■子供と大人
この人達は一体僕を挟んで何をやってるんだろう。
僕はいい加減耐えられなくなって、悟飯から貸してもらった文庫本から視線を外してそれを閉じた。僕の両肩には悟空お父さんの大きな手が乗せられている。僕が無意識のうちに懐いている超サイヤ人3のお父さんの手より少しだけ柔らかい気がした。多分、雰囲気だけだと思うけど。もちろんあのお父さんの両手が僕の両肩に乗ったことなんてない。お父さんにべたべたするのが気恥ずかしいから、僕の定位置は基本的にあのお父さんの背中だ。あの人の背中に背中を預けて、あの金色の髪の中に蹲るのが小さいころから大のお気に入りだった。正面から抱きしめてもらったことはもちろんあるけど、恥ずかしくてよく覚えてない。あのお父さんの手は簡単に言い表せれば「戦う手」だった。きっと僕を撫でることより、敵を殴ることの方に慣れてるに違いない。
でも、悟空お父さんの手は何かを包むためにできたような手だと思った。肩に乗せられてるだけで、じんわりと守られてる気がする。少しだけ、悟飯が羨ましく感じる。
で、まぁ今はそんなお父さん達の手について細かく説明する場面じゃないんだけど。
ちなみに、悟空お父さんは僕のすぐ後ろに少し屈んでいる格好で立ってる。で、両手を僕の両肩に乗せて、ずいっと僕を前に押し出してる状態だ。そして僕の正面に仁王立ちしてるのはカカロットお父さん。悟空お父さんが超サイヤ人になった姿の一段階目の格好の人だ。
「悟空、息子を盾にすんじゃねぇよ!今本読んでただろ!邪魔になるとチチに怒られっぞ」
「じゃあカカがどっかいけよ!」
なんだか、喧嘩してるみたいだ。理由はもちろん分からない。リビングで本を読んでたら突然悟空お父さんがやってきて、僕にちょっと盾になってくれ!って頼まれたと思ったら、ずっとさっきのままだったって訳。
カカロットお父さんはじっと僕を見た。カカロットお父さんはちょっと僕のことを苦手に思ってる。とある戦いの時に僕が少し興奮状態にあったとき、お父さんの命令を鼻で笑って無視したからだ。それ以来、多分僕に嫌われてると思ってる。
もちろん、僕はカカロットお父さんのことは嫌いじゃない。っていうか、僕はお父さんが大好きだ。どのお父さんでも。お父さん達は、悟飯も、あの白い僕も、僕のことも大切に思ってる。ものすごく甘やかしてくれる。でも、カカロットお父さんは前に僕に嫌われたと思ってから僕の対処に困ってるみたいだ。今カカロットお父さんに命令されたらそのことは素直に聞くつもりなんだけど、多分、カカロットお父さんはこれ以上僕に嫌われたくないみたいで。
「な、悟飯。頼むから悟空をこっちに引き渡してくんねぇか?」
「悟飯っ!駄目だっ!オラを裏切んのか!?」
二人のお父さんからの頼みに、僕は内心本当に困っていた。お父さんに優劣なんてつけられない。(まぁ、実際あの四人のお父さんから何か言われたらとりあえず優先するのは超化3段階目のお父さんだけど)(これは純粋に、僕があの人のことを気に入ってるから)(一緒にいる時間もあの人が一番長いし)でも悟空お父さんとカカロットお父さんとなると、どうすればいいかまったく分からない。ここに今あのお父さんがやってきて、「悟空を優先しろ」か「カカロットを優先しろ」か、一言言ってくれれば動けるんだけど。
でも、お父さんが上の部屋で眠っているのを僕は知っていた。っていうかお父さんが寝てるのに邪魔にならないようにわざわざこの部屋で本を読んでたんだから。
「あのう、喧嘩してるんですか?とりあえず悟空お父さんを引き渡さなきゃいけない理由ってなんですか?」
とりあえず、手を上げて進言してみる。そうすると、悟空お父さんが涙声で言った。
「カカの奴が悟飯がオラにくれたお菓子食っちまったんだ!」
「だから謝ってんじゃねぇか!なんで逃げるんだよ!」
「おめぇが追っかけてくっからだろ!」
内容はほぼ予想の範囲内だった。同一人物であるせいか、僕らも含めてお父さん達は異常に仲がいい。多分、仲直りするとか言ってカカロットお父さんが悟空お父さんに何かしようとしたんだろう。僕は少し考えて、とりあえず悟空お父さんに味方しようと決めた。別に引き渡してもいいと思ったけど、(仲直りするのには僕だって賛成だ)僕のイタズラ心が擽られている。つまるところ、少しカカロットお父さんをからかってみたくなった、ってこと。
「それは、カカロットお父さんが悪いです」
「ほらなぁ!」
「ぐっ・・・ご、悟飯・・・」
カカロットお父さんは情けない顔で僕を見て、そして悟空お父さんに目をやった。悟空お父さんは僕を盾にしたまま、やーいやーいと子供みたいに笑っていた。こういうところはお父さんのくせに可愛いと思う。いつか精神年齢とか図ってみたい。
「こうなったら力ずくでいくぞ・・・?」
カカロットお父さんがすっと背筋を伸ばして言った。超化2段階目になるかもしれない。僕は少し構えて、ちょっと嘲笑うように笑った。悟飯たちによく「怖い」って言われる笑い方だ。
「どうぞ?僕から悟空お父さんを取れると思いますか?」
