■ナルト log1
むせかえるような血の匂いは肺を満たしては緩く渦巻き、目の前を暗くする。
「(・・・・・・・・・あ)」
クナイはついに刃こぼれして今まで跳ねてきた人間の血と油によってすでに刃物としての機能を無くしていた。初歩的ミスによって死にきれなかった男が、仲間の血によって赤く爛れた片手で己の足を掴んできて、思いのほか強く掴まれ鈍い痛みが足に奔る。
首を切っても深く行かなかったらしい。止めを刺そうと新しいクナイに手を掛けると、丁度出血多量で男は息絶えた。
「(・・・・・・・・・あ)」
掴まれたまま息絶えられてしまって、足を強く後ろに引くと男の体までぐっと軽くついてきた。溜息混じりにしゃがみ込み、死後硬直によって硬くなった男の手を離させる。暗く絶望を孕んだ二つの目が恨めしげにこちらを睨んできていて、静かにそれと見つめあう。これ程怨みの篭った目で睨まれても口から呪詛が出てこないのが不思議な気分だ。まぁすでに死んでいるものが口を聞いたらそれは恐ろしいが、不自然な違和感に気持ちの悪くなった心の中で、任務の内容を復唱し、使い物にならないクナイをベストにしまった。
何も残さないように気をつけなければならない。
そう思いながら立ち上がり辺りを見回すと、突然背後に殺気の含んだ人間の気配を察知する。そのまま、また同じようにしゃがみ込み、前方向に飛ぶように移動する。空気を切るかのような刃物の音が耳元近くで鳴った。暗闇ゆるく浮かび上がる怨恨と感情の消え去った目。ああ、彼もまた俺たちのように感情を無くしたその道のプロかと静かに察する。
懐から取り出した特別な種を手の内に握り締め、そのまま印を結ぶ。木遁忍術の中でも特殊な術だ。チャクラを大幅に削ってしまうが、今回のように残すものにも気をつけなければならない任務には最適である。
音をなくして男の背後へと移動する。途中違和感に気づいた。ああ、これは影分身か。
違いに気づくのには一瞬では流石に無理である。途中気づかれないように木分身と変わり、曲がり角にて隙を探していた敵を発見する。そのまま背後から気配を消して男の口の中へと用意していた種を突っ込んだ。気づかなかった男がやっと後ろを向こうとするが、もうそんな暇すら持たせない。もはや残る未来はといえば死を待つのみである男の背後で最後に印を結び、男の背中に両手をつける。男の中へと入れた種が己のチャクラと混ざって発芽したことが掌で分かった。それは本来の植物としてありえない速度で蔦を伸ばし、男の腹の中を食い破り音も立てさせずに男の中を蹂躙する。蔦が醜く男の目や耳や鼻や口といったあらゆる穴から中を食い破ってぐずぐずと出てきた。暗殺にしては嫌なオブジェである。男の背から手を離すと重力にしたがって死体はどさりと地に落ちた。
跪き今度は心臓の上から印を結んだままの両手を押し付ける。目などから突き出ていた蔦がじゅるじゅると死体の中へと帰っていった。そして少しすれば男の口の中へとまた一つの種が残った。最後に小さな緑の芽が、まるで卵から出てきたひよこが出てくるシーンを巻き戻したように最初の形であった黒い少し大きめの丸になる。
口元からそれを取り出し、懐へと戻した。また何度この種は人の命を吸うのだろうか見当もつかないが、もう使わないことはないのだろうと遠くからやってくる殺気と人の気配に、もう一度ヤマトは掌に収まった種を握り締めた。

