■灯のある場所で

 ぼくの世界のひとはみんなしんでしまうんだ、と金色の髪をした少年は寂しそうに呟いた。




 ぱち、と火花が爆ぜるように青い光りが瞬く姿が、とても綺麗だと思う。僕は彼の正面に座ったまま、じっとその顔を見た。
 彼は泣いているように見えたし、でもどこか笑っているようにも見えた。逆立った髪の毛は父の姿を彷彿とさせたけれど、彼の顔は僕の顔の造型とまったく同じだ。翡翠色のした眼球が、僕の視線と絡んだ。
 「きっとセルゲームが始まったら、ぼくたちも戦うことになると思うんだ。きっとお父さんか、ベジータさんか、トランクスさんの前かな。でも、少なくともお父さんが最後だと思う。セル相手だから、きっと全員戦わなきゃいけなくなると思う」
 戦いたくないね、と彼は言った。僕は無言で頷く。
 でも、戦って勝たなきゃ学者にだってなれないし、たくさんの人が死んでしまう。セルを倒せる可能性があるのは僕たちだから、逃げることなんてできないんだ。
 僕の思ったことを汲んだように、彼は頷く。ようやく、僕は彼が自分自身であることに気づいた。ここがどこか分からないけれど、今僕は僕自身と対話しているんだ。それは自問自答のような行為だったけれど、僕らはそんなこと気にせずに、ゆっくりと言葉を噛み締めるように交わした。
 金色の髪をした、きっと超サイヤ人になっている『僕』は、僕のことを見て少しだけ笑った。親友に別れを告げるような顔をしていた。そういえば、僕がもっと幼い頃山で遊んだドラゴンは今どうしているだろう。ナメック星に行く前にお別れの挨拶をして、それからずっと会っていない。きっと、凄く大きくなったんだろう。僕を覚えていてくれているだろうか。
 「お父さんは、楽しそうだったね」
 「いつ?」
 「精神と時の部屋で修行してる時」
 あの一年を思い出しているのか、彼は小さく笑って見せた。
 「お父さんと二人っきりで、修行ばっかりしてたけど、やっぱり楽しかった」
 「そうだね。お父さん、戦うの好きだから」
 「でも、僕らだって楽しかったよ」
 「それは、殺し合いじゃないから」
 「殺し合いじゃない戦いなら好きなの?」
 「君は?」
 僕は聞く。
 「君はお父さんと戦って楽しかった?」
 お父さんの拳を受け止めてお父さんの蹴りを避けてお父さんを殴ってお父さんを蹴って。
 楽しかった?
 「・・・分からないや」
 「そう」
 その答えに、僕は安堵する。そして、同時に昔読んだ本の内容を思い出していた。人間の精神についての論文だ。
 よく漫画とかにある、『いい自分』と『悪い自分』が『自分自身』に色々と吹き込むように、人間が物事を考える時に一つの選択肢に対してほぼ真逆の選択肢を用意し、それから物事を判断するっていう内容。
 でも、今会話をしている僕と、目の前に座る金髪の僕は、『いい自分』と『悪い自分』の権化じゃない。きっと目の前の僕は、サイヤ人としての思考を持ってる僕なんだ、と考える。
 今思考している僕が、地球人としての僕だとして、目の前に居る彼はサイヤ人としての僕。その力が強く出ているせいで、サイヤ人としての僕は超化している、んだろうか。
 違う思考をしていても、基は同じ人間のせいか、彼は僕が何も口に出さなくてもその考えを理解したように一度頷く。
 「多分、サイヤ人としてのお父さんと、地球人のお母さんの血が半分ずつ入ったせいなんだろうね」
 「こうして分かれているのが?」
 「超サイヤ人になると少しだけ惨忍になるってベジータさんが言ってただろ?つまりこの僕の方が、サイヤ人に近い思考回路を持っているんだ」
 「でも、戦うのは好きじゃないんだろ」
 「それは僕が孫悟飯だからさ」
 彼は人差し指を僕の心臓に押し当てて笑った。サイヤ人になったってならなくたって、結局一人の人間の中にあるものなんだから、別人にはなりえない、ってことなんだろうか。
 「僕は・・・つまりさ、君の感情が昂った状態の孫悟飯なわけだ。許せないものを相手にして、相手を痛めつけたい、それだけで頭が一杯になってるんだ。超サイヤ人になるとき、たくさん、大切な人が死ぬ所を想像しただろ?」
 「そうだね」
 「ぼくの世界のひとは、みんな傷ついて苦しんで死んでばっかりだ」
 そうならないと僕は僕になれないからね、と彼は笑う。
 「寂しいね」
 「でも嬉しいんだ。何故だか分かるかい」
 僕は首を振る。その答えを、聞きたくなかった。彼はまだ笑っていたけれど、僕と同じように、きっと泣きたいんだろう、と思った。
 「この力があれば復讐を成し遂げられるからさ。これはきっと、僕にしかわからないと思う。幸せな世界を生きる君に、力なんてものはいらないからね」
 「羨ましいと言うと思った?」
 「ううん、僕だって自分が君より幸せだなんて思わないよ。むしろ、僕はとても不幸だ。不幸だけど、それを悲観しないよ」
 僕は僕の力だけで皆を守れるんだから、と彼は言った。でも、それでも誰かを守れなかったら?君はどこにいけるって言うんだ。
 「僕は分からないよ」
 「君はそれでいいと思うよ」
 誰かを守れる力を手に入れて、それでどうするんだろう、だって君は孫悟飯じゃないか。戦いが嫌いで、将来学者になりたいんでしょう?
 「君はそれでいいと思うよ」
 彼はそう言った。まるで僕と彼が別の生き物であるかのように、もう一度。その顔がどうしても嬉しそうに見えなかったから、僕は目を閉じた。ぱちっ、と青い光りがはじける。彼の泣き声のように聞こえて、しばらくそれを黙って聞いた。
2009/3・30


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