■骨の髄まで犯して
ターレスの船には博物館のように見たことも無いような生物の標本が並んでいる部屋や、図書館のように本がぎゅうぎゅうに押し込まれた部屋が幾つもある。頭のいい子供しか入れない学校に入るために、勉強するようにお母さんに言われてきた僕にはターレスの船はうってつけの場所だった。資料は豊富だし人もいない。ターレスは居るけれど、ターレスは僕の邪魔をしない。《強者に従う》が生きるための絶対的なルールであるサイヤ人であるターレスは、勿論僕に絶対服従するわけじゃないけれど、僕の癇に障るようなことをしないようには努めているらしかった。
原因は分からないけれど悟飯から分離した僕は、今日は1人でターレスの船を尋ねてきていた。悟飯やもう1人の分離した僕は、今日はピッコロさんのところへ遊びにいったみたいだった。僕は彼らが遊ぶのを邪魔するのが億劫で、1人逃げるようにここへ来た。あまり、僕はお父さんが死んでしまったとき一緒にいた人達に会いたくないのだ。特に、何がどうしたというわけじゃないけれど。
僕が宇宙船の入り口に立つとターレスは待ち構えていたように扉を開けた。1人か、と僕を睥睨して、好きな部屋に行ってろと言ってすぐにひっこんでしまった。僕を監視する必要もないぐらい心を許されているのか、それともターレスがスカウターに絶対の信頼を置いているのか、僕には判断つかない。
僕は勝手知ったる他人の家、という訳ではないけれど、先日見つけた法律や政治関連の蔵書がある部屋へ向かう。この星の歴史書も完備されてあったから、そっち方面もばっちりそうだ。部屋の明かりは室内に入ると勝手についた。僕は持ってきていた勉強道具を机に置いて、とりあえず歴史と法律の本を探すことにした。
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30分もするとターレスがコーヒーと紅茶を持ってやってきた。多分紅茶が僕のだろう。ご丁寧に檸檬とミルクと砂糖も用意されていた。お菓子が無い辺りがターレスらしい。ターレスは予想通り紅茶を僕の前の置いて、コーヒー片手に部屋の隅にあるソファにどっかと座った。ノートパソコンを引っ張り出して、何か作業をはじめた。僕はありがとうと言ったけれど、ターレスの反応は無い。無骨な銀色の大きなマグからは湯気が立ち上っていた。すぐには飲め無さそうだ。
僕は黙々と資料を読みふける。参考書は一応買って貰っていたけれど、ターレスの蔵書はターレスが自分で整理しているものが多いから、分かりやすいし探しやすい。試験傾向のところを眺めていると、ふと見慣れない単語を見つけた。
「きょう・・・・・・強い・・・・・・姦しい・・・・・・? ごう、かしま・・・・・・」
「・・・・・・何見てんだ」
ターレスが顔を顰めて僕を見る。僕はこれ、と分厚い本を開いたまま座るターレスに向けて見せる。この国の時代ごとの法律が書いてあるものだ。びっしりと密集されている文字列にターレスが目を細めて、「ああ、暴行罪な・・・・・・」と言った。
「あと、それはゴウカンって言うんだよ。まぁ使うことは無ぇとは思うがその単語はほいほい口に出すなよ」
「強姦て何?」
「相手の合意を得ずに無理やり性行為を強要すること、って言えばいいのか? 簡単に言えば無理やり組み敷いて犯すっつーことだ」
「あ・・・・・・へぇ・・・・・・」
そういうことも暴行に含まれるのか、と思う。まぁ、乱暴されるって言葉のうちにもそういうことは含まれるらしいし、まぁ、そうなるのか。僕は納得して、説明に少し苦しむようなターレスを少し見直した気持ちになった。
「ターレスはしたことあるの? 強姦」
「したことはあるな。されたこともある」
「・・・・・・へ、へぇ」
そこまで聞くつもりはなかったのに、冗談で言ったことが結構重くなって返ってきてしまった・・・・・・。されたこともあるんだ、と思わず繰り返してしまった。「ガキの頃にな」とターレスはどうでも良さそうに呟く。