 ヤマト 07.7.27



「・・・・・・・生きてます?」
「生憎」
「生憎って・・・素直に喜ばせてくださいよ。起きれます?」
「無理。立てない。動きたくない。おぶって」
「動きたくないって言いませんでした今」
「言って無い。動けないって言ったよ。って訳で頼むよ」
「いやいや、すみませんがこっちも全身ズタボロでして。今一人で歩けるのが不思議なぐらいです。起こすことはできますがおぶることはできません。頑張ってください先輩」
「薄情者ー。ケチー」
「いわれの無い非難を受ける必要は無いはずですよ・・・」
「じゃあ誰か呼んできてよ。その人におぶってもらうから」
「そんなお人よしいませんよ・・・」
「居るよ。俺が飲みすぎで公園のベンチで休んでたらおぶってくれた人いたし」
「物好きも居たもんですね」
「テンゾウもね」
「・・・ほんと、呼んできましょうか」
「・・・・・・テンゾウさぁ、俺が誰かに触られても言いわけ?」
「先輩こそ僕以外に負ぶさりたいんですか」
「・・・・・お前ってほんと口減らないよね・・・」
「偉大な先輩がいましたから」
「誰?」
「誰だと思います?」
「・・・・・・・・・・テンゾウー」
「先輩・・・・・置いてきますよいい加減」
「あーほんと酷い。・・・・・・っ、はは」
「・・・なんですか」
「いや、お前にも後輩ができたなぁ、ってちょっと思い出してね。テンゾウ先輩だって。いいねぇ。いい響きだ。これから任務にお前と若い子連れて行くとき、これを毎回聞けるんだなぁーと思うと、いいね。楽しいね」
「・・・楽しそうですね」
「うん。凄い楽しい。いいね。自分が年老いてる感じがする。大人の気分だ」
「・・・・・カカシ先輩・・・ほんと大丈夫ですか?頭とか打ってませんか?」
「後輩が生意気になるのにも月日を感じるよね・・・」
「・・・・・・」
「あー、入りたてのテンゾウは可愛かったなー。右も左もわかんないから、とりあえず命令したり頼めばなんでもやってくれたもんなー。荷物持ってくれて俺の後ろを素直についてきて、ほんといい子だったなー」
「いたいけな子供にさりげなく雑用押し付けないで下さいよ・・・アンタ鬼ですか」
「それが、いまや疲れ果ててる先輩を放置プレイ。あー凄い哀しい。全然気持ちよくも無い」
「・・・気持ちよかったらそれはそれで問題でしょうが・・・」
「あーテンゾウの小さい背中が恋しいよー」
「・・・・分かりましたよ。分かりました。どうぞ好きなように使ってください」
「さすが!これだからテンゾウ大好きだよー」
「ちょ、気持ち悪いんですけど」
「・・・少し広くなったね」
「・・・・・・はぁ・・・行きますよ。あと、背中の傷口触らないで下さいね」
「ここ?」
「いっ!!」
「あ、俺ちょっと今の悲鳴むらむらした」
「もう一回やったら放り投げますから」

 カカテン 07.8.20



「という訳で、今日俺上がいい」
「何がという訳なんですか。僕は明日任務、先輩は明日休みでしょう。後輩を労う気は無いんですか」
「明日休みだから上がいいでしょうが!明日は本気で遊ぶつもりだから。もはや明日の俺は誰も止められないね」
「何者ですか貴方は・・・どうせ忍犬の散歩でしょう?それに下でも貴方なら午前中休めば万全状態に戻るんじゃないですか?」
「ちょっ、お前俺の貧弱具合を忘れたの?それに散歩だけじゃないし。本屋にも行くし」
「エロ本漁りに行くだけでしょうが・・・任務っていっても、結構命がけっぽいんですよ。うっかり痛みに気を取られた瞬間ばっさりなんてことあったらどうしてくれるんですか」
「そんなギャグみたいなノリでお前が死ぬわけないでしょ。っていうかね、上と下どっちが疲れるって、実は上のほうが疲れるらしいよ?」
「疲れるほうでしょう?僕は痛いほうをさしてるんです。ぐだぐだ言うぐらいならいっそやめますか?溜まってるなら女性に声でも掛けてきたらどうです?僕別に抜かずともいいんですけど」
「・・・期待してるくせに」
「・・・・・・どっちがですか」
「・・・俺ねぇ、俺の下で嗚咽をこらえながらも快感に流されかかってる弱いテンゾウも大好きなんだよね」
「・・・僕も、僕の腕の中であんあん喘いでるような昼間と真逆なカカシ先輩も大好きですよ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「テンゾウ、今の台詞のあんあんって部分もう一回言ってくれない?」
「そこで大好きですよって台詞をもう一度って言わない所が何か間違ってますよね」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「じゃんけんで決めようか」
「写輪眼無しですよ」
「・・・・・・・・テンゾウ、俺さ・・・」
「愛してますよ先輩」
「・・・・・・・・俺も愛してるよ・・・」
「という訳でじゃんけんですよ。不正を働いた方がその場で下ですから」
「ほんと昔と変わってありえないほど肝が据わっちゃったね・・・」
「先輩のおかげです」

