■人畜非道☆カメレオン




 なんといっても致命傷を与えた後に、少しでも生き長らえたくて悶えて嗚咽を上げる姿を見るのが、たまらなく楽しい。
 絞り込んだ気のエネルギーを指からちょっと飛び出させると、真っ直ぐ飛んでったそれは心臓からちょっと離れて肺を貫通する。片方の肺を潰して、今度は反対側。心臓を挟んで両側に小さな穴を開けて、人間は一度泣き喚く。喉から出てくる血でげふげふと咳き込んで、痰が絡むせいで息ができなくなって、ぜひぜひと引き攣った呼吸を繰り返す。そこまでいったのを確認してから、俺達は違う人間を標的にする。それを繰り返していると、蛙の合唱みたいに、そこの辺り一面からぜひぜひと苦しそうな呼吸音が聞こえてくる。なんて耳障りなBGM。歌声には程遠い。指揮棒を振って、少しずれてる奴らの頭を踏み潰そう、と俺は考えた。
 それなのに、18号は煩い、って一度呟いて、あっという間にそこの片っ端から人間の頭をぱんぱんと潰していく。はじけ飛んだ肉片が雨みたいに散らかって、子供を抱え込んで呼吸を繰り返す女が引き攣った顔をした。
 「散らかしたら掃除しなきゃな!」
 怒られる前に母親のような女を踏み殺す。ぱかりと開いた脳髄から脳漿が垂れ流しになっている。腕に抱かれたままの赤ん坊をつまみあげると、ひぎゃあ、なんて引き攣った変な声を上げた。
 「赤ん坊だ」
 「可愛いねぇ」
 「抱く?」
 「抱く」
 18号に手渡すと、彼女は赤ん坊を胸に抱いて、そのままぐしゃりと抱き潰した。体の骨という骨がひん曲がって、小さな肉塊に早変わり。気持ち悪い、って18号はそれを投げ飛ばす。大きくとんで特大ホームラン。バッターじゃないけれど、遠くの白いビルにぶち当たって小さな赤い水溜りを作った。壁に垂直に、だけど。
 「ねぇ、17号」
 18号は可愛く笑う。弟の自分の目から見て、贔屓目が入ってるわけじゃないと思う。俺達兄弟はやけに目つきが悪かったけど、18号は睫毛が長い。艶やかに微笑むとまるっきり美少女だ。
 「ねぇ、これ、楽しいと思う?」
 「あんまり」
 ナンセンス!18号は哄笑して、俺の頭を優しく撫でた。これが母性って奴だろうか。俺達のお母さんはいったいどこに行ったんだろう。ああ、偉大なDr,ゲロさま!死ぬ前に俺達のお母さんがどうなったのかぐらい教えてくれたってよかっただろうに。ありきたりなドラマじゃ、人畜非道な殺人者だって、最終的には人間の心に揺り動かされて自滅するもんだろ?
 あえて言うなら自滅がしてみたい!もちろん俺達の心臓に巣食うダサい爆弾なんかじゃなくて、もっと恋とか愛とかそういう人間っぽい面倒くさいもので!
 「人を殺すより可愛い洋服を着てダンスパーティにでも行ってみたいよ」
 優しい姐さんはどうやら思っていたより夢見がちらしい。ダンスホールでステップ踏んで、それでも結局俺達がするのは人殺しだ!手を組んだ相手の手を握りつぶすの?俺が笑うと彼女も笑う。
 「あたしたちのこと化物って言って拳銃でも握るような手なんて、いらないと思わない?」
 「それは名案だ!」
 手を無くした人間なら、少しはダンスしてやってもいいと思った。それが可愛い女だったら、キスだってしてやってもいい。
 「浮気もの!」
 「全ての女性に優しいものさ、男ってのは」
 「惚れちゃうね。あたし以外見たら許さないけど」
 白々しい応酬に笑いが零れた。いつの間にか、ぜひぜひと煩い人間の声は止んでいる。どうやら歌いつかれたらしい。俺達は適当に見つけた車の中から死体を引き摺り降ろして、エンジンをかけた。運転席に俺、助手席に18号。
 「どこ行く?」
 「あんたとならどこまでも」
 「良い台詞だ!」
 赤い空が俺達を待ってる!ラジオをつけてみるとどこ行ってもざりざりと煩い砂嵐の音だ。ぱちん、と音を切ると、気分が良いのか18号が何か歌いだした。
 「それ、何?」
 「覚えてない」
 人間だった頃の記憶なんてどうだっていいみたいだ。なんてったって俺達は今は人造人間。心臓に爆弾積んだ兵器でしかないんだから。
 「そのまま歌って」
 ごろごろ転がる人間を踏みつけて、俺達の華やかな凱旋。地に伏せる人間だったものの生白い手が俺達を見送っている。空は驚くぐらい快晴。なんて美しく優しく滑らかで、つまらない世界!
2009/4・29


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