「サイヤ人のガキは培養液から生まれるが性欲が無ぇわけじゃねぇ。だがサイヤ人の女は強いって言ってもよく死ぬ。戦場で手っ取り早く用を足せるってことで星を滅ぼして帰ってきたガキは狙い目だ。弱いしな。おめーの父親もこの星を無事消してサイヤ人の星に帰ってくりゃ、やられてたと思うぜ」
弱肉強食、という言葉が本当に社会のルールだったんだな、と思う。
「勿論、それは罪じゃなかったんだね」
「そりゃな。それじゃサイヤ人全員が犯罪者だぜ。っつってもそもそも殺人罪やら傷害罪があるのか。あえて俺達に罪があるんなら、それは《弱いことが罪》だぜ」
くはは、とターレスは自嘲するように笑った。
「この国の法律はどちらかというと、強いことが罪みたいだけどね・・・・・・。子供や女性を守る法律は多いけど」
「弱い奴らを守るのが法律ってわけだろ。痴漢っつーのも、たとえそいつがやってなくても女がやったって言えばやったことになるんだろ? まぁそれはそれで、法律によって女が強くなってるってわけで、弱肉強食の俺達にしては何の不思議もねぇけどな」
理に適っているようでそうでもないことを飄々と言ってのけるターレスの横顔はそれこそ悪い大人のそれだった。ヒールってそういうものか、と僕はつらつら思う。道理を蹴っ飛ばすのはいつだって善人だ。道理は人が作ったものなのに、人の味方じゃない。僕はそれを知っていた。
「強姦に興味あるのか、お坊ちゃん」
テーブルを乗り越えてのしっ、とターレスが僕の上にのしかかってきた。虎のようだ、と思う。サイヤ人の大人は大猿というよりは大型の肉食獣のような動きをする。獲物を狙うような眼光がきらきら光っていて、まったく浅ましい。本をテーブルの上に投げ出すと、悪いガキだ、と罵られた。
「良い子を犯すより心が痛まないだろ?」
「ガキを犯す変態野郎を慮ってる時点で、お前は驚くべき良い子だよ」
犬歯の発達した歯ががぶりと頬の肉を噛んできた。薄い肉を隔てて骨と骨がぐりぐりと押し付けあって、唾液で濡れた。
「ターレス、お前はこういうときは頭が悪いなぁ」
お前もな、とターレスはくはっと喉奥で笑い声を洩らした。啄ばみあうような子供のキスを繰り返して、これが強姦前のキス? と嘲笑した。
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罰せられたいのに罰せられない時ほどすっきりしないことはない、と彼は考えていた。父が死んだ時彼の周りの人達は彼を一言も責めなかった。彼だけが心の中でひたすら己を詰った。責めた。殴って叱った。そんな彼を見て、周りの人達はそれを止めた。君が苦しむことない。君が嘆くことはない。君はなにも、悪くない。
ターレスは。
ターレスは、そんな自分を見て何と言っていただろうか、と彼は考えて、何故かよく、思い出せなかった。確か詰ったのだとおもう。責めたのだ。唯一、自分を嘲笑した。「調子に乗るからだ、クソガキ」と少年を詰り、「お前が弱いから」と笑った。
お前が悪いから、あいつは死んだんだな。
太い肉の塊で内臓を掻き混ぜられながら、はぁ、と甘い声をあげる。子供の小さな腹の中を蹂躙する男の欲の塊に揺さぶられながら、セカンドはうっとりと己の腹を撫でた。ターレスの罵声はセカンドの頭を麻薬のように痺れさせた。マゾヒストの気があるのかもしれない、とセカンドは口を歪めた。マゾヒストとサディストというのは、どちらも同じような気があると誰かが言っていた気も、するけれど。
「はっ、はぁ、あっ、たー、れす」
「なんだ、変態」
「おれを、なじって、ぇ・・・・・・!」
「はぁ?」
ついに気が狂ったかと、ターレスは顔を顰めた。少年は逆立った金髪を振り乱し、なじって、と何度も懇願した。
「お、おれの、おれの罪を、叱って、屑だって、ゆって、お前が死ねばよかったんだって、言ってよぉ・・・っ!」