 子供みたいな会話 07.8.21



「あれ」
「・・・どうも、先輩」
「ちょっと久しぶりだねぇ。なに、任務帰り?」
「ええ。先輩がうちはの部下と話してるのをふと見かけまして」
「・・・・・・・・テンゾウもしかして、怒ってない?」
「まさか。僕、人に感情気取られるのって中々無いんですよ。慣れてないから勘違いしてるだけじゃないですか?」
「お前が喜んでるのか怒ってるのか悲しんでるのかぐらい分かるよ・・・何年一緒にいたと思ってんの?」
「じゃあ、なんで僕が怒ってると思うんです?」
「なんかマズイ事言ったっけ?」
「大切な人はもう皆死んでるとか言いませんでした?」
「・・・・・・・・あー、えー、まぁ・・・・・・うっかり」
「僕のことが大切じゃないんですかぁ?それとも、もう死んだことになってましたか?」
「・・・拗ねてんの?」
「そうですよ」
「・・・・・・・・ごめんねぇ。だって、サスケがお前を殺せるとは思わなかったからさ」
「随分過小評価ですね・・・過大評価と言ったところでしょうか?僕の腕を認めてくださってるのか、それともそのうちはの子供が、見ず知らずの人間を殺せるほど惨忍じゃないと信じてるのか、あえて聞きませんけど」
「ええー、なになに、なんでそんなに陰険な言い方?素直に受け取りなよ。なんか俺がほんとに悪い奴みたいじゃん」
「カカシ先輩は、自分を捨てすぎです」
「え、何が?」
「僕に貴方を全部くれるんでしょう?そんなどうでもいいから僕にくれるなんて投げやりな感じであの台詞が言われたとしたら、かなり哀しいんですけど」
「・・・、違うよ。だってテンゾウ、俺が欲しかったんでしょ?子供ってよくさ、欲しいの上げると泣き止むじゃない」
「餌付けですか?」
「そうだよ」
「・・・・・・・」
「あは、また怒った。そんなに俺が大切?」
「そうです。そう軽々と、自分を犠牲にするような言い方しないでください」
「テンゾウにあげるのに?」
「そうです」
「欲しかったくせに。俺は素直なテンゾウの方が可愛くて好きだなー」
「・・・自分を大切にしないカカシ先輩は、嫌いです」
「ふぅん、そういうこと言うんだ。いいよ。生意気でも、テンゾウだから許してあげる。それより、俺はテンゾウのなんだから、大切にしてもらわなきゃ困るよ」
「・・・・・・・」
「それじゃ、今度一緒に飲みにでもいこうねぇー」
「・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・また話ずらされた・・・」

