■凌霄花の焼け落ちるとき
 どさっ、と重い音を立ててテンゾウの体が床へと墜落した。カカシが雷切で切断した樹木は、テンゾウの体から離れるとずるずるとその場で一本の木を作る。腕の切り落とされたテンゾウは、切断された腕の面からずるずると木が精製されると、みるみるうちに腕の形へと姿を変え、そして青白い人間の肌のものとなる。
 「危なかったのぉ・・・・」
 「・・・・・・・、・・・・・・・・!?」
 一息ついたかと思うと、倒れたままのテンゾウの体がバネ仕掛けのように飛び上がった。がくん、と頭をうな垂れさせたまま、地面に2本の足で立つ。
 はっとして四人が起き上がったテンゾウの体に目を向けると、その幼い少年のものである肢体は崩れ落ちるように地面へと再びへたりこんだ。
 今度は倒れるわけではなく、しゃがみ込む体制で床に墜落すると、その先程出来上がったばかりの両手を床へと叩き落す。
 ぶわっと室内の空気が振動し、四人が次の動作に入るよりも早く、床に亀裂が奔り、何本という樹木の幹が姿をあらわした。
 「なっ・・・!」
 テンゾウの近くへと寄っていたカカシは足に力を込めるよりも早く地面から素早く足に絡みついた蔦に動きを止められる。クナイで切り落とすよりも早く、座り込んでいたテンゾウの体がゆらりと動いた。
 「っ、あ!」
 テンゾウはカカシが取り出したクナイを奪い、そのまま奪った勢いでカカシの上半身を大振りに薙いだ。カカシは足が動かないので、後ろに倒れこむ状態で半身を後ろへと倒れさせ、腰の後ろへと用意していた忍刀で足のすぐ下から蠢く蔦を切り離し、反った体のまま手を地面に付き飛び去るようにしてテンゾウと距離を取る。
 「うわっ」
 両足が蔦で拘束されたままだったのでバランスが取れず、膝をつく格好で着地を取る。第二撃が追ってくるかと思えば、続いて飛び出していったツナデに注意を逸らされたようで、カカシを追ってくることはなかった。
 その間に両足を一つに固めている蔦を切り離す。切られた蔦は絡め取るものを探すかのように蠢くが、しばらくすると動きを止め地面へとその身を投じた。
 テンゾウは虚ろな目のまま、しかし口元にはあざ笑うような笑みを浮かべていた。手にする武器はクナイ一本だというのに、ツナデの怪力を巨大な幹を盾にすることによって回避している。素人とは思えない動きだ。
 「(あの動きは・・・つまり初代様の・・・)」
 「逃げてんじゃないよ小僧!」
 ツナデの拳が大人3人が囲んでやっと手が周りそうなほどの巨木を粉砕する。その裏にて身を潜めていたテンゾウは、沈黙を保っているかと思えば馬鹿にするような声音で緩やかに笑った。

 「逃げてなんかいねーよババア」

 「――――っく!」
 次の瞬間、部屋の床を割って半径10mはありそうな巨木がツナデの足元を裂いて現れた。そのまま目にも留まらぬ速さでツナデを押し上げると思うと、そのまま天井へと巨木ごとツナデを押しつぶした。
 「ツナデ!」
 火影が術を発動させようと印を組む。しかし、それが終わるよりも早く、部屋の中央に現れた巨木から槍のような幹が次々と生え、機会を伺っていたカカシや火影、暗部を串刺しにしようとその切っ先を突撃させる。

 「余計なことしてんじゃねぇよ馬鹿どもが!偽善者面して人を助けた気になってんじゃねぇっつーの!大蛇丸を逃がした分際で俺達の痛みを知ろうなんざ一億光年はええんだよ!」

 中央に現れた幹の麓でげらげらと哄笑する、テンゾウとは思えない少年は、次々と生え続ける、もはや樹海と化した室内でただ笑い続けた。

 「あー、くそ、痛ぇ痛ぇマジいってえええええ!人の腕ネコソギ奪っておいておいそこのクソ馬鹿銀髪!覚悟はいいんだろうなぁ!てめぇの切り落とした腕から木ぃ生やして生きたまま内臓引き摺りだしてやっから覚悟しやがれ!」

 びしっと指でカカシを指差し、テンゾウは幹をそのまま垂直に昇ってきた。所々突如現れる幹へと飛び移り、げらげらと笑いながらもう一人の暗部の攻撃をかわす。
 あっという間にカカシの目の前へと現れたテンゾウであるそれは、惨酷な笑みを顔に張り付かせたまま、そのクナイの切っ先を腕と宣告したにも関わらずカカシの喉元へと寸分の狂いも無く突き出してきた。
 「カカシ、避けろ!」
 「っ!」
 飛んできた叫び声にカカシはそのまま空中に身を翻させた。カカシが居なくなったその場所へ、上から落ちてきた火影よりも早く手裏剣の嵐がテンゾウへと降り注ぐ。
 「はっ、爺が、耄碌してんじゃねぇよ!」
 しかし次に飛んできた知性の欠片もない嘲りの声は上から落ちてくる火影の背後から降ってきた。手裏剣にずたずたにされたそこには人型に歪んだ木が壁から生えて存在している。
 「(木分身!?)」
 カカシが瞠目するよりも早く、テンゾウの持つクナイが火影の首へと奔る。それを振り返らずに、火影はやれやれと肩を竦めた。

 「ババアとは言ってくれるじゃないかクソ餓鬼」

 「んなっ!」
 傷一つ無く突如テンゾウの背後から現れたツナデにテンゾウが振り返るよりも早く、ツナデの右手から繰り出された足刀がテンゾウの腹部へとめり込んだ。
 文字通りくの字へと折れ曲がった幼くまともな筋肉のついていない少年の体は、まるで人形のように吹っ飛び、中央に聳え立つ巨木へとその体をめり込ませた。
 「・・・殺しとらんだろうな」
 「まさか。手加減はしたさ。ババアって言われた時は殺そうかと思ったけどね」
 そう言って冗談に聞こえない言葉を吐いたツナデを呆れたように見やり、そして火影は普通に蹴ってありえないほどに体を木に陥没させたテンゾウを見、手加減ってなんじゃったかな、なんてことを思ったりしていた。
2008/1・20


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