■くっつきむし
 「ねーアスーお花見行こうよー」
 「そうだぞ街。桜もあんなに綺麗で双識君もこんなに可愛いんだから桜見に行かない選択肢は無いだろうが」
 ふわりと窓から入ってきた風が桜の花びらを飛ばして部屋に入る。それを睨みつけて、軋識は「人識でも連れて行ってこい」と、ヤケクソ気味に叫んだ。



 そういや去年はトキと一緒に花見酒を飲んだ気がする。と軋識は物思いに耽りながらも画面を凝視して指を動かす。
 「おい街、聞いてるのか?」
 「っだーうっせぇな白髪ボケ!元はと言えばテメェがギリギリに仕上げて持ってくるからじゃねぇか!」
 蒼い暴君に頼まれていた仕事をつい昨日終わらせたのだと嘯いてきた壊し屋は君なら一日で仕上げられると信じているよ!と爽やかに言い放った。
 湧き上がるこれは殺意だ。
 軋識は苛々するのを押さえて処理に没頭する。
 その時、背中に重みが加わって、首に腕が回された。黒いスーツを睨んで首に頭を擦り付けてくる双識に声をかける。
 「おい馬鹿。お前、何やってるっちゃか」
 「うーんうーんアスが冷たいよー行こうよーお花綺麗だよー」
 「くでぇ!」
 「痛い!」
 手は離せないので首だけ動かしてで頭突きをした。ぐわん、と頭に衝撃が鈍く走って、背中にのしかかる重みが離れた。しかし気配は直ぐ背中に居る。
 軋識はついに振り返っておっさんどもを罵倒する。
 「いい加減・・・って顔赤っ!」
 「ふふふ、駄目じゃないか双識君。街は冷徹人間だから近づいたら怒られちゃうよ」
 「兎吊木お前はさりげなくレンに手ぇだすんじゃねぇっちゃ!」
 「えーん痛いよ・・・」
 よよよと泣き崩れて顔を両手で覆う双識の隙間から覗く顔は火照っている。両手を広げて崩れ落ちる双識を抱きしめて兎吊木が至極幸せそうに頭を撫でた。
 「あーもう可愛いなぁ双識くんってば」
 「うっざ・・・!!」
 「さぁ街もCome in!」
 「テメェも出来上がってんじゃねぇよ!」
 ふと気づくと空き缶がゴロゴロと散らかっている。
 この野郎・・・!花見以前じゃねぇか・・・!と軋識は心の中で毒づいた。
 「良いねぇ春!心からこみ上げるこの感情は何なんだろうね!」
 「俺に取っちゃあ殺意なんだがな」
 「違うよ街・・・それはズバリ恋!花咲くラブストーリー!」
 「ぅるっせぇな殺すぞ!」
 つかみ掛かった軋識の頭を撫でて、周りに花でも飛びそうなボケっぷりで兎吊木が笑った。
 「零崎って愛故に人を殺すんだろう?良いじゃないか。合ってるだろ」
 「家族のためにだよこの白髪ぁ・・・・・・っ!」
 殴りかかろうとした瞬間、下から兎吊木に抱きついていた双識に襲い掛かられた。
 フローリングに激しく頭を打ち据え軋識と双識がそのまま倒れる。
 「今アスが家族の愛のためにって言ってくれたよぅ・・・・私もアスのこと愛してるから!」
 「重い!キモイ!うっぜーこの変態!!テメェ頭かち割って脳味噌掻き出すぞボケ!」
 「アスー!」
 後日軋識はこの日のことをこう二文字で表した。
 混沌。
 「えっ、何、百合?百合なのかい街。よし、じゃあ僭越ながら俺がリードさせていただこうか!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「アス大好きだよー!」
 
 「うるせぇっつってんだろこの腐れボケどもぉぉぉぉ!!」







 「いや、あのですね、本当に昨日の記憶がまったく無くってですね」
 「何言ったかとか何やったかとか塵一つ分も覚えて無くって」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「それで・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・で?」
 「「本当に申し訳御座いませんでした」」
 次の日、家に入れてもらえずにマンションの廊下で軋識に並んで土下座する、地獄と破壊屋が居たとか。
 
2006/4・4


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