・12


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