■最果てで会いましょう
轟々と響き渡る破壊の音に混ざって、間抜けなその音が耳に届いたのは自分がそいつと同一の存在だったが故か。それとも、自分では気がつかないだけでその音が自分の腹から鳴ったものだったか。
「腹減ったなぁ」
「そうだな」
どかり、と岩肌に腰を下ろした男は太い紅の尾を緩やかに揺らして自分自身の腰にするりと回した。そういえば己の父親である男も、また己と血縁関係である兄も、元になっている男と瓜二つの顔を持つ男も、皆その長い猿の尾を己の腰に巻いていなかっただろうか。
サイヤ人の癖なんだろうか、とも思いながら男と対峙する形を保ったまま、近くの岩山に着地する。久しぶりに力いっぱい動きてぇな、と唐突にぼやいた目の前の男は自分が返答するよりも早く己を俵を担ぐように肩に乗せて、あっという間に人気の無い荒野に連れてきてしまった。
少し目を男から逸らせば、岩や地面がむき出しになっている広い土地のあちこちに大きな穴が穿たれている。巨大な刃物で切り裂かれたかのような穴もあれば、爆発物でも大量に設置したのかと思うほど地面が焼け焦げている部分もある。どど、と雪崩のように岩石が崩れ落ち、切り立った崖が崩れて新しい丘を作っていた。貴方たちの戦いは自然災害みたいなものですからね、とこの星の神は言っていただろうか。言いえて妙だ。
「おい、こっち来いよ」
相手の攻撃のせいでぼろぼろになった胴着を摘まんで、ああ、これではまたチチに迷惑をかける、と思っていると、少し遠くで座り込む男が手で己を呼びながらにやにやと笑っていた。男の上半身は裸で、その代わり体中に獣のような赤い体毛が生えている。きっと超化すると段々大猿に近づくんだろう、と悟飯が言っていた。
「もう良いのか?」
「休憩しようぜ」
休憩、といっても目の前で胡坐をかく男にこれといった傷は見つけられない。体力を消耗しているのかもしれないが、その余裕そうな笑みからはまったく疲れというものが感じられなかった。休憩、というのが主に自分のことを想っての選択だとしたらありがたいが、どうにも手を抜かれている、という事実が悔しくてならない。力の差がこうもはっきりしているとどうしようもないな、と思う。
それでも、自分を相手に選んでくれることが嬉しい。単純だな、自分も。やっぱり孫悟空だからか。
不意打ちを喰らわせる必要も無い状況なので、(どちらかといえば不意打ちを食らわせなければならないのは自分の方だ)ゆっくりと無防備に近づいた。ぶすぶすとすぐ近くで地面が焼ける音がする。
「ん」
「・・・いや、いい」
確固とした言葉は使わないが、足を開かれ、どうやら「俺の膝の上に座れ」とでも言いたいようだった。だが何が楽しくて男の、しかも自分自身の膝に座らなければならないのか。しかもついさっきこの男から至近距離で顔面に気孔派をブチかまされた後だというのに。
俺は首を横に振ってそれを辞退する。そして男の隣に腰を下ろした。
轟々と燃え上がる炎もきっとすぐ消えるだろう。燃える要素である草木がないのだ。乾燥して罅割れた大地が広がるこの荒野では見渡す限りが薄茶色だ。東の方向に少しだけ青い水平線が見える。海が近かった。
突然、がしりと首に腕を回され、引き寄せられるように抱きしめられた。男の黒髪が顔に掛かる。男の表情は見えないが、その顔を己の肩に押し付けているのが分かった。なんなんだ、突然。
驚きのあまり一瞬硬直してしまう。はっと我に返ってみれば、男は俺が黙っているのをいいことに俺の首に頭をすり寄せてきた。超化が進むと行動も獣化するんだろうか。悟飯が自力でサイヤ人の特徴について調べているようだったから、今度聞いてみてもいいかもしれない。それはとりあえず置いておいて、今はこいつだ。何を考えているのか、同一人物だって理解できなかった。
「おい、なにすんだ」
「オレだってたまには甘えたいときだってあるんだぜ」
何を可愛い子ぶってやがるんだこいつは。意味が分からないが、とりあえずその体を押し返そうとするがびくともしない。こんな時にでも力の差を見せ付けられるとは!ベジータもこういう気分だったんだろうか。いや、俺はあいつほどプライド高くねぇしなぁ・・・。
「何考えてんだ」
「え?」
「こんな状況で他の男のこと考えるか?普通」
「こんな状況って・・・」
っていうかなんでお前は普通に俺の考えていることを汲むんだ。
俺が反論するより早く、男は俺の両腕を掴み、そのまま岩山に押し倒した。そのままぼすっ、とのしかかってくる。俺の顔のすぐ横に顔を寄せて、上半身だけが重なった。男の肩口越しに空を見上げて、今日はやけに空が高く見えるな、と俺は思った。
男の体温は人間のものとは思えないほど高かった。サイヤ人の体温って高いんだろうか。そういえば、俺もカカロットの奴に熱いって言われたな。少し肌寒いほどの風と相まって、奴と密着している部分を除けば丁度いい温度だと思えた。己の髪のせいも合わさって、男と密着している部分だけが凄く暑い。
男の手がようやく自分の手を拘束することをやめたと思ったら、そのまま俺の胴着に手をかけてきた。無骨な手が破けた胴着の裾からインナーの中まで侵入して、俺の脇腹に触れた。
「・・・・おい」
「なんだ」
「何やってんだ」
甘えたいって理由だけじゃ答えにならねぇぞそこまでいったら。
男は俺の耳元でふっと息を吐くように笑って、「大人の甘えるって、こういうのだろ?」と馬鹿みたいな台詞をどうどうと言ってのけたのだ。恥ずかしくないのかその台詞!俺はひとしきり笑ってから、思いっきり男の肩に噛み付いた。それはもう肉を噛み千切る勢いで、だ。予想の通りいってぇ!と悲鳴を上げて退いた男に、即座に気孔弾をブチ当てる。ここまで舐められたら孫悟空の名がなくってものだ。
忌々しげに睨み付けてくる男を嘲笑い、俺はそのまま畳み掛ける。悪いが休憩はここまでにしよう。一回ぐらいお前から余裕の笑みを奪ってみたい。
「そういうのはベッドで言えよ!」
「馬鹿か!お前馬鹿か!」
2009/3・30