何かを企んでいるのかと思ったが、子供は今にも泣き出しそうな顔をしていた。快感で頬を赤く染めていたが、目の奥は行き場のない自分への怒りで凍えたように燃えていた。
馬鹿なガキ、と心の中で嘆息して、ターレスは向かい合って寝かせていた子供の身体を反転させた。ソファに顔を埋めさせ、後頭部を鷲掴む。強いくせに細く小さな未発達な背中を片手で押さえ込み、尻だけをあげさせた。ずるり、と一度肉棒を引っ張りだすと、は、ぁぁん、と甘い声を上げた。
「詰られてぇのに男に犯されて何女みたいな声上げてんだよ本当に救い様がねぇなてめーは」
「ひぁ、ぁ、あふ・・・う、うんっ」
「父親が目の前で死ぬところを想像しながらだって男を銜えこめる外道なんだから、今更か」
「しっ、て、ない・・・! 父さんは、あ、ああっ、あひぃっ」
乳首に手を伸ばし硬く突起した肉芽を指で挟みこみ引っ張る。小さい子供にこういうのを教え込むってだけで優越感に浸れるんだから自分もたいがい頭がおかしい。
「おとうさんはきれいだっおとうさんはなにもわるくないっぼくはおとうさんによくじょうなんかしていないっぼくはっ、ぼくはあぁあああっ!」
喘ぎ声を怒声に変えて、セカンドは吼えた。滂沱の涙を垂れ流し、鼻水と涎でソファが汚れた。この淫乱なクソ餓鬼、とターレスは笑った。
「死ね! 役立たずは死ね!」
「あっ、ひゃう、ぅう、うんっ、うんっ、しぬ、しぬよぉ」
喜びと快楽に身体を震わせ、セカンドは精液を吐き出した。びくびくと痙攣を繰り返し、ぼくはおとうさんのためになんどでもしぬよぉ、と甘い声を上げた。無理に身体を捻り、己を犯すターレスのその父親に酷似した顔にぶるぶると手を伸ばし、汗で濡れた手でその頬を撫でた。
「おとうさんのために・・・・・・」
「お前はただの精液の捌け口にしかならない、役立たずで淫蕩な馬鹿だ。悟飯」
セカンドはそうだよと繰り返し頷いた。そうなんだよ僕は、浅ましい、と言葉は途切れた。
「それでもおれはお前より強い生物だ。お前よりも強い種だよターレス・・・・・・そして俺は、・・・・・・父さんより、強くなってしまった・・・・・・」
「だが今のお前は誰よりも弱くて惨めなだけの子供だ。俺のような外道に犯されるだけの、ただの」
内臓の中に精液を吐き出すのを我慢し、ターレスは少年の柔らかな体の上にその欲望を吐き出した。どろどろと濁った白い液体は欲望が詰まっているというにはあまりにも透明すぎたし、この中に数万という生命を誕生させる精子が詰まっているのだと思うと、他人を自分のものにする証としてこの液体を吐き出す行為は酷く滑稽に見えた。その相手がそれこそ子供だというのがより一層、間抜けだ。
強い者に惚れてしまうサイヤ人としての本能が、ターレスをこの小さな人間に夢中にさせてしまった。独占欲とも支配欲とも違う、ただ単純に強い生物の子を作りたいというその欲望で、ターレスはこの子供の望みを叶えて何度も犯した。獣のように精液をぶちまけて、それで紡がれた言葉はどれも子供の自己満足のためだった。ターレスは、子供に望まれたから責めた。子供に願われたから奪って壊した。
強姦と名ばかりのセックスを終えてターレスは途端に馬鹿馬鹿しく思えてきた。セカンドも随分と落ち着いたようでソファに倒れこんだまま静かにターレスを見ているだけだった。じとりと浮かんだ汗で髪の毛がへばりついて気持ちが悪い。唾でも吐きつけてくるだろうかとターレスはぼんやりと思って、離れようかと思ったが、ターレスは手を伸ばして子供の額にぱらりとかかった前髪を退かした。
「なに、したの」
「いや、お前の可愛い顔が見えにくいと思ってな」
セカンドははっと鼻で笑うと、なんか、ターレスが今更悪い奴面すると、笑っちゃうね、と馬鹿にした。ターレスは返事をせずに、白い太腿をさらさらと撫でた。心の中で、どうやら、少し痩せたらしい、と考えていた。
2011/8・19