■ナルト log2

眼球は濁りを含んで空中を見据えたままだった。
テンゾウは沈黙が支配した薄暗い室内で、死体と二人っきりの空気に耐えられないのか緩やかに頭を振った。呼吸音が消えているその部屋ではまるで生きている人間がいないようで、それに嫌になったのか早々に踵を返してテンゾウは元の侵入経路から逆戻りしようと歩き出す。
血の匂いもしなければ殺された形跡も無い死体の横には、テーブルから落ちたであろう白い花が割れた花瓶と共に散乱してあった。床が水を飲んで黒く沈んでいる。
窓に手を掛けたところで、ふとテンゾウは歩みを止めた。しゅるりと地面を這う音が耳に届いたからだ。
案の定、振り向いてみれば、散乱した白い花が、首を伸ばして死体へとまた口付けていた。完璧に使いこなせないチャクラが漏れて、室内に充満でもしてしまったのか、花は蔦を伸ばして死体の穴という穴からもう一度内臓を破壊するつもりなのか侵入しようとしていた。
「意地汚い真似はやめなよ」
うっかり話しかけるかのように叱咤すれば、花は素早く元の切りそろえられた一本の可愛らしい状態に戻った。死体は二度蹂躙はされず、ただ濁りきった目玉を、視線の先に立つテンゾウへと向けていた。醜い。
「・・・水はこまめに変えるべきでしたね」
ぼんやりとした呟きは死体の耳には届かなかったようだ。テンゾウは次の瞬間には部屋から掻き消え、ついに部屋の中には死体が一人取り残されることになった。

 明日への期待を込めて(テンゾウ 2007/12/08



母は死に父も死に祖父も死ねば祖母も死んだ。思い返してみると家の中は異常なほどの死体がごろごろと転がっていたが、記憶は緩やかにそれを水に流していた。もしかして己の脳髄がその事実を大げさにとらえようとしてそんな情景を作ってしまったのではないかと思えるほどの絶望的な情景。伸ばされたまま動かない白い腕。どうして肉はあんなに柔らかに見えて冷たくそして硬いのだろうか?僕は今になっても分からない。母さんは僕に手を伸ばしていたけれど、あれは僕を招いていたのだろうか。それとも突き放していたんだろうか。ごめんなさい。結局親孝行なんてものはできなかったし、貴方のために僕は血を流すこともできませんでした。今まで生かしてくれてありがとう。お礼はできないけれど、僕は貴方達を忘れはしない。

 テンゾウ過去捏造 2007/11/01
2007/12・29


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