■シェル・シアター
人の命が消える瞬間を覚えているか、とカカロットは笑った。
部屋を暗くして映画を見ていた。ブルマからこの間寄越された、前使ってたテレビの3倍ぐらいでけぇテレビを使って。オラは別にそういうのに特に興味とか持たなかったけど、カカロットのやつが喜んでいた。こんなにでけぇテレビがあるんだから、映画見ようぜ、と言って、あっという間に悟飯から映画のDVDを借りてきた。
内容は、と聞かれたが、オラは別になんでもいい、と答えた。っちゅうか、何があるかわかんねぇ。そう言おうとすると、オラもわかんねぇ、とカカロットが笑った。それなのに映画みてぇんか。おう。
「だって楽しそうだろ?」
映画の内容は、どっかの星で暴れまわる化物を、沢山の人間が力を合わせて退治する、簡単なストーリーだった。でもその中に色々と物語があったし、戦うところも凄く派手だったから、昔みたいにチチと映画見に行って寝ちまうことはなかった。(チチと一緒に見た映画は、なんてったって皆黙ってばっかりで、ぼそぼそと喋ったり、たまにキスをするだけで、なにやってんだかもよく分からんかったんだ)部屋暗くして、ソファにオラとカカロットの奴とで二人で並んで座って、その上から毛布を被って見た。テーブルの上に雰囲気作り、って飲み物とお菓子を用意したけど、最初の5分で全部食い終わっちまった。
「あー後ろ後ろ!」
「ひゃーどきどきすんなー」
化物の子供みたいなんが、女の後ろに迫ってくるのを見て、二人でわあわあ言った。少しチチに似てたから、オラもカカロットも多分気にいってたんだろう。女が主人公に助けられると、二人で一緒に男を褒めた。
少しして、主人公の親友が女を守って死んだ。カカロットも、オラも、黙ってそれを見ていた。今まですっげぇ細かいとこまで口を挟んでたカカロットが黙ったから、オラも黙った。なんとなく、声を上げちゃいけねぇと思ったんだ。
女が助かって、主人公が親友が死んだのにすっげえ泣いてた。多分、オラも、ガキんときクリリンが死んじまったときはこんな感じだったんだろうなぁ、って思った。いや、でもあの時はドラゴンボールっていうクリリンを助ける方法があったから、まだこいつよりはマシだったんじゃないかと思った。だって、映画が終わって、親友の奴は墓んなかに入れられて、皆に悲しがられてた。
あ、そっか。たすからねぇんだ、って終わってから気づいた。オラたちだったら、誰か死んじまってもドラゴンボールを急いで探して助けてやるってなるけど、映画の中には、そんなことはないんだ。映画が終わって、カカロットがテレビを消した。
部屋の中が真っ暗になった。すぐ隣にカカロットのいる気配がする。あと、少しだけ聞こえる呼吸音。右側の腕と足に感じる、カカロットの熱。電気つけねぇんかな、って思ったら、突然カカロットが抱きついてきた。
ソファの上に押し倒されて、その上から毛布でくるまれた。カカロットごと。ぎゅう、て抱きしめられたから、行き場の無い手をカカロットの背中に回した。目が慣れてくると、カカロットの金色の髪の毛がようやく見えた。あと、オラの喉元にカカロットの吐いた息が当たって、やけに熱かった。焼けるようだと思った。
「どうした?」
「寂しい」
「ははっ、なんだそれ」
もぞもぞと腹の辺りで何か動いた。カカロットが収まりのいい体制を取ろうとしてるんだろう。カカロットの裸足がオラの足に当たった。「つめてぇ」と不満げな声が顎の下で上がった。そんなこと言われても困る。オラはにへら、と笑って、カカロットの足にわざと冷たい足を押し付けた。
「おめぇはどこもあったけぇなぁ」
「なんだ、おめぇ、冷え性?歳だな」
「同じ歳だろぉ」
暗い中でじゃれあえば、ぎしぎしとソファが軋んだ。大人二人が揉みあう場所じゃないなんて百も承知だ。このままじゃ落ちるかも、なんて思いながら、それでも抱きしめあった。
「悟空」
「んー」
「お前、腕の中で誰か死んだのを見取ったことあるか?」
「ねぇんじゃねぇかな」
「死体って重いよな」
「おめぇ、知ってんの?」
カカロットはオラの胸に額を押し付けて、一言答えた。「知ってる」
「いつ?」
「お前が死んだ」
オラが?オラは目を瞑って、薄ぼんやりと見える金髪を視界から消した。本当の暗闇が降ってきた。目を閉じてるときに見えるこの暗闇は、もしかして瞼の裏なんだろうか、とか考えた。
「お前の心臓に穴が開いたこと、あるだろ」
「ああ、ラディッツと一緒に」
あの時、お前居たっけ?と思えば、まだ、お前の中にいた、とくぐもった声が聞こえた。
「知ってるか?人間って、生きてるってだけで地面に触れてる部分に力を入れるから、死んじまって全身から力を抜いた状態の方が重くなるらしいぞ」
「へぇ」
そういえば、クリリンの死体もそうだっただろうか。じっちゃんのところで修行してたときに、力尽きて倒れたクリリンを抱き起こした時より、あの時の方が重かったような。
「まぁ、錯覚ってのも入ってるらしいけど」
「へー、おめぇ、頭良かったんだな」
「おめぇよりは」
なんだと、ってオラはカカロットの脇を擽った。でも、考えることは同じだったせいか、ほぼ同時に相手を擽る羽目になって、二人でげらげら笑った。
「いてぇ」
ついにカカロットに押し倒されてたオラがソファから墜落した。ごちっ、と頭が床にぶつかる。ばーか、と暗闇の中でカカロットが笑った。
カカロットの方を見れば、毛布を頭から被ってるせいで、毛布の影になってる部分が周りより濃い夜の色をしていて、さっき見た映画のグロテスクな化物を思い出した。あっちは黒い塊に赤い眼が二つ浮いてたけど、今オラの目の前には翡翠色の目が輝いてた。
多分、オラとおんなじことを考えたんだろう、カカロットがにやっと笑って、オラが変な体制で床に落ちてるっていうのに、そのまま覆いかぶさってきた。食っちまうぞ、って低い声で脅されたから、倒しちまうぞ!って返した。
「じゃあ勝負だ!こんにゃろ!」
「何やってんだお前ら」
毛布を投げ捨てて取っ組み合いを始めたオラたちを変な目で見ながらフォーが入ってきた。真っ暗な部屋に一瞬驚いて、すぐ隣のスイッチに手をやる。ぱちって音を立てて部屋が明るくなる寸前、カカロットが一瞬だけ唇をオラの口に押し付けてきた。
すぐ明りがついて、ガキみたいに遊んでた様子を見たフォーが呆れた声を上げたけど、カカロットは突然の明りで目がちかちかしてそれどころじゃなかったみたいだ。オラも目が痛かったけど、それと同じぐらいさっきのキスに驚いて、フォーの拳が頭に当たるまで全然動けなかった。
2009/3・31