 どこまでカカヤマと言い張れるか(ただ思う〜の続き) 07.8.24



「どうにも面白くて、敵わないな」
かたりと。暗闇の先で男が仮面を机の上に置いた音が立てられた。
外ではざあざあと全ての音を食い尽くそうとでもする雨音が降り続いている。
仮面の男の素顔は、仮面をとっても、どろりと濁った空気の暗闇によって見ることは叶わない。それでも、ペインは男の方を黙ってじっと見つめていた。
「いや、適わないと言ったほうがあっているかもしれないが・・・・・・なんだ、ペイン」
「・・・いや」
ゆるりと男が視線をペインの方に向けた。暗闇にしんと浮かぶ血を溶かしたような紅の双眸が灯りを背後に立たせるペインを眩しそうに見やる。男の視線がペインに向けられると、先程と逆のようにペインが視線を男の方から外した。
「随分と、らしくないフリをしているものだな」
「らしくない?・・・ふ、今の台詞こそらしくないんじゃないか?・・・ねぇ、それじゃあ、リーダーは俺らしいって、どんなんだと思ってるんですかぁー?」
男のそっけない声が、真逆のように素っ頓狂な声に変わる。暗闇を通してくるくると変わった空気に、ペインは顔を顰めた。
「別に仲良しこよしでいたいなんて可愛いこと、流石の俺でも言いませんよ。でも、噂で聞いてたよか、フレンドリーな組織で逆に吃驚ですね。忍の集団っていうよりは、変人の集まりって言った方がぴったり来る気もしますし」
「・・・・・・・分かってるだろう」
べらべらと喋り続ける男の言葉を遮って、ペインは低く押し留めるように呟いた。
「いつお前が行動を始めるかは俺がとやかく言う気は無いが―――お前が暁に入っている以上、その時のまとめ役は俺だ。わざわざ足並みを崩させるような真似はしないで欲しい。俺も目的がある以上、お前に反感を買わせたいとは思わん」
「はいはい、分かってまーす。先輩立てろって言うんでしょう?いいですよ別に。それもまた、面白いですしね」
男は暗闇の中で、ゆっくりと微笑んだ。
「貴方の下に居る限り、リーダーの命令はちゃんと聞きますから、ねぇ?」
「・・・・・・・それなら、お前は少し黙ってろ」
ぽつりと呟かれたペインの言葉に、暗闇の先で男が言葉を止める。少しすると、あはははは、と実に楽しそうな笑い声が室内に響いた。
「ふ、ははは。・・・・・はーい。すみませーん」
「・・・・・はぁ・・・」
くすくすと未だ途切れない笑い声に、ペインは疲れたように部屋の壁に寄りかかった。
雨音は途切れず降り続いていたが、先程よりは勢いが収まったようで、暗闇の中で男は仮面を片手で持ち上げると、こらえきれずにペインを嘲笑うように一度だけ、「良いやつだなぁ」と呟いてみた。
返答は雨音で掻き消される。

 トビとリーダー 07.8.28



 成長期の時のテンゾウはといえば、それはもう悲惨なものだった。
 体が一気に変化を遂げるため、封印なんてのもあまり意味も持たず、夜は一睡も出来ない日が何日かあったほどだ。
 チャクラの暴走を最低限に留める地下の個室で、テンゾウと綱手様と暗部二人以上で夜を過ごす。
 腕やら目やら足やらから兎に角植物が生え続けて、もはや体半分が木に覆われた状態で朝を迎えることもあった。
 叫んで喘いでもがいて苦しんで。
 今はもうそんなことは無いけれど。
 ここだけの話、あの頃のテンゾウに俺は欲情していた。

 カカテン 07.9.01



ぐっ、と小さく嗚咽を上げる背を、黙って見る。
四方に張った結界から中に入れば、恐らくテンゾウの苦しむ背中を摩ってやることはできるだろうが、しかしけして助けることにはならないだろうと思いなおし、岩に腰を下ろしたまま、テンゾウが肩を震わせるのを見守る。
先程喀血して地面を濡らした赤い血溜まりから、まるで養分を吸い取ったのかと思えるように、ぷつりと緑が頭を出してきた。
赤い地面から溢れ出るその緑の中に、苦しむ男が一人。
シュールな絵だとぼんやり思いながら、周りの気配をうかがう。
こんな、敵地に近い場所で発作が起こるとは、人手不足だからといって連れてくるべきではなかったなと思い返しながら、それでも男は声を上げないように懸命に声を殺していた。ここは流石に忍としてかと感心するも、それでも辺りからいつ敵がやってくるかわからない。
「テンゾウ」
「・・・・・は、」
ずりっと音を立てて、テンゾウが身を起こそうと体を捻った。
微かにその顔を伺い見ることが出来て、顎まで真っ赤に染めたその体が、恐らく想像できないほどの激痛に襲われているのだと思えて、少しだけ言葉を途切れさせた。
「平気です、せんぱい」
かすれた声が、ゆっくりと笑って見せた。
「いざとなったら、即座に切り捨ててください」
むしろ、そうなることを望んだような声音に、俺は何言ってんのと嘲笑うと、恐らくテンゾウには呪いの言葉だろうと思いつつも、優しく言ってあげた。
「お前には、傷一つ付けさせたりしなーいよ」
「・・・・・・」
引き攣ったその顔に、満面の笑みで返してやれば、憎憎しげに、「ありがとうございます」と笑って返すのだ。俺を預けさせた、健気な後輩は。

 溜まってるんだぜ 07.9.21
2007/10・03


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