■凌霄花の焼け落ちるとき
 ぶつん、と目の前が通常の風景へと変わり、写輪眼を使った事によっての疲労感が体にずしりと加わる。くらくらとする頭に手を当てながら、己の下で意識を落としているテンゾウの上からどいた。
 「・・・・はー」
 あの、見たことも無い少年を思い出す。
 植物に覆われていたその矮躯。
 「・・・・・・・・厄介かもね・・・」
 眠るテンゾウを確認する。呼吸をして無いかと思わせるほど微かな寝息に、少しだけ不安になった。
 テンゾウを観察していると、突然扉が開けられた。火影さまが少しだけ驚いた顔をして立っている。
 慌てて立ち上がり、その場を開けた。
 「・・・下手を打ったようじゃな」
 「う・・・すみません。独断で動きました」
 テンゾウの様子を確認しながら、火影さまが呆れたように溜息を吐いた。
 「で、何か分かったことはあったか?」
 「ええ、まぁ・・・」
 手ぶらで帰ってくるなんて事は流石にしない。火影さまはふん、と納得したように呟くと、椅子を二つ用意し、ベッドの横に置いた。
 「初代様は居られたか?」
 火影様は一つに腰掛、もう一つに俺を促して座らせた。導かれた通りに座り、火影さまと向き合う形を取る。
 テンゾウはまだ眠ったまま動かず、気がついた風も無い。
 「いいえ。やはり細胞だったのか、テンゾウの中の記憶をつかってでの『もう一人』はいましたが」
 「ふむ・・・そいつに操られているのかのぉ」
 「・・・いえ」
 顎をさする火影様の言葉を静止させる。テンゾウの意識の中で出会ったあれは。
 「意識は、テンゾウがしっかり持っていました」
 「・・・と、すると?」
 テンゾウは操られているわけではない。むしろ、気になったのが。
 「意識の中での『もう一人』は、どうやらテンゾウの故郷の、亡くなった友人のようでした」
 「ふむ」
 「その少年は意識の中で植物に寄生されていました」

 一見、少年の体から植物が生えているようだった。少年の体の中から植物が生えている、つまり、あの少年そのものが、初代火影さまの細胞で、テンゾウを取り込もうとしているのだと思った。
 だが、あれは。

 「少年が、テンゾウを取り込もうとしているのだと思ったのですが・・・どうやら、逆のようです」
 「逆、となると?」
 火影さまは怪訝な顔をしながら、俺の言葉を待つ。

 「テンゾウが、あの少年、『初代火影さまの細胞』を取り込もうとしているようなんです」

 「・・・・・・・・・それは、本当か?」
 「ええ。少年に生えていた植物は、どうやら少年の足元から少年に寄生しているようでした。意識の中は少しの光も無い暗い場所でしたが、花の匂いに混ざって血の匂いがしました。恐らくあれは・・・」
 俺が言葉を切ると、火影さま察したように視線を足元へ逸らした。戻らぬ後悔。

 「大蛇丸に襲われた記憶か・・・」

 目を閉じても匂う血生臭さ。どんよりと濁る空気。その中に立つ、少年。
 
 「恐らく、初代火影さまの細胞は、八割がた既にテンゾウの物と化しています。それでも暴走が続くのは、あの少年を消させないためだと思われますね」

 初代火影を取り込んでしまえば、もう、大蛇丸に襲われる前の、名前の分からないときのテンゾウの時の記憶と決別することになる。
 それは、大蛇丸への憎しみと、家族の記憶を全て捨てなければいけない。
 それを、本能が、『もう一人』のテンゾウが無意識に拒んでいる。

 「難しいのぉ・・・」
 「放っておけば、勝手に全てテンゾウのものになるでしょうが・・・このままだと、単身で大蛇丸に挑むようなことになりかねません。変化が起こるのが遅かれ早かれ、選択はしなければ」

 大蛇丸がテンゾウたちを置いていったのは、全て失敗したと思ったからだ。もしもテンゾウが生きて、そして初代の力を扱えるようになった事を知れば、最悪、奪われるなんてこともあるかもしれない。
 木の葉の忍としてやっていくことができなければ、監禁か、又は殺さなければならないこともありうる。

 「・・・どちらにせよ、テンゾウが起きなければ何もすることはできぬ。一日やそこらで全て扱えるようになるわけでもなかろう。細胞が動きを覚えているにせよ、力を最後に使うのはテンゾウなのだから」

 火影様は徐に立ち上がると、テンゾウに毛布を被せ、扉へと向かった。
 俺に背を向けたまま、火影様は言葉を続ける。

 「もしも目が覚めて、すぐにでも暴れることがあれば、殺せ」

 「・・・はい」

 火影様はそういい残すと、扉の向こうへ姿を消した。俺はそれをしばらく眺めて、そして静かに寝息を立てるテンゾウに視線を移した。
 立て続けに起こった体の異変についていけず、食事をあまり取らないせいか、やせ細った白い腕が毛布に沈んでいた。
2007/9・9


TOP