ちなみに、僕とカカロットお父さんの実力はほぼ拮抗してる。僕が切れたら多分僕が勝つだろうけど。悟空お父さんが逃げる時間ぐらいは簡単に稼げるってわけだ。僕が前方にばちばちっと普段抑えてる気を発散させると、カカロットお父さんは少し涙目になった。
「・・・悟飯、・・・あのよ、おめぇ、俺のこと嫌いか?」
おっと、直球。悟空お父さんを奪うってことよりも僕に嫌われてるかもしれないって方に意識が飛んでるみたいだ。なんか、僕が今冗談ででも「大嫌いです」なんて言ったら後ろに隠れてる悟空お父さんまで泣いてしまいそうだ。
・・・・・・・・・・・・・いや、別に、ちょっと泣かせてみたいとか考えてないよ。
「・・・・・・さぁ、どう思います?」
僕がにこって笑って言うと、カカロットお父さんは顔を青くして固まってしまった。これでもショックが大きかったみたいだ。流石に泣きはしないけど、お父さん可愛いなぁ。口元がにやけてしまいそうだった。
さて、これからどうしよう?悟空お父さんをかけてカカロットお父さんと真剣勝負、ってのも有りだと思ったけど、カカロットお父さんの傷つき具合を見るからに無理そうだ。今軽く殴ったらもうどこまでも吹っ飛んでいきそう。すると突然、両肩に乗せられていた悟空お父さんの手が消えた。あれ?と思って振り向けば、超サイヤ人4のお父さんが悟空お父さんを抱き上げていた。片腕で悟空お父さんを担ぎ上げて、空いた片方の手で僕の頭をぐしゃっと掴む。痛い。
「あんまりカカロット苛めるなよ、悟飯」
「だってカカロットお父さん、すぐ信じるから」
くすくすと笑うと、赤いお父さんは困った顔をしてしゃがみこんだ。赤いお父さんはしゃがみこんで少し屈まないと僕と同じ視線に合わない。それなのに赤いお父さんはわざわざつらい体勢になっても僕たちと目を合わせて喋ってくれる。そこが好きだった。
「俺達はお前らと違って頭がよくねぇんだ。あまり遊ばないでやってくれ」
「貴方も傷つくんですか?」
「当たり前だろ。息子に嫌われて喜ぶ父親なんかいねぇよ」
よく見ると赤いお父さんに担がれてる悟空お父さんも微妙な顔で僕の顔を伺っていた。カカロットお父さんに向けた攻撃が予想してなかった方にもきてたみたいだ。僕は突然申し訳ないような気分に襲われて、カカロットお父さんの方に向けて言った。カカロットお父さんはびくって一度体を強張らせて僕を見た。
「僕、お父さん達のこと大好きですよ」
カカロットお父さんはきょとん、って目を見開いて、そしてすぐに気が抜けたようにへにゃ、って顔になった。そっか、ありがとう、って久しぶりにカカロットお父さんが僕に向けて嬉しそうな笑みを浮かべて、困った顔もいいけど、やっぱりお父さんには嬉しそうな顔のほうがいいなぁ、って思った。
赤いお父さんからようやく開放された悟空お父さんがにこにこ笑ってたけど、はっ、って気がついて突然走りだした。一瞬遅れてカカロットお父さんも走り出す。おらあああ、待てこのやろぉおおお、ってさっきまでの繰り返しに戻ってしまった。
僕は一度赤いお父さんを見た。僕がいたのは部屋の壁の方で、後ろのほうには二階に向かう階段しかない。つまり赤いお父さんは二階から来たわけだ。僕はとりあえず保険をかけて、すぐにあのお父さんに会いに行きたい気持ちを抑えて、持っていた文庫本を広げて、もう一回ソファに座った。
「なんだ、あいつの所いかねぇのか?多分もう起きてるぜ」
「僕は今機嫌がいいので、お父さんを思いやる気持ちもあるわけです」
実際赤いお父さんがあのお父さんに何かしたかっていう確証はないけど、悟空お父さんとカカロットお父さんが騒いでるのに降りてこないのはおかしい。しかも、気配に敏感なお父さんが、僕が少しでも気を発したのに来ないのも、おかしい。(こういっては何だけど、僕は悟飯の中では性格が悪い、というか性格が歪んでいる、というか。少し扱いづらい性格をしている。強さも悟空お父さんやカカロットお父さんにも止められないから、ずっと超サイヤ人3のお父さんが僕の面倒をみてくれた。だからあの人は特に僕の気に敏感なのだ)
考えられるところとしては何かがあってここへ来れない、来たくない、ってこと。おそらく原因は僕を見下ろしているこの赤いお父さんだ。この人がやけに僕のお父さんにちょっかいを出しているのは先刻ご承知である。しばらく僕を見ていた赤いお父さんは、バツが悪そうな表情で、どさりと僕の隣に座った。やれやれ、っていう声がさっきの悟空お父さんたちとは別人のような、男の大人の人の声で、僕はそのギャップに少し噴出してしまった。どうやらドンぴしゃり、だったみたい。今僕がわざとあのお父さんの元に行ったら、もしかしたら泣いてる姿が見れるかもしれない。あの人は僕に弱弱しいところを見られるのを一番嫌がるんだ。
「気づくもんかね?」
「さっき貴方が言ったんじゃないですか。僕らが頭いいって。僕がひいきしてるお父さんが貴方に例え何やられたって、僕はお父さん達が大好きなのでなぁんも、言いませんよ。お父さん」
お父さん、を強調して言うと、この地球で最強の位置にいるこの人は、さっきのカカロットお父さんみたいな顔をして僕を見た。僕は堪えられなくなってくすくすと声を上げて笑ってしまう。
ああ、お父さんたちったら、かわいいなぁ!
2009/4・4